メモワール:第4回

To Heart(Leaf)

2005年10月18日

 私が最初にゲームをプレイしたのは、1997年5月のこと。その1年半前にWindows95が発売され、PCに対する敷居が劇的に低下したものの、まだパソコン雑誌が多数発売されていたように“初心者”が溢れかえっていました。かくいう私も、それまではワープロソフトや表計算ソフトを使っていただけだったところ、自前のPCをいろいろといじくってみようか、という気にぼつぼつなり始めておりました。しかし、ゲームに触れることなかりせば、あのようにコンピュータシステムに対して深く入れ込むことなどなかったのではないか。今から考えると、そのように思えます。

 『To Heart』は、Leafというブランドがメジャー化するようになる契機でしたが、私がPCシステムをカスタマイズしようという気になる契機となるゲームでもありました。

 電気街に訪れた春一番。こう書いてどのような光景を連想されるかは人によってさまざまでしょう。1997年にかぎっていえば、それは『To Heart』の店頭用オープニングデモのことを指すという点で、当時を知るプレイヤーであればほぼ同意していただけると確信します。

 私が電気街(主に新宿西口)に出入りするようになったのは1997年2月末のことでした。その当時からだったか、あるいは春が本格的になってからだったかまでは覚えておりませんが、『To Heart』のオープニングデモが、さまざまなショップの店頭で流れていたのです。

 今では、ショップの店頭にテレビを置いてデモを流すなどといった光景は、ちっとも珍しいものではありません。また、そのころからこういうデモンストレーションが行われていたのかどうか、その点も定かではありません。しかし、『To Heart』のそれが大きく印象に残るのは、季節感あふれる桜吹雪のアニメーション、そして、クリアなヴォーカルで彩られた主題歌、この2つのためです。

 PC-98などのDOSをベースとしたゲームでは不可能に近かった、今では控えめとさえいえるアニメーションの美麗さに、ちょっと足を止めてみたという人は、私だけではなかったはず。さらに、当時の水準では出色だったといえる主題歌「ブランニューハート」。この相乗効果はきわめて大きいもので、購買意欲をずいぶんと煽ってくれました。

 『To Heart』には、オープニングの「ブランニューハート」のほか、エンディングに「あたらしい予感」というヴォーカル曲がついています。何度も何度も聴いているうちに、だんだん飽きがきてしまいましたが、ゲームのプレイを始めたころは、それこそ毎日のようにリピートしていました。

 それまでプレイしていた『痕』のサウンドも気に入ってはいたのですが、これはあくまでもゲームと不即不離の関係にあるという認識がベースにあり、サウンドそのものがどうのこうのという発想にはいたりませんでした。しかし、この『To Heart』は、ヴォーカル曲の威力抜群、これ単体で何度も聴きたくなったものです。サウンド再生モードはついていたものの、これをPC以外のプレーヤーでも再生できないだろうか、と思ったわけです。

 現在では、iPodに代表されるポータブルサウンドプレーヤーが花盛りですが、当時はMDプレーヤーが中心でした。しかし、MDに録音するにはCDが必要。そうなると……となり、その数ヶ月後にCD-Rドライブを購入することになってしまいました。SCSI-II対応のRicoh製2倍速ドライブで、キャプチャ能力も書き込み能力もごく平凡なものでしたが、相当に高価なものだったと記憶しております。かなり乱暴な使い方をしたこともあって、2年ほどで壊れてしまいましたが、いわば入門機としては、それなりに適切だったといえましょう。ちなみに当時はATAPI接続は一般的ではなく(USBやIEEE1394接続など存在していませんでした)、高価な機種で最高4倍速、CD-RWがやっと出回り始めたという段階でした。

 ゲームとしての印象は、さほど鮮烈なものではありませんでした。それまでにプレイしていたゲーム――とはいっても、両手で数えておつりがくる程度でしたが――の多くは16色だったので、華やかだな、という印象があった程度です。何の疑問も抱かずにタイムテーブルを黙々と作成し、二巡目から本格的に中身に入るというスタイルを取ったこともあってか、それなりに楽しかったけれど、という程度の印象だったように記憶しています。

 しかし、PCゲームというデジタルコンテンツに触れることによって、それを多種多様な角度から楽しめることを発見したタイトルとして、一種のターニングポイントとなったゲームです。『To Heart』の2つのヴォーカル曲がなければ、1997年という比較的早い段階でCD-Rを導入することなどなかったでしょうし、グラフィックボードに気を向けることもなかったでしょう。2代目以降のPCはノートタイプを除いてすべて自作機になっておりますが、もとをただせば『To Heart』に行き着きます。

 制作者の意図だの何だのとはまったく関係なく、現在のプレイヤーにとっては「?」としか思えないかもしれませんが、新しい試みに対して触発される可能性というものは、思いもかけない方向に向かうことがある。そんないい例のように思われます。

written by Ken