メモワール:第5回

くすり指の教科書2(アクティブ)

2005年10月31日

 これまで書いてきたレビューのリストを時系列で見直してみると、どうしてこれを買ったのか、今となっては不思議としか思えないゲームがあります。もちろん、手を出してしまったこと自体を後悔してしまうようなものもありますが、そうではなく、パッケージをみてどこに惹かれたのか、よくわからないものが、いくつかあります。

 アクティブの『くすり指の教科書2』(1997年7月発売)は、まさにそんなゲームです。某中古ショップで購入したことまでは覚えているのですが、どうして買ったのか、さっぱりわかりません。グラフィックは当時の水準でも野暮ったさが拭えず、色とりどりの女の子が並んでいるさまは、キャバクラか何かを連想させ、恋愛ものとしてはパンチに乏しいものでした。まあ、実際に買ってプレイしてみると、それなりには満足できたのですけれど。

 主人公が、夢の中で女の子と会話を交わすが、その相手がわからない。そんな出だしだったと記憶しています。しかし、夢うんぬんというのはストーリーの中ではまったく関係ありません。のち、2000年5月に発売された『Hello Again』は、『くすり指の教科書2』のイントロを拝借したのでしょうか。

 閑話休題、その後女の子がわらわらでてきて、行動パターンによって対象を絞り込んで……という、デザイン的にはオーソドックスそのものな恋愛ゲームです。変わっているといえば、主人公とヒロインの2人だけで話が完結するのではなく、必ず第三者が絡んでくるということでしょう(救済キャラは例外でしたが)。「そこまでして三角関係にこだわるのはどうかな」とみるか、「一筋縄ではいかないようにキャラをうまく組み合わせている」とみるか、このあたりは評価がわかれそうです。しかし、キャラのリレーションシップをきちんとまとめた結果、各キャラが完全に記号化してしまい、生身のキャラが動いているようには思えなくなってしまったのが残念です。

 ……とまあ、このあたりのことは、レビューで書いていたかもしれませんが(文面はあえて確認していません)、それ以上に印象に残ったのは、音声でした。

 前述のとおり、三角関係がお話の基本になっているぐらいなので、単なるこそばゆいラブラブストーリーにはなっていません。どのヒロインもいろいろなものを背負っており――「甘ったれんな」と言いたくなったヒロインがいたようないなかったような気もしますが、それはさておき――、したがって、純粋な萌えゲーとは言い難いといえましょう。

 それでも、ここぞというときにヒロインがしゃべってくるときのパンチは、なかなかのものがありました。しかしそれ以上に驚いたのは、デフォルトでは主人公の音声もオンになっていることです。したがって、主人公が何かをひとりごちれば、それがそのまま音声化されてスピーカーから流れてくるのです。

 これには、たいへんな違和感がありました。なにせ、このゲームの中で描かれている世界は、あくまでも主人公の目を通じているもののみであり、あるシーンになるとほかのキャラクターがセットアッパーとして登板ということはありません。主人公は、最初から最初まで、ゲーム世界における視点提供者であり続けるのです。ところが、その立場で声を出されると、ゲーム世界における主人公――特権的なポジションを持たされた存在――が一気に相対化されてしまいます。ただでさえ独白調の説明文が多く、口に出している文と出さない文との線引きが曖昧であるだけに、主人公の声が入るだけで、一気にゲーム世界が色あせてしまうように思えたものです。

 今では、音声のないゲームのほうが圧倒的な少数になっており、ボイスを入れるか否かといったことは、もはや議論の余地にさえならなくなっています。しかし、『くすり指の教科書2』が出た1997年は、18禁ゲームのプラットフォームがWindowsへと完全移行した年でした。ゲームの音声化は、これと軌を一にしているといってよかったのです。そういう時期だからこそ「とりあえず音声があればよい」といった空気があったという面も否定はできないかもしれません。

 演技の巧拙、テキストの巧拙といった要素もさることながら、音声はゲームを壊すことにもなりかねないことを、実感したゲームであります。

written by Ken