恋姫 -Mystic Princess- シルキーズ

1995年5月26日発売
1999年12月26日発売(Windows95/98版
ご意見などは掲示板へどうぞ

 あるし日の遠い想い出を美化し、それを心の中にひっそりとしまいこむ。人という生き物は、記憶というものの扱いに対してはなはだ不器用であるために、こういった作業を知らず知らずのうちに行っているわけですが、「昔追いしかの山」の実体を目の当たりにしたとき、その人はどう動くのでしょうか。

 「ちょっとあったかいほのぼのゲーム」として、いろいろ人様から薦められることの多かった『恋姫 -Mystic Princess-』。PC-98版よりも先にAT互換機版が出たという、私にとっては好都合なゲームでありましたが、なかなか入手が難しく、結局プレイしたのは、Windowsリメイク版が出たのちだったという状態(^^;)

 Windowsリメイク版発売のニュースを聞いた後になってからDOS版を「新たに」プレイされる酔狂な人もまぁいないだろう(いらっしゃいましたが(^^;;;)ということもあって、レビューを書いてみました。Windows版をプレイされた方は、DOS版との比較をなさるのも一興かと思います。

 ただ、DOS版パッケージの女の子たち、なんだか眼が非常に怖いんですけれど(^^;)

※このレビューは、PC-98 DOS版をエミュレータ「ANEX86」でプレイして書いたものです。また、このレビューは、Windows版を未プレイの状態で書いています。したがってバージョン違いによる比較は行っておりませんので、ご注意下さい。

シナリオ

 大学の夏休み、主人公・佐々松小十郎(姓名とも変更可能)は、十数年ぶりに祖母の住まう実家へと帰省した。ときどき夢に見る、幼い女の子たちとの別れのシーン。ふと記憶の片隅に思い浮かぶ、「他の子」と遊んだというイメージ。そして、自分のことを知っているかのような女の子たちとの出会い。彼女たちとのふれあいの中で、主人公は、自分が失った過去を再び取り戻しつつ、自分と彼女たちとの新しい関係を探っていくことになる。

 

 完全にフォークロア的な世界なのですが、すでに「日常」という空間の中においては失われてしまった「何か」をふるさとに求めるという、単純かつ平凡な想いを下敷きにしているだけあって、それが非現実的なものであることは百も承知の上で、すんなりとストーリーに入ることができます。こういった「非現実的な自然さ」が、どの程度まで一般的に受け入れられるかはわかりません(「ふるさと」願望自体は、別に日本人に一般的なものとも思えませんから)。しかし、「非現実的な自然さ」というのは、実に難しいと思うのですね。「非現実」を描こうとすれば、どうしても「現実」と離れて「身構える」ということが入ってしまうのですが、『恋姫』でのシナリオ展開には、「身構え」は一切不要。「日常的な非現実」に基づく存在が大集合するのに、全然怖くありません(いや、おっかないキャラはいるけど(^^;)

 そしてまた、この独自世界の描写それ自体が、あくまでも「後景」として「味を出す」存在に徹し、その「世界」をあれこれと詮索したいという好奇心を不思議と抑え込む形でなされている点にも注目できましょう。つまり、「現代人にとっての憧憬としての非現実」というものは、あくまでも「舞台」に過ぎず、それ自体がテーマとなっているわけではないと思われるのです。非現実を扱う場合、その逸脱への潜在的欲求に訴えるもの、ギャグで押し切るものなどはしばしば見受けますが、このように柔らかい「舞台」となり、ふんわりとストーリーを受け止めている例として、評価したいと考えます。

 

 さて、上のような「舞台」の中で展開されるストーリーは、まず主人公が故郷において女の子たちと再会する前半、そしてそれを踏まえて進む後半へと二分されますが、全体を通じてみると、やはり女の子たちとのラブコメがほのぼのと展開されている、と見るべきでしょう。

 ハッキリ言って「ラブストーリー」がまるで存在しておらず、主人公の煩悩によって話が進んでいるという感じでありますが(^^;)、そこにはドロドロしたものを介在させず、最後まで明るいノリが続きます。緊張させるシーンがあるかと思えば、エンディングによってはほんのりと哀しさを感じさせるものも用意されるなど、ダレを感じさせないテンポの良さはなかなかのものです。

 

 主人公の行動や言動がおバカである、というのは、もはやパターンの1つとして定着していますが、よほど外道な行動を取らないかぎり問題ありません。そういえば、これほどまでタコ殴りにされる主人公というのも珍しいですね。私は『晴れのちときどき胸さわぎ』(カクテル・ソフト)を連想してしまいました。もちろん、殴られ回数カウンタなどありませんがヾ(^^;

 かわいい女の子には何の節操もなく手を出しまくる。この種の主人公に嫌悪感を抱く方は、とにかく避けておく方が無難でしょう。しかし、軽いラブコメで「暗い影」を感じさせない、そして主人公がよけいな十字架を背負うこともない、そういう「徹底した明るい世界」を満喫できる雰囲気を、私は何よりも楽しむことができました。

 

 一方、4人いるヒロインの女の子たちも、それぞれ独特の感情と表情とを持ったキャラクターで、みな別個の魅力を持っています。さらに、どの子も、相互には親友であり、なおかつ主人公に対しては「目に入るのはあなただけ」状態。非現実世界ここに極まわり、ですが(^^;)

 すべてのヒロインたちを(Hするしない以前の段階で)最低1回ずつは泣かせてしまう、という展開になるのですが、これには非常に斬新なものがありました。ハードルを最初に見せておいた上で、彼女たちの「心のしこり」というものを削いでいき、それでもあなただけ、という展開がスマートに出されているのは、実に見事なものです。

 

 さらに、前半部分で「キャラクター描写」を事実上完成させた上で、後半部分で「キャラクター設定」の整合性を説明させる、という手法を取っていることもあって、ヒロインたちは誰一人として埋没することなく、それぞれが独自の「顔」を最後まで持ち続けてくれたのもマル。「みんな仲良しさっ」で済ませてします潔さがプラスに働いている、といえましょう。4人に絞り込んでいるという面もありますが、4人もいれば1人ぐらいは「あんた誰?」なキャラが出るゲームが多いのが現実なのですから。

 もちろん、全員が「のほほん」キャラというわけではなく、相互に火花を散らし合ったりするなど、いろんなアクションを見せてくれますが、皆が皆それぞれの方法で「いじらしさ」を出してくれるのがいいですね。

 

 また、エンディングの置き方も、なかなかオツなものと感じます。後半に突入してのハッピーエンドは、各ヒロインごとに1つずつと、大団円とがあるわけですが、後者の場合、主人公にとってどこまでハッピーなんだか(^^;)

 ただ、すずめのエンディングは、ちょっとアンマリでないかい、とは思いましたけれど。

 「ヒロインの想い」を、主人公が確実に受け止められる体勢になって、そしてハッピーエンドになる。この展開がきちんと出ているのが、やはりいい点でしょう。

 一方、前半だけでも「結ばれて終わる」エンディング(ハッピーエンドといえるかどうかは微妙)がありますが、ここでは、「記憶」というものが絡んできます。詳細に立ち入るのは控えますが、人が「記憶」を失うということが、どれほど重たいことなのか、それを、このゲームは、暗黙のうちに伝えてくれているように思えます。メインテーマになっているわけではありませんが、「幼い日の記憶」というテーマは、ネタにしやすそうでしにくいものですからね

ゲームデザイン

 ゲームオーバーを除けば、14のエンディングが存在します。基本的なシナリオ展開は一本道で、エンディングで誰か1人を選択、というスタイルなので、すべての女の子に手を出すような方向で話を進める必要があります。

 ゲーム進行は、基本的にコマンド総当たり方式です。先に進むために選ばなければいけない選択回数は結構多いので、多少じれったさを感じたのは確か。分岐となる選択肢が出るのは、事実上2個所だけです。

 イベントの発生も、話を進めていき、女の子に対してつれない態度を取らなければ、まず問題ないでしょう。難易度自体はさほど高いものではありませんが、意外と見られずにハマるエンディングがある可能性はありますね。

 

 ただ、終盤になると、戦闘シーンが出てくるのですが、正直言って面白くありません。戦術的な面で頭を使う必要はまるでなく、負けても経験値が上がるだけでゲームは継続します。何度か負けてレベルアップすれば、そのうち勝てるようになるという仕組みです。それまでのテンポのよさをここで敢えて断ち切る意味は、私には理解できません。儀礼的に戦闘シーンを入れる程度にして、さっさと勝てるようにしておく方がいいと思うのですけれどねぇ。

操作性など

 画面表示は、640×400で表示されますが、カラーモニタとモノクロとを選択できます。時代を感じさせますね。

 画面は、メッセージウィンドウが右部に作られ、ここにテキストが縦書き表示されます。1回に表示されるテキストは多くても3行程度ですが、特に違和感はありません。縦書きテキストといえば『桜色の手紙』(BlueBell)のような事例がありますが、あちらはビジュアルノベル的なボリュームでテキストを大量表示するスタイルだったので、ちょっと比較にはなりませんね。画面中に出ているキャラクターが話をする場合は、メッセージウィンドウがフロート状態で表示されます。また、一枚絵CG表示中はテキスト表示が横書きの白フォントとなりますが、これはかえって読みにくいように思えます。フォントといえば、要所要所で拡大フォントが多用され、これがアクセントとなっています。また、画面全体が、演出効果のために上下にガタガタと揺れるケースが多いのですが、ちょっと多用しすぎという感じです。

 キーボード・マウスの双方が使用可能ですが、メッセージを読み進め、選択肢を選んでいくだけなので、キーボード操作が中心となり、それも選択はカーソルキー左右移動で間に合います。このため、かなり軽快にプレイできます。

 セーブ&ロードは、「絵日記を描く」ことで、要所要所で8個所まで可能です。しかし、セーブ時の情報が明記されないので、どの地点でセーブしたのかがわかりにくくなるのはちょっと残念です。

 メッセージ速度調整は、CapsLockによって、高速(ノーウェイトではない)・低速を切り替えることができます。また、「Ctrl」キー押下によって、メッセージスキップ可能ですが、選択肢がかなり多い上、既読・未読の区別もないので、あまり多用することもないでしょう。

 ゲームを1回クリアすると、CGモード(電脳画の部屋)・BGMモード(音楽の部屋)・終了番号の確認に入ることができます。CGモードでは、一枚絵CGが順次一枚ずつ表示され、未見CGの枚数も確認できますが、どんなCGを見ていないのかがわからないのが残念。BGMモードは曲名つき。回想モードはありません。

 非常に残念なのは、スタッフロールが出てこないこと。ゲームを起動すると、まず「しるき〜ず うぃず すぴんあうと」という文字は出ますが、ちょっと寂しいですね。何度も何度もスタッフロールを見るのもあまりおもしろくはないのですが、トゥルーエンドおよびそれに準ずるエンディングの後には、スタッフロールが見られるようにしてほしいものです(見る・見ないを選択できればベスト)。

サウンド

 FM音源で演奏されます。エミュレータでプレイしているので音質については何も語れませんが、和風のアレンジというものをうまく出していたと感じます。オープニングテーマの「愛しき女性」を初めとして、「まゆき」「あんず」「遠き日々」「静氷」など、非常にいい曲が多いですね。ノリの良い曲よりも、座布団に腰を下ろしてミカンでも食べているときに流れたらよさそうな曲の方が好みです。

グラフィック

 キャラデザは、かなり個性的といいましょうか、眼に独特の「存在感」を感じさせるものになっています。目パチなどの小アニメあり。

お気に入り

 まゆきですね。オープニングで出てきたまんまるおめめに射止められてそのまま石化(注:まゆきはメデューサではありませんヾ(^^;)。他の女の子と違い、主人公のことしか目に入っておらず、本当にラブラブ一直線なので、手が出たり包丁が出たりする誰かさんたちよりよっぽど怖いのですが。

 サブキャラの味も、実にいいものがありますね。その筆頭に位置付けられるのが、ほかならぬ「ばあちゃん」。すべてをお見通しの恐るべき感覚、熊がどーのこーのという話を目にすると、『Kanon』(Key)の秋子さんも敵ではありませんね。

 また、各ヒロイン達の父親母親じじいたちも、それぞれの「顔」をきちんともっています。静氷さんなど、なんだか暖かさを感じてしまいました。別に、攻略したいとか親子丼希望とかは思わず、素直に「こんな人が受け止めてくれたら」と思えたキャラクターとして、かなり珍しい部類に入るかと思います。

関連リンク先

 DOS版をベースとしたレビューとして、蓼原シュンさんSHEOさんのレビューを挙げておきます。

総評

 決して「名作」といえるほどのシロモノではありません。このゲームにしかないメッセージ性があるわけではないですから。しかし、ほのぼのとした雰囲気を、陰にこもることなくまとめ上げている点で、十分に佳作といえましょう。

 また、多少「古くさい」と感じさせる点が多いのも確かです。でも、「なんとなくあったかい」味わいがある、「他にはないゲーム」であることも確かでしょう。土と藁の香りにふと郷愁を覚えたときにプレイしたいゲーム、そんな風に思います。

 ソフトタッチのシナリオ展開に、疲れた気分を癒すのには適当なゲームですね。

個人評価 ★★★★★ ★★☆☆☆
2000年1月4日
Mail to:Ken
[レビューリストへ] [トップページへ]