卒業写真/美姫 カクテル・ソフト

1992年3月発売
ご意見などは掲示板へどうぞ

 ゲームのカテゴリを説明する際に“恋愛ゲーム”という括りをする場合が多いかと思います。この場合、ゲームの中で恋愛を描いているもの、という漠然とした定義以上のことをするのは無理でしょう。しかし、恋愛を描くといっても、ゲームの中で主人公とヒロインとの恋愛模様を描き、最終的にその2人が結ばれるプロセスが描かれていく、というものが大半です。しかし、恋は人を熱くさせるいっぽう、人を弱くしてしまうこともあるでしょう。また、本来ならば当人たちの意志ですべてを決められることであっても、最終的に踏み出すことができない場合もあるはずです。

 恋愛ゲームというと甘ったるいお話だったり、それを裏返した修羅場モノだったりするものと決めてかかってはいけない。そんなことを暗に示しているのが、ここで取り上げた『卒業写真/美姫』です。

 非常に古いゲームですが、掲示板および「EP−ROMの昔話・その29」にてEP−ROMさんが紹介されたことに触発されてプレイしたしだいです。実際には「卒業写真」と「美姫」の両作品のカップリングとなっています。PCエンジンに移植されているそうですが、こちらでは主人公が別のヒロインに“公式に”乗り換えられるなど、いろいろと妙なところに変更が加えられていそうです(が、詳細はわかりません)。

 実際に思ったことは、正直なところ、EP−ROMさんが「昔話」で書かれたものと大差ないのですが(^_^;)、一応自分なりのことばでまとめるのがスジというものでしょう。

※このゲームは、年齢制限のない一般ゲームです。

シナリオ

「卒業写真」あらすじ

 主人公は、クラスメートの香村宏美と付き合っていたが、夏にちょっとしたことで行き違いを起こしてしまった。お互い気まずい思いを抱きつつ、主人公はなし崩しにほかの女の子と付き合ってしまう。しかし、心の中では香村に対する思いを抱え続けていた。卒業式の前日、それまでの曖昧な状態にケリをつけるべく、香村に自分の思いをぶつけようとする主人公だったが…。

自業自得? それが自然でしょう

 第一印象は「切ない」、これに尽きますね。

 このゲームの主人公は、理性的な行動をなかなか取ることができず、ずいぶんとネガティブな発想にとらわれる傾向があります。優柔不断なロマンチストといえば聞こえはいいのですが、客観的にみると、ずいぶん情けない主人公ではある、といえるでしょう。

 しかし、主人公の取った行動がどうのこうという以前に、抱いている/抱いてきた想いが本物だと思い、それをお互いに告白しあったとしても、それでもなお結ばれることがない。こういった“すれ違い”によるやるせなさは、ある程度以上の年齢――具体的には、この種のゲームをプレイできる年齢――以上の方なら、大なり小なりピンとくるものでしょう。

 恋物語の1つの終わりとして、こういったスタイルを取ることそのものに、是非が分かれることは十分に予想できます。しかし、極限状況に対して滂沱するばかりが、“切なさ”の形態ではないでしょう。むしろ、想いがすれ違う状態が続いてしまい、それがもたらした結末など、過去を見れば後悔の連続になりそうな状況こそ、きわめて現実的な“切ない”状況ではないでしょうか。

ヒロインの心理描写

 主人公の視点よりも、主人公やほかの登場人物を介して、ヒロインである宏美の心の揺れを描き、それによって、エンディングで示した結論が、やるせなくも美しいものに仕上がっています。ゲームの開始は、宏美が「思い出 −ALBUM−」のうえに手を載せている画面から始まるのですが、恋愛経験を“思い出”へと押し込めていく過程を、その相手の視点から示すことで、流れを美しいものにしています。

 うがった見方をすれば、エンディングにおいて、ヒロインが最も光り輝く手法を取った結果、このようになった……そのように考えることもできるでしょうか。

 また、主人公とヒロインの共通の友人である、永山、両川、林といったクラスメートたちが、決して単なる道化にならず、ヒロインの心理を間接的に伝えるメッセンジャーになっている点も見逃せないでしょう。

「美姫」について

 あらすじは、EP−ROMさんの「昔話」のほうに譲ります(笑)。単独であれこれいうほどのものではありません。

 特にヒネリがある話ではないのですが、過去を変えることで悲劇を回避するための、1つの例解を提示しているとみるのが自然でしょう。単純に「卒業写真」のハッピーエンド版になっているわけではないのですが、時間制限のなかで取った行動が運命を変えた……私には、そのように思えました。

ゲームデザイン

 「卒業写真」「美姫」とも、コマンド選択式のアドベンチャーゲームです。1つ1つイベントを総当たりにしていく必要があるので、実際にかかる時間の割に手がかかるように感じました。

 「卒業写真」は、おそらく完全な一本道で、難易度はなきに等しいでしょう。「美姫」は1個所ポイントとなるところがあり、そこをクリアすればあとは一本道で、これも簡単です。プレイ時間を単純に合計すれば、2時間程度でしょうか。もっとも、ゲームの入手やプレイ環境の構築のほうが、はるかに時間がかかると思いますけれど。

不具合・修正ファイル

 私のプレイ環境では、特に不具合などは見つかっていません。

デモ・体験版

 そんなもん、あるわけないです。

操作性など

 画面は画面下部がメッセージ領域、右側が「卒業写真」ロゴ領域で、残りの3分の2程度がCG領域です。基本的にキーボードで操作を行い(マウス操作も可能)、コンフィグ可能なオプションはほとんどありません。セーブ&ロードは、一部の選択肢登場個所で3つまで可能です。

サウンド

 FM音源に対応しています。私はPC-98エミュレータ上でプレイしたのですが、最初のうちは軽い感じの曲が多いものの、だんだんサウンドの質が重いものへと変化していきます。そして、ラストの高速道路で2人きりになったシーン、そしてお互いに思いをぶつけ合うシーンでそれぞれかかるBGMは、すばらしいの一言に尽きます。EP−ROMさんは「F&C系のBGMではベスト」と評されておいでですが、納得できます。

グラフィック

 原画担当は、しらとりれいこ氏。この当時のグラフィックにしてはきわめて珍しい、水彩画調の軟らかいトーンのCGです。また、細かいアニメーションが取り入れられており、最後の最後で、宏美の目尻に溜まった涙がツーッと頬をつたっていくシーンは、現在でもなかなか見られない演出ではないでしょうか。

お気に入り

 お気に入りキャラの類を出す性質の作品ではありませんね。

総評

 ゲームの中でも、“切なさ”をウリにしているものは、少数ながらも確実に存在します。しかし、不快さや後味の悪さといったものがどうしてもつきまとってしまい、やるせない悲しさを嫌みなしに描写しているものは、ほとんどありません。この「卒業写真」は、この切なさの描写、そしてそこにいたる登場人物の心理を、このうえなく美しく描くことに成功しています。行動の理非を判断基準に据えることをせず、今へと、そして未来へと移ってゆく時の流れの残酷さを、淡々と示しています。

 その一方で、EP−ROMさんが指摘されておいでのとおり、恋愛の1つの形をみごとに描いているとはいえ、それがプレイヤーの求めるものなのだろうか、という疑問がどうしても残ります。エンターテインメントを求めるゲームのプレイヤーは、ハッピーエンドであってこその恋愛譚とか、恋愛というものは不可逆の力によって引き裂かれることで美しさを増すとか、そういう考えになるのがむしろ自然です。

 このゲームをプレイされた方なら、おそらく10人中9人が、以下のフレーズを名セリフとしてあげられるでしょう。

時が過ぎれば……きっと……思い出に変わるわ………

 これは、お互いの思いを再確認したヒロインが残したものなのですが、これを受け入れられるかどうか。ひとまず私は、自分の気持ちを把握して伝える、これができないもどかしさをしっかりと描ききったことだけをもって、良作と判断します。プレイ時間が極小ながら、これほど印象に残るゲームは、金輪際出てこないかもしれません。

個人評価 ★★★★★ ★★★☆☆
2004年8月22日
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