ビ・ヨンド −黒大将に見られてる− シルキーズ

1996年8月30日発売
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 あまり深いことを考えずに楽しめるゲームとしてかなり以前から耳にしていたのですが、しかし特に気にとめることもなく、手を伸ばさずに何年もたっていたのがこの『ビ・ヨンド』。ところが、複数の方から勧められて購入してプレイしたところ、期待していた以上に楽しめました。

 現在『BE-YOND』というタイトルで、エルフブランドにてWindowsリメイク版が出ています。私は、DOS版とWin版の両方をプレイした方から「DOS版もプレイできる環境ならDOS版のほうがいい」と言われたためにDOS版をプレイしました。Windows版では、グラフィックがハイカラーになっているほか、ムービーなどが追加されているようです。もっともこのグラフィックなら16色でも十分きれいだな、という気もしますが…。

※このレビューは、PC-98 DOS版をエミュレータ「ANEX86」にてプレイして書いたものです。

シナリオ・ゲームデザイン

 ふと気がつくと、主人公・宮本小十郎(変更可能)は記憶を失っていたうえ、なんともおぞましいバケモノになっていた。彼は簡単に星系を破壊できるほどの強大無比の力を持っており、レンというしもべを従える。ところが、彼自身は非常に謙虚であるうえ、自分の持つ力をうまく使えないため、さまざまな悲喜劇が発生する。人間には「漆黒の魔王」と呼ばれおそれられる存在になった小十郎たちの珍道中が始まったのだった。

 

 話の始まりからして、主人公が何者なのか、プレイヤーにも登場人物にもよくわからないままスタートします。この“わからない”ことをうまく使って、主人公の行動や言動を“おかしなもの”に仕立て上げています。

 話の全体を通じて、お笑いのオンパレードといった雰囲気が強いですね。内輪ネタに走ったものはほとんどなく、むしろ言葉のやりとりを通じて各キャラクターの性格を相互に確認しあうような感じがします。また、単なる掛け合い漫才だけでなく、画面を大きく揺らしたり光らせたり(このため長時間プレイしていると目が疲れてきました)することで、楽しさをさらに大きくしています。メッセージウィンドウ内のテキストを使って人が追われているさまを示す(具体的に書くと転載と化すので割愛)など、これだけ凝ったものはほかに見あたりません。

 また、主人公の口調や立ち居振る舞いが妙に古風なので、ばかばかしい結果を重々しく語るギャップも楽しいところでしょう。

 さらに、比較的細かいことですが、テキストの表示そのものにもかなり気が配られているのがすばらしい。このためにテンポがそがれることがなく、流れるように話を進めることができました。

 ただし、主人公の行動に対して中途半端に「あなたは…」と説明するのはやめてほしかった。ここだけはもったいないと思います。

 

 さらに、このゲームをいきいきとしたものにしているのが、秀逸なキャラ描写でしょう。

 主要なヒロインたちを見ていると、性格や行動パターンはステレオタイプではあります。しかし、それぞれがいずれもなにがしかの過去を抱えつつ、主人公およびその仲間と触れあうことでさまざまな表情を見せ、また終盤でそれぞれの判断を見せてくれるさまが非常にうまく出ています。主人公に絶対服従ながらもだんだんと温かい感情を見せていったり、とんでもない不幸の連続に見舞われながら自分を最後まで失わなかったり、本当の自由を求めて自分の判断で行動したりするのですが、“温かい感情”をもつ結果状況への対応がいい形でも悪い形でも人間味を帯びてブレていったり、“自分を見失わない”ために常に自分の行動をただして諌言できる立場にとどまれたり、“自分の判断”をできるキャラクターは一見奔放ながら大局的な状況判断が可能な冷静さと聡明さを持っていたりするのです。このように、キャラクターの性格と行動、変化と展開とがうまくリンクしているうえ、みな非常にいきいきとしているのが、このゲームを楽しくプレイさせてくれる理由にあげられます。

 もっとも、約一名存在感が非常に薄いキャラがいるのが難点といえば難点でしょうか。レン以外では最初に主人公の仲間になるにもかかわらず、それ以降は話の本筋にまったくかかわってこないことを考えれば、脇役扱いにしておいたほうがよかったような気もします。

 

 ただし、残念なのが最終段階での話の締めかたの弱さです。

 もともとゲームの展開そのものが、お気楽極楽に楽しく進み、また悲惨な目に遭うキャラがいてもその“悲惨さ”そのものに湿っぽさがないうえ、万事間抜けな流れが続いてきたわけです。そして、エンディング間近になると一気にシリアスな展開になっていくのですが、この転回がずいぶんと急です。

 これだけ楽しい流れが続いたのちに話をまとめること自体が難しいのはわかりますし、話をまとめる際に、主人公が抱えている根本的な謎を明かすのはある意味当然なのですが、その明かし方があまりにも急に過ぎます。チャイムの存在をもっとうまく使うなど、方法はあったと思うのですけれど。

 また、アメジストとチャイム&ベルの関係と時間の流れについての説明が最後までなかったという点も、画竜点睛を欠く感じがあります。結局、主人公の周囲で動く“時間”がさっぱりわからず、このために本来ならば感動的だったであろうシーンが「???」となってしまいました。

ゲームデザイン

 コマンド総当たり方式のアドベンチャーゲームです。「見る」「話す」といったコマンドを1つ1つ進め、途中で出てくる選択肢によってエンディングフラグが立ったり好感度が上下したりするようです。本編は基本的に一本道で10の章からなっており、最終版でエンディングが分かれる形になっています。ただし、各エンディングの分岐点となるポイントがややわかりにくく、その見極めがつかないと何度も何度も繰り返す羽目になるかもしれません。まあ何回も繰り返しても飽きないかもしれませんが(^^;

 エンディングは主要キャラクターごとに6つ用意されていますが、内容としては「レンおよびそのほか」といったところですね。エバはかなり早い段階から活躍して(させられて?(^^;)いますし、アメジストも登場が遅いながら強烈な存在感を示しているにもかかわらず、後日譚らしきものが非常に弱いのが残念。もっとも、オチをヒロインとのつながりに求めるのではなく、主人公の“素顔”を出すことに求めた以上、レンが圧倒的に強くなるのはいたしかたないのですが。

 最後に、唐突にシューティングゲームが挿入されているのですが、これの意図がどうにもわかりません。もともと私が苦手という面もさることながら、ここまで続いてきた緊張感が途切れてしまうというマイナス面を考えると、無用だと思います。一応、失敗しても何度でもリトライできるのが救いですが。

 なお、一部のシーンで『恋姫』の世界が出てきて、ばあちゃんおよび4人の娘が登場します。ただし、『恋姫』のふるさとを一部『ビ・ヨンド』の中に拝借しているだけで、本作のシナリオに『恋姫』とのつながりがあるわけではなく、完全に演出の1つとなっています。『恋姫』をプレイしていればちょっと楽しめる、という程度ですね。ひとつ残念なのは、『恋姫』のキャラデザが変わっていることですが、これは未プレイの人には関係ないでしょうし、気にしなければ済むことでしょう。

不具合・修正ファイル

 私の環境では、特に不具合は発生していません。

デモ・体験版

 いずれも、存在を確認していません。

操作性など

 FD7枚組です。特にプロテクトなどはかかっていないようなので、簡単にエミュレーション可能です。

 画面は中央部に背景表示、下部にメッセージウィンドウ表示という、DOSゲームとしてはオーソドックスなパターンです。一部のイベントシーンになると全画面表示になります。通常シーンでは、登場人物がフェイスウィンドウで画面中央に表示され(この表情がころころ変わるのがとても楽しい)、会話内容は丸みを帯びたフキダシ(マンガのフキダシみたいなやつ)で表示されます。メッセージ速度は4段階(ノーウェイト含む)で切り替えられるほか、「Ctrl」および「Ctrl+Shift」でスキップ可能です(未読/既読の区別なし)。テキスト読み返し機能はありません。

 ゲームを起動すると「NEW GAME」「LOAD」「MES」(メッセージ速度切り替え)「EXIT」「GIFT」(1回クリアしたのちに出ます)の各アイコンが表示されます。

 セーブ&ロードは、コマンドアイコンが表示されているところで10個所まで可能です(ゲーム中の章番号とセーブした実日時が記録されます)。難易度はそう高くないので、これだけあれば十分でしょう。

 「GIFT」メニューからは「CG」(CG画廊)「MUSIC」(音楽の部屋)「MUSIC」(エッチシーンの再生)「ENDING」(エンディングの確認)に入れます。「CG画廊」では各ヒロインごとにCGを1枚ずつ見ることができ、それぞれの未見CG数を確認できます。「音楽の部屋」では各ヒロインを選択することで、それぞれのキャラが百面相を交えて指揮(?)してくれるのがとても楽しいのですが、チャイムとベルを選ぶと……(笑)。曲目は誰を選んでも同じ。また『恋姫』の曲は演奏されません。「エンディングの確認」は各エンディングを再生できます。

 総じて、DOSゲームとしては非常にハイレベルなユーザーインタフェースを備えています。操作の大半はキーボードとマウスの双方で可能なので、プレイ時にストレスを感じることはほとんどないでしょう。ただし最終盤にシューティングがあるので、手首が疲れているときにプレイするとドツボにはまります(苦笑)

サウンド

 サウンド担当は「Witch」氏で、FM音源で再生されます。間抜けなシーンから緊張感あふれるシーンまで多くの曲が用意されていますが、オルゴールを用いた曲が多いのはこのころのゲームの流行だったのでしょうかね。どの曲もシーンにうまくあっているほか、切り替えるタイミングが絶妙。

グラフィック

 キャラクターデザイン担当は「磯野カヲリ」氏、原画担当は「田森直」氏。キャラデザそのものは比較的万人向けですね。

 パッケージには「豪華16色!」とありますが、色数の少なさをまったく感じさせません。DOSゲームの場合、グラフィックについてはどうしても限界を感じることが多いのですが、ジャギーも目立たず、非常にきれいです。広大な空間の中で手書きで「このへん。」と出るなど、グラフィックを演出として巧みに使っている点もたいしたものです。

お気に入り

 楽しいキャラクターが満載なので1人に絞るのは非常に難しいのですが、アメジストかな。人を引っかき回すことを楽しんでいるキャラではありますが、主人公のパーティの中で、人の心を理解する力と判断能力とを兼ね備えてしまったがゆえの性格というのがわかってしまうと、もうダメです(^^) レンやエバなどももちろんいいのですが。

 楽しいシーンは、やはり酒盛りでしょう(^^;

総評

 プロットの組み合わせや話のまとめかた、各キャラクターの物語の関わりかた、そしてギャグとシリアスとのつながりかたといったシナリオの魅力がこのゲームのキモといえます。これらの要素のどれを取っても、弥次喜多道中記といった性格の強い名作『ワイルドフォース』(フォア・ナイン)には及ばないものの、その次に位置する程度の水準になっていると考えます。プレイを進めていくときに感じられた楽しさは、まさに『ワイルドフォース』に次ぐものでした。

 オチの弱さがあり、最後で肩すかしを食らった感があるのが残念ではありますが、「楽しい、それで十分」という気にさせてくれるゲームでありました。

個人評価 ★★★★★ ★★★☆☆
2003年6月14日
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