夢幻夜想曲 アプリコット

1995年4月24日発売(DOS版)
1996年5月17日発売(Windows3.1/95版)
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 閉じた空間、という言葉を目にしたとき、人は何を想うのでしょうか。

 時、次元、時空、そういったものを超越した空間。その"外部"においては、現実に対して常に向き合わねばならない、それが人の宿命ではありましょうが、向き合うという姿勢を絶えず自分のみでつらぬき通せるほど、人は強くはありません。また、1人で重荷を背負わねばならない、と思うことも、裏を返せばそれですべてを決着させようという、思い上がった考えにほかなりません。こういった、人の持つ「弱さ」ゆえに、自分の「運命」からドロップアウトした人々。その人たちに誘われるかのごとく、手にしていたのが、この『夢幻夜想曲』でした。DOS版、Windows版とも、非常に渋く地味な作品なのですが。

※ここに記したものは、リニューアル前のPC-98 DOS版およびWindows3.1/95版をプレイした結果です。音声付きで発売された『夢幻夜想曲リニューアル』では、細部で微修正が加えられているケースもあるので、別のページでレビューをあげておきます。

シナリオ

 夏休みを利用して大自然に触れようと1人山ごもりをしていた主人公・柏木慎一(名前のみ変更可能)は、台風に巻き込まれて遭難するが、謎の洋館で一命を取り留める。館の管理人と称する女主人のもと、館にはメイドや数人の「客」が暮らしていた。この洋館から自力で外へ出ることはできず、またこの館は、時空を超越した空間でもあった。そこにいたのは、希望を見失った人々たちであったが、主人公との接触によって、少しずつ変化が見え始める。そう、主人公こそ、かの館にて「風」を起こす力をもった人物にほかならなかったのである。

 

 シナリオ担当は、三峰奈緒さん。

 設定の大元にあるのは「隠れ里伝説」とでも言えばいいのでしょうか。いずれにせよ、そこに入ったら戻れないのですが、そこに入りこんだ人々は、みなそれぞれ、背負うものを抱えています。そして、そこに紛れ込んだ「主人公」が人と接していくわけですが、そこにいる「背負うものを抱えた人」−女主人の言を借りれば「迷い子達」−は多種多彩。しかし、主人公はその「迷い子達」の悩みに触れ、それと正面から向き合うだけの「強さ」を与える「風」となる、ということになります。

 この「悩み」を描写する過程は、イベントの発生順序のうまさもあり、みごと、の一言につきます。一本道とはいえ、ノベルスタイルではなく、あくまでも「イベントを積み重ねるアドベンチャーゲーム」という形式を取っているにもかかわらず、そこに垣間見える人間模様の妙味はすばらしい。「悩みはコレだ、解決するには肌を重ねればいい」という安直な方法は論外にしても、「悩み」の描写にくだくだしさをまったく感じさせることなく、「時間のかかりそうな悩みを抱えるキャラクター」ほど、実際に「後の段階で悩みが解決される」という形をとっており、ダレが入る余地がありません。

 また、そのシナリオを組み立てているテキストは、幻想的な世界によくマッチしています。人の口から発せられる言葉としては不自然な言い回しが多々ありますが、口語でも文語でもないというような不思議なスタイル。これなかりせば、現実世界との隔絶感は希薄になっていた可能性が大です。

 そして、ぜひとも付け加えておきたいのが、時折まじえられる、深みのある言葉や名言(情けないことに、ほとんど「知らない」名言ばかり……)の数々。荘重な雰囲気を醸しつつも、決してダークに走るわけではない、その絶妙な、渋い演出は、これまで私がプレイしてきた作品中、随一のものです。

 

 シナリオの構成という観点から見た場合、初回プレイでは、短編といえるシナリオを組み合わせて一片にしている、という印象を抱いたのですが、リプレイしてみると決してそういうわけではなく、キャラクターごとに、シナリオのどの段階でどのような役割を果たすかが、緻密に計算されています(意図されたものかどうかは別として)。これは、上に書いた「悩みの解決」とも重なりますが、甲というキャラクターは悩みを早期に解決、乙というキャラクターの悩み解決にも関わる、というケースがあります。登場人物がこれだけ多いにも関わらず、キャラクター別シナリオを巧みに配置しているさまには、唸らされるものがあります。

 さらに、登場人物の「悩み」のバラエティをとっても、「そんなことで?」と思ってしまうケースから、Xゲームのシナリオで多用される"葛藤"を正面から扱ったもの(由羅など)まで、かなり幅がありますが、全員が一様に濃密な悩みを抱えていては大変でしょうし、それを「解決」してしまう主人公に「不自然さ」が上乗せされることにもなってしまいましょう。濃淡の差があることでシナリオ間のコントラストをつけている、という見方も可能ですね。

 もちろん、キャラクターそれ自体にもバラエティがあり、楽しいんですけどね。メイドさんからキャリアウーマン、タフではあるけど精神年齢は低いガキ、屈託のない人形のような和服美少女、文字通り幻想的な月下の美人、ロングヘアにリボンの少女、蜂蜜色…ぢゃなく(^^;)金髪のロリ娘。典型的とされるパターンでいえば、「眼鏡っ子」や「同級生的キャラ」以外は大抵そろっている、といっていいでしょうか。

 

 舞台の設定の中には、かなり疑問を抱いた点も、確実にあります。まず、「館」の存在理由、そして、現実世界との整合性という面に関しては、一切の説明が省略されています。しかし、この「独自世界」での「人間」が緻密に描写され、館の存在理由は後衛にまわっており、「謎」という印象は、ゲームを進めていくうちに、霧消しました。

 「幻想的な世界」の中における物語展開、そこに残されたままとなる数多くの謎や矛盾というものは、それがあるからといって、物語の評価を大きく下げるものではないでしょう。夢幻の館における「風」を起こし、それに乗っていく雰囲気をうまく醸し出しながら、薄もやのかかったような世界を浮遊している快感。それにひたることができる世界であれば、「謎」のほじくりかえしといった野暮はひとまず置いておきたい、そんな気にさせられるシナリオです。このあたりは、たとえばひたすら「読ませる」ことが中心になっていた『』(Leaf)とは異なり、「館の住人」の間で交わされる「会話」がベースとなったシナリオゆえの持ち味、といってよろしいでしょう。

 

 気にかかるのは、Hシーンへの強引な展開です。もちろん、Xゲームという「前提」がある以上、その手のシーンをどう位置づけるか、という作業が必要なのは確かなのですが、それぞれの設定に関し、少なからぬ無理や違和感を感じさせるところがあまたあります。

 キャラクターによっては、そこでHシーンを入れないと話にならない、肌を重ねるのがごく自然でありそうすることによって「救い」の契機が起こる、という場合もあります。しかし、「取りあえず事態は解決した、さぁHしよう」といったノリのものがかなりあり、興ざめでした。この状況で体を交えることで、問題が解決するのか?いや、それどころか、この状況下で、女の子をよくまぁ抱けるもんだなぁ、という心境になってしまうシーンもあります。具体的に言えば、人魚姫や沙里には必然(それどころか、ファンタジーとしてのストーリー展開上不可欠)だったでしょうが、由羅や雪菜には必要だったかどうか。特に「性教育」など、無理に押し込んだというイメージが拭えません。

 これを解決しようと思えば、「Hシーン必須キャラと回避可能キャラとを分ける」という方法が妥当なのでは、と思います(この手法は、後に『カナン』で採用されていますが)。そして、回避可能なキャラでHシーンを選択した場合、彼女とのエンディングになる、とか。原作品のままだと、「一通りいただきました」という印象がつきまとってしまい、後味の悪さが拭えません。深紗緒を見ればわかるとおり、肉体関係が脱出の必要用件になっているわけではないのですから、するかしないかを選択可能にしてほしかったもの。

 まぁ、Hシーンになると主人公の人格が変わる(^^;)という気もするのですが、これは『痕』などとも共通する課題。「ファンタジーとして読ませる物語」である以上、雰囲気を壊さないような導入が欲しいところです。

 

 それから、以下は「致命的な問題点」ではないと思うのですが、エンディングに御都合主義的なものを強く感じます。いえ、館から連れて出られる人数がうんぬん、というのではなく、どのエンディングに至っても(極度に悲惨なエンディングを除けば)予定調和的なハッピーエンドとしか言いようがありません。キャラクターによってはエンディングパターンは複数用意されているのですが、館に棲む「迷い子」の悩みを根源から解決しようとした場合、悲劇を伴う形でしかありえない「トゥルーエンド」がほしかった、と思わせるシナリオがあります。エンディングの時点で、呪縛から解放されたキャラクター、あるいは、解放も時間の問題というキャラクター「だけ」ならば、ハッピーエンドでいいでしょうけれど。

 

 なお、DOS版とWindows版とでは、ある部屋のメッセージで、DOS版では「中に入れるが画像がない」Windows版では「部屋に入れない」となっている(原文のままではありませんが、だいたいそういう意味です)だけで、あとはまったく同じ模様です。

ゲームデザイン

 一本道、コマンド総当たり方式のアドベンチャーゲームです。マップ移動になっていますが、隅から隅まで足を運び「見る」「調べる」コマンドを選択しなければならないのは、非常に苦痛でした。最初にプレイしたときなど、いつまでたっても「扉はかたく閉ざされている」「扉には鍵がかかっている」ばかりで、放り出したという経験もあります。移動の際には時間の概念はないので、しらみつぶしでクリアできるのですが、かなりプレイに時間がかかります。ちなみに、リプレイの際には、6時間かかりました(^^;)

 

 この操作性のまずさはどうにかしてほしいものですが、かといって単純に「次はここに行く」ことがハッキリわかるのも味気ない気がします。ほかのゲームではこういうことはあまり感じないのですが、単純作業を繰り返すという「誰もいない」状況でのじれったさ、それをプレイヤーに実感させてくれるからです。そんなもん実感したくない、という声が聞こえてきそうですが、人との接触を拒絶するタイプの人間でないかぎり、「隔絶された空間」という環境においては、「話し相手を捜してほっつき歩く」というのはごくごく自然な行動です。誰も見つからないとなれば、淋しいとか孤独とかいったありきたりの表現では済まない焦燥感を覚えるのは必至でしょう。このゲームでは、「どこにいっても誰もいない」状態を序盤からいきなり実感させられることになるわけで、シナリオの雰囲気にうまく引き込まれていきます。意図的なものかどうかはともかくとして、この「総当たり方式」の思いもかけぬ効用を感じた次第です。

 

 シナリオ自体は一本道ですが、最後の方でごく小さな分岐があります。パートナーの名前がズラリと並んだ所でセーブすれば何の問題もありません。中途での「ゲームオーバー」は存在しないようですので、「何も起こらないなぁ」という状態になった場合は、「すべての場所ですべての選択をする」ようにすれば、先に必ず進むはずです。

 

 その「一本道」のシナリオですが、おおむね、各キャラクターごとに章が分かれているようなスタイルになっています。明確に「××の章」といった記述はありませんが、一人一人が抱えていた「悲しみ」を主人公が癒していく、という形式なので、おおむねこの流れといってよいでしょう。

 構成や展開などに関しては、シナリオの欄に書いたとおりです。

不具合・修正プログラム

 DOS版、Windows版とも、私の環境では、特に不具合は発生していません。

操作性など

 Windows版は、256色モードでないと起動しません。また、起動した後、クライアント領域以外は真っ黒になりますが、その背景をクリックすると最小化するという、不思議な仕様になっています。CD-ROMケース同梱の帯にその旨が書いてありましたが、最初は見落としていたので、「あれっ?」と思ったものです。Windows95/98では問題なくプレイ可能ですが、WindowsXPでは、インストール・起動こそ互換モードで可能なものの、色化けしてしまいプレイに耐えません。

 マウス操作が基本ですが、キーボードのカーソルキーでマウスポインタを動かせるので、キーボードだけでも操作可能です。セーブ&ロードは選択肢が出ている個所でのみ可能です。

 メッセージの表示速度はかなり遅いのですが、CapsLockによってメッセージの瞬間表示が可能なので、これについてはストレスを感じることはないでしょう。あまり速くないとはいえ、「Ctrl」キーを押していればメッセージもスキップします。

 画面切り替えにかかっているウェイトは、評価がかなり難しいところですが、これはプラス面での評価をつけたいと思います。舞台となっている「館」における時の流れをイメージさせるということはもちろん、上に書いた「単純作業の効用」という面も合わせ、雰囲気を出すために良い効果を出している、と判断します。

 回想モード・BGMモードがありますが、「回想モード」は、HシーンのCGがキャラクター別に1枚ずつ出るだけです。「回想」と銘打つ以上、テキストつきで流して欲しかったですね。さらに、Hシーン以外のCGはそもそも表示されないというのは、まったくもって悲しいところです。エンディングのCGがきれいだっただけに、もったいない。

サウンド

 BGMは、DOS版ではモノラルFM/ステレオFM/MIDI(GS)で、Windows版ではMIDI(GM)で演奏されます。的確な表現はできませんが、「荘重」という表現が頭に浮かびます。ちょっと音数が少ないように聞こえたのは気のせいでしょうか? なお、ソフトウェアMIDI音源では動作が非常に遅くなりました。「叙情歌」「愛の夜想曲」などが、非常に良いですね。

 音声はありません。

グラフィック

 Windows版でも16色のベタ移植ですが、通常シーンでの立ちCGの表情描写、背景が伝えてくる微妙な雰囲気など、このゲームの「空気」を醸成するのによく役立っています。影のある表情と明るい表情との落差が大きい(雪菜、次いで美和子)キャラクターでは特に、その笑顔がまぶしく、輝いて見えたのは嬉しいことです。

 ただ、細い目をしたキャラクターが非常に多いので、性格的にキツめの印象を受けました(あくまでも第一印象ですが)。あと、イベントシーンでのCGが少ないのはやはり残念なところ。それはともかく、Hシーンの構図のマズさは何とかしてほしいものです。

お気に入り

 由羅が一番です。シナリオ欄で軽く触れたとおり、トラウマとして彼女自身が抱え込んでいるものの大きさ、そしてその傷は彼女自身のみならずその最も近しい者にまでおよんでいること。この悲劇を、実に印象深い形で体現しているのが、彼女。Xゲームのネタとして「妹キャラとの物語」という設定はもはやパターン化していますが、それを「妹の視点」から見ているものはほとんどなく、むしろ刹那的な扱いに終始しているものが大半です。しかし、このシナリオは、「背徳」、あるいはその基準たる「倫理」というものに再考を促してくれます。それに、エンディングでのカジュアルな洋服も似合ってますし(^^)

 二番目が雪菜でしょうか。胸の谷間についつい目が\(^^;)

 う〜、ホントは各キャラクターごとに別途書きたいことがいろいろあるのですが、キリがないのでこのあたりにて。

関連リンク先

 鷹月ぐみなさんのサイトにある詳細な分析は見物でした(現在公開停止)。また、蓼原シュンさんSHEOさんのサイトにもレビューがアップされています。

総評

 このゲームの魅力を端的に語るのは非常に難しいものがあります。「シナリオの魅力」ということになるのですが、その基底にあるのは、「癒し」という、多用されてきた、言うなれば陳腐ともいえる主題を用いていながら、そのプロセスを実に緻密に描き、なおかつ、先の展開を巧妙につなげていった結果といえるでしょう。エンディングの御都合主義というのはシナリオ面で書いたとおりですが、これが鼻につくのも、逆にいえばそれまでの記述が巧みであったからともいえましょうから。

 古くさい面があることも否定はできませんが、それゆえにかえって、「時代の経過に耐えるだけのものを持っている」と見ることができます。シナリオそれ自体も含め、バランス的にやや難ありという印象があり、このため満点評価はしていませんが、個人的には『痕』に次ぐ、最高水準に近いアドベンチャーゲームの傑作と判断しております。

個人評価 ★★★★★ ★★★★☆
1999年9月4日
(2000年11月24日、加筆・修正)
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