冬虫夏草 ぷち/アセンブラージュ

1998年7月17日発売
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 漢字のみで記されたことばというものには、カナや外来語を含むものに比べ、独特のパワーがあります。表意文字の威力とでもいうのでしょうか。そんな漢字のみのタイトルで、しかもどうにも暗い感じのパッケージ。大した期待もせず、何となく買ってプレイしたゲームでありました。しかも、タイトルは『冬虫夏草』。土中の草に寄生する菌類から、夏になると「草」(正確には草ではない)が出てくる、それを称するものですが、当然、何らかの隠喩であろう、と考えます。果たして、その結果やいかに。

シナリオ

 主人公・檜山俊雄(変更不可)は、非常に内向的な性格の高校生。不良の坂口に因縁をつけられいじめられながらも、妹や女友達とともに学園生活を送る。ある日、かつて仲良くしていた幼なじみの女生徒と再会を果たすが、彼女の目の前で坂口に振るわれた暴力を契機に、彼の中に潜む「何か」が目覚める。その正体は何か、そして彼はどこへ行くことになるのか。

 

 設定的には『SweeperS!』と似ていますが、コミカルではなく、もっと重ためのストーリーが展開されます。

 あらすじを見ればおわかりの通り、「自分の中に潜む異形に脅える」という構図は、まさしく『』(Leaf)の世界です。しかし、『痕』が傑作である所以は、真新しい手法を駆使しているという点ではなく(否、今から見るに、斬新な点など果たしてあったろうか?)、複数のシナリオを用意し、それぞれが破綻なくすべて標準以上のレベルを間断なく保ち、相互の整合性を維持し、複数プレイを求めながら、そこに飽きをまったく感じさせない演出を実現するという、マルチシナリオのXゲームとしての課題(そして、難題)を、易々とクリアしている点にあります。

 そして、この『冬虫夏草』は、『痕』と比較可能な水準のものを出しているように感じます。

 異形や転生・デジャヴ・記憶といった要素と、日常(学校という、現代社会では最大級の「類型的」社会!)という舞台。これらをリンクさせ、「自分の中の不可知の自分」を丹念に描出するというのは、比較というよりは、表現手法の模倣といっていいでしょう。しかし、単なる表面的な模倣ではなく、どのような点がプレイヤーをして印象に残らしめるかを、実に憎い形で研究しているのがうかがえます。キャラクター設定にしても、キーパーソンクラスに関しては、主人公との関連づけが堅実になされています。幼なじみ、巫女さん、妹、人外の存在といったバリエーションも、なかなか巧みなものがあります。設定そのものがティピカルかつスマート過ぎ、それを超えたキャラ描写がなかったため、『痕』キャラのように萌え萌え状態にはなりそうにありませんが。

 シナリオの形式から考えても、序盤で分岐し、それぞれのキャラ別シナリオで適度なバラツキが施されているのは、高く評価するに値するでしょう。

 

 その反面、『痕』をプレイしたときのような高揚感や感動といったものに乏しかったのも、また現実です。これは、個別のシナリオ内に配置されているキャラクターそのものが、主人公とさほど近くはない人物に関してはかなり手抜きが見られ、関連イベントが宙に浮いていること、また、イベントの組み立てに関しても、性急あるいは唐突という印象があるシーンが非常に多く、いわば「後付けで考えていかないといけない」形になっていることが原因と思われます。また、展開の過程で、ギャグ、あるいは遊びと呼べる要素が非常に乏しく、肩の力を抜くタイミングが図れなかったのも、「日常」という舞台がある以上、考え物です。リアルタイムでワクワク感を味わえた『痕』とは、この点で決定的に異なります。

 さらに、キャラクターごとの描写を見ても、非−現実的な要素を解決するにあたり、「人間個人で解決できない宿命」というものが絡んでくるわけですが、『痕』のように決定的な悪人がほとんどいなかった(某ヤクザは置いといて)ケースと異なり、悪役の設定にかなり後味の悪さが残ります。ここで、勧善懲悪的な雑音が入り込んでしまい、(シナリオにもよりますが)エンディングの感動をかなりの程度削ぐ結果になってしまっているのは残念なことこの上ありません。

 特に、単なる「やられキャラ」の扱い。本当に「やられるだけ」で、その「犯す主体」も、主人公であったり悪役であったりと、設定に一貫性がまるでありません。猟奇的な色彩の強いゲームでのHシーンだけに、その毒々しさ(=重み)はライトな恋愛ゲームとは比較にならないのですから、きちんとした形での位置づけがほしかったところです。

ゲームデザイン

 序盤でシナリオが分岐し、キャラクターごとのシナリオ展開となるマルチシナリオタイプのアドベンチャーゲームです。しかし、あるエンディングを迎えると別のシナリオに入ることができる、という形になっています。このあたりは、やはり『痕』と非常に類似性が高くなっています。

 

 エンディング対象となるキャラクターは総勢4人ですが、それぞれのエンディング後の「感触」は相当異なります。このエンディング対象キャラの数も的確で(例えば『永遠の都』(ちぇりーそふと)などは多すぎ)、プレイしている間に前にプレイした内容を忘れてしまうといったことはない程度のボリュームになっています。

 単なる「マルチエンド」ではなく、ヒロインが代わりシナリオも複数のものを「プレイしていくごとに」理解が増していく、という点では、充分に興味を惹きつける作りとなっており、マルチシナリオゲームとして十分に合格点と言えましょう。

不具合・修正プログラム

 セリフ音声と文章の不一致、さらに、セーブしたデータからロードしようとしても正しくロードできず、さらに異常終了するなど、非常に問題のあるバグがありました。これは、アセンブラージュのホームページにアップされている修正プログラムを用いることで回避可能ですが、この際には、標準インストールが必要となります。

操作性など

 基本的に、『はぷにんぐJOURNEY』と同様の操作性となっています。

 セーブ&ロードはいつでも可能ですが、10個所というのは少ないですね。分岐は『痕』に比べて多く、しかも「どこで分岐したか」を覚えているのはちと苦しい程度のボリュームはありますので、20個所くらいはほしかったところです。まぁ、『痕』の「実質1個所」に比べればはるかにマシですが(^^;)

 メッセージスキップは、既読・未読の区別可能、というのは『はぷにんぐJOURNEY』と同様。ただ、「マウスの両ボタン同時押下」てぇのはやりにくいス(^^;) メッセージ表示は、標準・高速の切り替えが可能ですが、標準では遅く、高速では瞬間表示で味気ない、というのは贅沢でしょうか? 『痕』のように、シチュエーションに応じてメッセージスピードを変えるという芸は見当たりませんでした。

 あと、プレイ中、トップメニューに戻れないのはマイナス材料でしょう。CGモード(サムネイル表示されて非常に見やすいです)やBGMモード(曲名はなし)に入るにはトップメニューから、という形式なので、これはほしかった。

 ともあれ、全体的に軽く、スムーズにプレイできたのは良し。画面切り替えなどでも、もたつきはありませんでした。惜しいのは、やはり先述の大きなバグでしょうね。

サウンド

 BGMは、MIDI(GM)で演奏されます。『はぷにんぐJOURNEY』ではXG音源対応でしたが、なぜか後退しています(^^;) かなり地味な感じで、「日常」の雰囲気には合っていますが、同一のメロディをアレンジ変更だけで流すのはどんなもんでしょうか。また、「非−日常」シーンになると、どうも緊張感が感じられません。曲そのものの変化が乏しかったのは、究極的にはシナリオへのインパクトにも関わってきますから、もう少しコントラストをつけてほしいと感じます。

 音声に関しては、やはりアセンブラージュ系列と言うべきか、非常に水準が高いものになっています。これだけのレベルを維持してくれれば、何も言うことはありません。

グラフィック

 原画については、特に悪いとは思いませんが…個人的には何となく趣味じゃないです(^^;) 純粋に好き嫌いという程度の話なのですが、どうも好みじゃない。

 しかし、塗りはなかなか頑張っているという印象を受けます。特に「非−日常」シーンでは、絵柄でシナリオを支えていると感じるシーンが多々ありました。この点では、明らかに『痕』を凌駕しています。夢の風景から、「奴」が暴れるシーンに至るまで、「自分ならぬ自分」を描くにはこうするのだ、と感じさせる出来だったと判断します。

お気に入り

 シナリオ面で書いたとおり、あまり「萌え」を感じることができる作品ではありませんが、キャラ的に好みなのは、実は某神社の神主さんだったりします。2番手がメインの真琴。

 ただし、シナリオ的に好きなのは、やはりタキです。

関連リンク先

 SHEOさんのサイト蓼原シュンさんのサイトHIKAさんのサイトにレビューがアップされています。

総評

 基本的に、『痕』の取った方法論を自家薬籠中のものとしている点だけで、高い評価に値すると確信します。具体的には、作品を構成する要素(部品、といってもいいでしょう)間の連関が緻密であること。各シナリオ間に「浮き」がなく、エンディングの多彩さがあっても全体的な「世界」の統一を維持していること。そして、「進めれば先に新しい世界が開ける」という期待を、プレイヤーに常に持たせることに成功していること。

 これらを地道に行い、成功させている例は、意外と少ないものですが、『冬虫夏草』は「行うのが難しい基本を忠実に成功させている」例であると感じます。

 今後は、これをベースとし、新しい作品を独自で生み出せるのではないか、そう期待しています。

個人評価 ★★★★★ ★★☆☆☆
1999年9月17日
(9月26日、一部加筆・修正)
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