蒼刻ノ夜想曲 ソウコクノノクターン PL+US

1999年11月26日発売
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 なんか最近、古いゲームばっかりやってるなー、と思いながら、ちょいと気分転換がわりに購入&プレイしたのが、『蒼刻ノ夜想曲 ソウコクノノクターン』(PL+US)。きいたことのないソフトハウスですが、パッケージに書かれている住所を見て「もしや?」と判断。Tacticsなどをリリースしている、ネクストンの新ブランドのようです。

 ダークブルー調のカラーリングをしたずいぶんと暗めのパッケージに、生気を感じさせないキャラクターの眼。単に「暗い」の一言ですべてを説明しておしまい、というゲームもあるだけに、なんとなくふらふらと購入するということの危険性は充分に承知しているはずなのですが、それでも買ってしまったのは、もう抜けられない世界に入ってしまっているからなのでしょうか(^^;)

 なお、ゲームCD-ROMはピクチャーCDになっているんですが、かなり怖いです(^^;) パッケージは「暗い」なんですが、なんか化けて出そう。

シナリオ

 音大に通う主人公・管野智秋(変更不可)は、ある雨の晩、何も語らない全裸の少女と出会う。それまで人との接触を極力避けるようになっていた主人公だったが、彼女を自宅に住まわせた彼の生活は徐々に変わっていく。記憶を失っていた少女をルミと名付けた主人公は、彼女の著しい精神的成長に驚きつつ、その生活を心地よいものと感じるようになる。しかし、「人間外の存在」をめぐる人物たちの暗躍に巻き込まれ、またルミのもう1つの姿も明らかになる。主人公は、ルミやその周囲にいる彼女たちに、どう接していくのか。

 

 シナリオ担当は、青山拓也氏。

 序盤、記憶を失ったルミというキャラクターとの同居生活という設定は、確かTacticsの『鈴がうたう日』(未プレイにつき詳細は知りません)でも使われていたようですが(^^;) 同居しながら、あたかもそれが「昨日からずっと続いてきた」かのような不自然さを感じさせず、地道に「流れ」を作っているのが良いところでしょう。

 その過程で、主人公が取っていく行動は、最近あまた見られる「平凡だが楽しい日常」への回帰を目指したものではありません。いや、そういう要素もかなり含んではいますが、完全に「日常」が崩壊した後であっても、その新しい世界で生きることを厭っていません。あくまでもルミという存在自体を軸にしている、といえましょう。ルミシナリオ以外の場合も含め、このように「視点の限界」をあらかじめ設定しているゲームというのは、むしろ珍しい部類に入りそうです。また、各キャラクターごとの描写も、堅実なものがあり、無理をしていないのがよくうかがえます。

 

 メインとなっているルミシナリオでは、ルミという「一個の存在」の意味があまり明確にならないまま話が進んでしまうため、どうにもまとまりに欠けているという面は否定できません。シュリシナリオをクリアしたのちにプレイする方が良いのかも知れません。ただ、ルミというキャラクターの「特異性」がどうしても強調されがちですが、それに留まらないものがあるように思えます。それは、彼女の行動、あるいは彼女が作りだしていく他者との関係全体を包み込む、一種の「運命」というべき逃れられないものです。自分がどうやって解決していくか、ではなく、自分が生きていく姿勢をどのように「運命」の中で貫いていくべきか、それが、ルミシナリオの中で出ていると感じます。素朴な無常観だけで、そして悲恋譚としてのみの視点で、このシナリオを解釈するべきではないでしょう。どんどん死んでいく存在が増えていくという点は、まさに絶望的とも言える展開ではありますが、こうしなくては、「運命」の重さを語り得なかったわけで、エンディングのまとめ方としては秀逸だと感じます。

 また、シュリシナリオでは、主人公自身も、まさに「戦い」の主体となっていくわけですが、そこでは、まさに『』(Leaf)の柳川祐也を彷彿とさせるような描写を感じます。存在、絶望、そういったものを抱え込んで、そしてなお自分と戦い続ける。そういった「昏い衝動」の位置づけは、「倫理規範」内部で適応可能性をさぐるのではなく、それがまず「ある」ことからスタートしているため、どうにも救いのないものではありますし、エンディングにおいても、ラストで主人公が陥った立場が、非常に重いものとなっています。「宿命」の善悪を安易に語ることを廃し、そこに取り込まれた者がたどる展開を淡々と綴ることによって、平凡なる価値観からシナリオが相対化されることを狙っている、と考えられましょう。

 さらに、アイシャシナリオでは、ルミという存在は一個のメタファーにすぎず、むしろ、主人公、アイシャ、そして「灘」という三人物間関係という展開になっています。そこで彼らを支配している運命に対し、人間は徹底的に無力である、といってよいでしょう。そこにおいては、目に見える「追うべき敵」があるわけでもなく、また克するべき自分が内部にあるわけでも決してありません。むしろ、「無力」であることに対し、その「無力」さを受け容れていけるかどうか。そんな、やるせなさを感じるような「重さ」を見て取ることができそうです。あるいは、ほかのエンディングが際限なく重く、言うなれば「逃げ場がない」ため、許容できそうにないプレイヤーに対し、かなり明るさを帯びている唯一のエンディングとして「用意」したのでは、といううがった見方もできそうではあります。

 

 こういった点を見ていくと、ゲームの中に出てくるキャラクター(主人公を含む)は、いずれも、自分たちが持てる力がどの程度なのか、それに苦しむ、という恰好になっています。その背景には、抗いがたい「運命」あるいは「宿命」というものが存在し、その中でもがき苦しんでいる、という形が出されています。その「運命」の中で、キャラクターは明確な回答をきちんと出せるのか、というと、決してそうではありません。しかし、「生きる」こと、そして「生きていることをプラス評価できる」姿勢、これが、エンディングでは共通して示されています。

 

 何らかの形で、自分たちの「運命」を切り開く、そういった爽やかな明快さは、このゲームの中にはありません。また、そういった「運命」に対し、倫理的にどういう姿勢を取るか、という視点で見ても、やはり何の解も与えることなく沈黙しています。ですが、こういった「是非を問わず受け止める」世界を実直に描いたゲームシナリオというのは、さほど多くないのが実情でしょう(描ききれずに自爆しているゲームはあるでしょうけれど…)。このあたり、渋いながらも、なかなか憎い作品と感じます。

 

 その反面、シナリオを盛り上げていく演出についてみれば、これをきれいさっぱり切り捨てているのは、惜しいと見るべきか潔いと見るべきか。よけいな情報を入れないことで話をスムーズに展開させ、ダレをほとんど感じさせないのはよいのですが、本筋と関係ない個所での「遊び」は皆無に等しいといってよいでしょう。この結果、刺激を求めるプレイヤーにとっては「物足りなさ」を多分に感じたと思えます。個人的には、ここまで潔くサッパリさせるのは、非常に気持ちがいいと感じたのですけれど。

 

 最近のゲームを見ると、シナリオを作り上げているテキストの水準が非常に低いゲームが多く、嘆息させられることがずいぶんとあるものですが、このゲームでは、さほどテキストの水準にブレがない上、破綻した悪文がずらずらと並ぶということもなかったため、最後まで安心して読めたのは合格です。

 例えば、ルミの、主人公に対する二人称を取ってみても、基本的には「おにいちゃん」なのに、ルミシナリオ終盤近くでは「あなた」が混ざってくる(すべてではない)など、かなり細かく気をつかっている、という印象を受けます。また、折に触れて出てくる主人公の回想は、序盤でややもすればダレがちの雰囲気をうまく締めていたと感じました。

 もっとも、誤字が多少混ざっていたのは、許容範囲内とはいえ、ちょっと残念。特に、ルミシナリオ後半(「終盤」に非ず)でのリリスのセリフ、恐らくこれが最期の選択となるだろう。と出てくるんですが、「最期」というのは、滅亡・死亡の時期という意味です。人を勝手に殺さないよーに(^^;) あと、10月25日に「小春日和」てナニ? 1か月早いよ(^^;)

 

 一方、この『蒼刻ノ夜想曲』では、ゲーム全体にどんよりと暗い雰囲気がある反面、それとコントラストをなす意味もあってでしょう、日常パートでは実に楽しい描写が効果的に使われています。お好み焼き屋でのやり取り、ルミ&シェリの夕食など、大爆笑させてもらいました。どうも個人的には、こういったキャラごとの役割分担が明確化した落語的なギャグの方が、例えば『Lien』(Purple)のようなギャグよりも合っているみたいです。

ゲームデザイン

 序盤は一直線、中盤で3つに分岐するタイプのアドベンチャーゲームです。分岐対象となっている選択肢を見極めるのは割と難しいのですが、選択肢によっては直後にバッドエンド直行というケースがかなり多くなっています。メインであるルミシナリオへは、私はノーロードで到達できましたが、アイシャシナリオは数回リプレイしました。全体的な難易度はほどほどになっている、という見方が可能ではありますが、エンディングの分岐となるポイントを絞り込む段階(期間)はかなり限定されているので、分岐さがしをさほど意識せずにシナリオを楽しむことができたのはよかったと思える点です。

 各シナリオごとに、ヒロインとの関係によって別個のエンディングが用意されているわけですが、いうなれば「視点のズレ」を図っている、といえましょうか。エンディングのパターンを絞り込んだのが、いい方向に作用したと感じます。

不具合・修正プログラム

 私の環境では、不具合などはまったく発生しませんでした。

操作性など

 CD-ROMを挿入するとインストールシールドが自動起動しますが、インストール先以外の選択はできません。また、ゲームを起動する際には、CD-ROMが必要です。

 操作には、マウスとキーボードの双方が使用可能です。画面中での選択なども、基本的に二択・三択があるだけなので、キーボードの方がやりやすいでしょう。

 画面は、640×480とフルスクリーンから切り替え可能です。基本的に全画面表示で、下部にメッセージウィンドウが半透明表示され、スペースキーまたはマウス右クリックで消去できます。画面表示は最大4行で、基本的にその行数に納まるような記述になっています。メッセージ速度表示は、標準速のほか、ノーウェイト表示も可能です。また、「Ctrl」キー押下でメッセージスキップ可能ですが、既読・未読の区別がないのは残念です。

 セーブ&ロードは、任意の位置で30個所まで可能ですが、そんなにいっぱい使うことはないでしょう。セーブ時の実日時も記録されます。

 CGモードもありますが、今どき「1枚ずつの表示」というのはちょっと悲しいものがありますね。サムネイル表示、あるいはタイトル別選択方式(『MOON.』や『脅迫』など)にしてほしかったものです。回想モードはありません。また、BGMモードがないのも残念。なおCGモードは、初回から入ることができます。

サウンド

 BGMは、CD-DAで演奏されます。曲数はそこそこ多いのですが、単体ではみごとに印象に残りません。ただ、暗めの雰囲気を出すにはなかなかのものと感じます。

グラフィック

 とうかい林檎氏の原画。非常に地味、の一言に尽きてしまいます。特色はといえば、大きいギョロ目でしょうか。何というのか、爬虫類を連想させる横長のギョロ目は、人によってはかなり「引く」可能性が高いでしょう。

 そして、彩色はというと、これまたすごく地味。暗めの雰囲気を出すためには決して悪くはないのですが、どうも「華」に欠けるんですよね。きれいだな、と思えたのは、アイシャのエンディング(銀杏並木にて…立派な「大学生の象徴」だと思うのですが、ゲームCGではほとんど見ませんね)ぐらいでしょう。

 ただ、キャラの立ちグラで、表情がよく変化するのは、見ていてなかなか楽しかったです。特にルミなど、にへら〜と笑ったり、ムッとしたり、本当に飽きません。

 CGの枚数はやや少な目ですが、キャラクターとの会話が非常にスマートにおこなわれていますので、シーンごとに無理にグラフィックを挿入させる必要もないでしょうし、適度な枚数と考えます。

お気に入り

 キャラに萌えるタイプのゲームではありませんし、ゲームの出した世界の雰囲気そのものに惚れ込む、という面の方が先に立ちそうです。キャラクターが世界を作る、あるいは単純にプレイヤーが主人公に感情移入して仮想現実感を楽しむだけ、というタイプのゲームではない以上、当然のことではありますが。

 強いて1人をあげれば、アイシャでしょうか。エンディングでのロングヘアーはずいぶんと雰囲気を変えてくれますから。

総評

 とにかく「渋い」ゲームですが、そこに積極的な意味を見出すのは、実はけっこう難しいような気がします。

 なにせ、このゲーム、いったいどんなプレイヤーをターゲットとして作られたのか、それがまずもってわかりません。かなり毛色の変わった作品には違いありませんが、「おにいちゃん」と呼ぶキャラがあれど、妹属性の方向けではありません(どちらかというとロリ属性向けかな)。悲劇譚や「泣き」に弱い方向け、といっても、その背景にある「運命」の把握が、プレイヤーサイドで明確にできるとはかぎらないため、カタルシスを感じやすいとも思えません。雰囲気の暗さがあるのは確かですし、救いがないという面もありますが、だからといって「ダークなゲーム」という感じでもないですね。

 万人向けでない」ゲームであるのは確かですが、「薦めるべき明確なポイントがない」ゲームでもあるんですな(^^;) 強いて似たタイプのゲームといえば、やはり『痕』の「鬼」という設定になるのですが、キャラ萌えしそうな装置をほとんどおかず、ひたすら不愛想な展開になっているので、支持層が大きく重なるとも思えません。

 

 新規ブランドのゲームとして、かなりのポテンシャルを感じるゲームであるのは確かです。すでにTacticsというブランド自体が、伝説を残してその姿を完全に変えてしまった中で、「雰囲気」を見せるというゲームづくりができていることに、相応の期待をしたいと思います。

個人評価 ★★★★★ ★★☆☆☆
2000年5月25日
(10月17日、一部修正)
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