銀色 〜Silver〜 ねこねこソフト

2000年8月31日発売
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 映画の表現手法を強く意識して作成した、というのがウリの1つであったこのゲーム。@niftyなどで「感動した」「泣いた」という感想を目にするにつけ、逆に徹底的にクールな立場に立っていた私ですが、それでもどことなく気にかかるものがあったので、何となく購入したのものの、ハードディスクに余裕がないためなかなかプレイせず、と、お決まりの展開を地でいってしまったゲームでありました(^^;)

 このゲームは、日本語のほか英語にも対応しておりまして、なぜかボイスまで英語版が加わります。これのためにやたらとハードディスク容量を食うわけで、何とかしてほしかったなぁ。後で聞いてみると、それなりに頑張ってはいますが、肝心の英語テキストがけっこー怪しいんですけれど。まぁ、このゲームの評価を左右するものではありませんが。

 あと、マニュアル記載の漫画が、なかなかいい味を出していてよろしおます(^^)

※なお、以下のレビューは、かなり抽象的な表現を多用しており、未プレイの方(特に、第二章以前)には意味不明の個所も多いかと思われます。あらかじめご了承下さい。

シナリオ・ゲームデザイン

 どんな願いも叶えてくれる、という伝説の伝わる、不思議な銀色をした糸。この糸を手にしたヒロインたちの、時代を超えた4つの物語。

 

 シナリオ担当は「片岡とも」「ヤマタカユウキ」「高嶋栄二」「ALFRED」各氏。

 完全に一本道のシナリオが、メインで4つ、さらにそれらを統括する形で1つ、あとおまけが4つという形になっています。途中にはいくつか選択肢が出てきますが、私は適当に選び続けたところ、CGがまだ1枚欠けているという状態でした。

 

 まず、第一章では、「生きているという実感もない」という、もはや「生」について考えることさえできないという状況に置かれているキャラクターの話が綴られていきますが、「考えることができない」ことの哀しさ、それが淡々と、しかしギリギリと伝わってきます。思考停止というのは自己防衛本能の1つなのかも知れませんが、もはや「自己」というもの自体を持てないという状況下における2人の行動は、とにかく心を打ちます。

ゆさゆさと、ゆさゆさと私の身体が上下に揺さぶられている。

…弱い奴が死ぬ…ただそれだけのことだ。

 何度となく出てくるテキストですが、細部のフレーズが微妙に置き換えられつつ、間を置いてひたすら繰り返されることで、ヒロインの境遇が刷り込まれていくうえに、その境遇が、単純な概念説明ではおこない得ないことが示されていきます(この点が第三章との大きな違い)。

 キャラクターの行動パターンなどがかなり定型化され、その結果リアリティがかなり欠けているのも事実ですが、これは上記のような詩的テキストの奏でるリズムを保持するために必要だったことを感じます。悲惨な状況をリアルに描くのではなく、むしろ情報を限定することで描写を抽象化したことが、このシナリオに通底する「哀しさ」をより増幅してくれています。読む、というよりは、演出効果の手を借りつつ、流れを受け止める、といった姿勢で臨むことができましょう。

 

 第二章では、そのエンディングに対し、言いしれぬ不快感を抱きました。これは、ゲーム内のキャラクターの思想や言動に対するものでも、あるいはそれを観察している(プレイヤーとしての)自分自身に対するものでもなく、いわば「ゲーム内の世界設定における結末」として、言葉にしがたい引っかかりを憶えたものです。第一章とは異なり、割と呑気で気楽な前半の展開はなごむのですけれど、そういった展開も、前章をプレイすることで、単なる穏やかでなごやかな日常を平和に描いているだけのものではない、ということを思い出させるため、素直に浮かれて楽しむわけにはいきません。そのためもあってか、エンディングへの展開や締め方はかなり早い時点で見当をつけることができましたが、にも関わらず、エンディングを迎えたときには、どうにも落ち込んだ気持ちを抑えることができませんでした。ゲームをプレイした結果「感動」した、という表現で語られることがありますが、エモーションがマイナス方面に向いての「感動」と相成ったのは、このゲームのこのシナリオが初めてのように思います。

 淡々と、そしてまた自分の存在理由に対して自分の内部で十全に納得した狭霧。狭霧の選択に対して、精一杯の行動を取ろうとしながら、それでも限界を感じる主人公。この両者のいずれに対しても、プレイヤーの視点で指弾することはできませんし、また安易に同情してカタルシスを感じることもあまり意味がないのは確かですが、「かけがえのない自分という存在」を、「他者の視点の対象(Object)としての自分」として見た場合、ああいった結論で締めることから得られるものは、おそろしく後味が悪いのではないか、と思った次第です。

 狭霧の行動をもってエンディングに直結させることは、単に「非合理なムラ社会」を強調し、ひいては「“自分”の非−人格性を(特定の)一人物に対して強制するという社会的制度の醜悪さ」を見せつけていることにもつながります。実際、脇役としての「里の者」たちには、その姓名はおろか姿形さえ用意されていない(=匿名的存在として扱われている)ことから察するに、十把一絡げに「悪役」として措定されているといっても良いでしょう。狭霧の出した「結論」が、「ムラ社会」の論理によって「道具」化される(「狭霧」の「非-人格化」)ことによって、宙に浮くような(このうえなく悲劇的な)滑稽さを伴っているのは、痛々しいとかやるせないとかいったものを通り越しています。

 これを説明付け、落としどころを用意したのが、第四章の過去パートでありましょう。純粋に時代背景だけで見た場合、また「設定」の順序をたどった場合とはあべこべになりますが、このシナリオは現在でもそのまま通用するテーマを明確に備えているように思います。「主人公」のパーソナリティがもっとも(唯一?)明確であり、また、大衆=里の衆も、単なる有象無象というよりは「無知と素朴さを相持った村人たち」というイメージで捉えられていることもあって、「社会の構成員全体」それ自体を「悪役」とするのではなく、自己犠牲の任を担うことになった人間の心理をきちんと描けているうえ、現在のプレイヤーに取っても理解可能なものとなっておりましょう(納得がいくかどうかはまた別の話)。社会なり組織なりそれ自体に対する反感も共感もなく、かつ自分がその中で存在しているということにこだわるわけでもなく、という状態での「自己犠牲」の表現は、倫理や価値観といったものに「常識的な尺度を当てはめれば間違いなく邪悪な根拠」が内在しているものではないだけに、第二章をフォローするシナリオとして、非常によくいきていると感じます。

 ただ、第二章の叙述の中で気になったことは、中盤までにちょいちょい顔を出していた、固定的な社会階級の桎梏が、最終段階ではほとんど姿を見せていないことでしょう。狭霧の両親と主人公とがオーバーラップされる形での描写という、この上なく恰好の「題材」を出しておきながら、土壇場における主人公の行動基準、あるいは行動への足かせにはまったくなっていないのは、どうにももったいない。

 

 第三章は、個人的には見なかったことにしたいなぁ(^^;) これまでの展開とは違って、「生きること」の意味を正面から問うことはなく、むしろ人間関係の醜悪さと心理の複雑さとが表面に出ているのですが、個別キャラの心理描写が極端に走ること、ヒロインが自己犠牲ではなく自己嫌悪へ直結するために「身勝手」なナルシシスムがうかがえること(←これは、私の性格の歪みのせいか?(^^;)、「ねがい」というものの扱いがかなり軽くシーンに応じて変動すること、などがあげられます。

 しかし何よりも、登場人物たちの自己分析や罵倒が、抽象用語による概念的なタームによるものに留まっており(「理性」だの「責任」だの)、そのタームにキャラクターが振り回されているように見えて仕方がないことを、指摘するべきでしょう。大正時代という設定から考えれば、心理状況や社会的役割を抽象概念で表現するというのは、インテリゲンツィヤの独占手法だろう…というツッコミも可能ですけれど、それ以前に、概念武装が可能な程度の心理葛藤をもって「人間関係の破綻」を語るのは、どうにも空々しさが残るものです。身も蓋もない言い方をすれば、3人とも喋りすぎです。

 もちろん、「銀の糸」がキーになっているのは言うまでもありませんし、そのための章だ、と割り切ることはできなくはないのですが、それまでの二章とは、描写のスケールがまるで違う上、深刻さの度合いも、それが倫理的な領域に踏み込んでいないためにはるかに軽いものに留まってしまっています。この「軽さ」は、この章の意味づけをもずいぶんと軽くしているように見える、というのは、うがった見方でしょうか。

 ただ、第一章から第三章への連なりを振り返ると、徐々に「人間の醜悪さ」が具体化されていく、と見ることも可能ではあります。すなわち、第一章では「善悪という基準がそもそも出てこない」第二章では「悪=<社会>図式」第三章では「個人レベルの狂気」と、だんだん「目に見えていく」というプロセスが描かれています。この視点は、全体をクリアして第二章を改めて振り返ったときに気づいたものなので、プレイしたときに受けた印象とはかなり異なるものではあるのですが。

 

 第四章は、お話としては悪くないのですが、これまでの流れを受け止めて考えると、表パート(現在パート)は果たしてあってよかったといえるかどうか。心理描写なども「まずまず」という水準であり、小品としてそれなりにまとまってはいるものの、これまでに出されてきたようなテーマも何もありません。ヒロインは、「銀色」のエンディングを担当するためのキャラクターである、と位置付けるのがよさそうに思えます。ラストシナリオについても、ほぼその延長なのではないでしょうか。

 また、最後に「錆」というシナリオが出ます。「銀」が光り輝くことなく錆びてしまった展開、ということを意味しているのでしょうが、見事に救いがありません。しかし、その救いのなさが、「生きる」ということをポジティブに考えた場合、取る行動が第三者視点では哀しくなるほどの滑稽さと空しさとを呼び起こすことにもなる、ということを、淡々と語っています。「銀」と「錆」とは紙一重。「生きる」ことを義務づけられてこの世に生を受けし者に降りかかる、天命の残酷さの前には、ただ沈黙をもって迎えるしかありますまい。

 

 以下、細かいこと。時代考証などはかなりテキトーに処理されていますが、それは突っ込むだけ野暮というものであり、特に気にしなくてもよいでしょう。またHシーンについては、ほとんど記憶にありません。とくだん邪魔というわけではありませんが、ほとんどテキストを見ていなかったことは間違いありません。回数も少ないので、ここに期待する方はやらない方が無難でしょう。

不具合・修正プログラム

 ねこねこソフトのWebサイトにアップされている修正ファイルを用いた状態で、私がプレイしたところでは、特に問題となるような不具合は発生していません。ややマウスクリックの反応が重いかな、という気がする程度です。

操作性など

 CD-ROM3枚組で、インストール時に必要な空き容量は、実に900MBを超えます。これでは無理、という場合は、「w2」フォルダの中に英語版音声ファイル(冒頭参照)が入っていますので、これを手動で削除すればなんとかなると思います(これだけで330MB以上)。ゲームプレイ時にはCD-ROMが必須。

 画面表示は640×480で、基本的にはフルスクリーンですが、ウィンドウ表示に切り替えることも可能です。文字サイズが小さいので、高解像度でモニタを使用している場合は、フルスクリーンの方が無難でしょう。基本的には、画面の中程の部分に画像が表示され、下側にテキストが2行で表示されます。メッセージ速度調整(3段階)・メッセージスキップあり(ただし未読/既読の区別はありません)。また、メッセージ読み返し機能もありますが、2行ごとに出てくるので、まとまった量を見直そうとするとやや辛いものがあります。また、メッセージ自動送り機能もあります。

 セーブ&ロードは、任意の位置で20個所まで可能で、セーブ時の実日時が記録されます。

 おまけモードとして、CGモード(サムネイル表示されます)・BGMモード(曲名・編曲者名も表示されます)があります。また本編クリア後、この「おまけモード」からおまけシナリオに入ることができます。

サウンド

 BGMは、CD-DAで演奏されます。雰囲気をうまく醸し出すのに成功しています。各曲が強烈に自己主張を行うというわけではなく、むしろ各シーンで出ているグラフィックのイメージを増幅させている、といった感じでしょうか。また、OP/EDはボーカル曲ですが、こちらはそれほど印象には残っていません。

 音声は、各章のヒロインのみがフルボイスとなっています。演技自体はまずまずなのですが、とにかく最終章での特異な「音声の活用」には参りました(詳細は伏せておきます)。ただし、メインヒロイン以外は音声なし、というのはちょっといただけません。立ちグラが出る程度のキャラは音声つきにしてほしかった、と考えるのは欲張りでしょうか。また第一章など、主人公とヒロインとの立場を考えると、両方が音声ありというのが望ましいのでは。いずれにせよ、英語版音声などよりは、こっちの方がよりほしかった。

グラフィック

 4人の方(「綾瀬悠」「白凪マサ」「秋乃武彦」「葵渚」各氏)が原画を担当されていますが、メイン級のヒロインには大きな差がないようです。私がこのゲームを発売直後に買わなかったのは単純明快、「目が怖い」。どうにも焦点が合っていないというのか、どこを見ているのか、そしてどういう感情を顔に見せているのかがよくわからないため、不気味さを憶えたものです。さらに、髪の毛も、なんだか針金がうねうねと曲がっているように見えます。腰や腕も妙なところが目立ちますし、狭霧の巫女服の袖もヘン。プレイしていくうちに、こういった点はしだいに気にならなくなってはいきましたが、このゲームにはこの絵でないと、というほど惚れ込んだわけではありません。

 塗りや背景は、かなりシックな雰囲気のものが多い、という程度で、実はあんまり印象に残っていません(^^;) 絵が印象に残らない、というのは、ビジュアルをメインの表現手法とするゲームとしていかがなものか、というツッコミもできますが、むしろ第一章ラスト付近に代表されるように、個別の演出が非常に効果的なので、こちらに記憶がすべて偏っているのでしょう(本当か?)

お気に入り

 1人をあげろといわれれば、やはり第二章の狭霧になりますね。「結論」の悲しさが際立っていることと、ゲーム中随一の人間くささとの相乗効果はかなり大きいものがあります。

関連リンク先

 成瀬せりあさんのサイト(閉鎖)、SHEOさんのサイト麦星さんのサイトなどにレビューがあります。人によって受ける印象がかなりばらけるゲームだと思いますが、かといって「あちこち見て購入を検討」となると、逆に迷いが出てしまうでしょうか。むしろ、このゲームをプレイした抱いた第一印象を大事にしつつ、別の視点を探す、という姿勢で複数サイトをご覧になる方がいいかもしれません。

総評

 第二章までをプレイした段階では、とんでもない大物のシナリオを用意したすごいゲームなのではないか、とさえ思いましたが、それ以降のプレイで急速にテンションが落ち込み、結局は「竜頭蛇尾」という印象に留まってしまいました。第二章までとは異なり、第三章以降では、エンディングのまとめ方がどうにも呆気なく、さしたる感慨を残さない形で締めている気がしてなりません。第四章の裏パート(過去パート)がなければ、最後までプレイする気になったかどうか、私も自信がありません(実際、第三章に入った直後でストップし、それ以降しばらく放置していました)。

 しかし、いうなれば「徹底した第三者視点」でのプレイを求められるこのゲームでは、安っぽく言ってしまえば「人生観」、ある程度慎重な表現を用いれば「存在理由と行動理由とを規定する社会的イデオロギー」と直面する必要があります。安易に「感動がほしい」と飛びつくと、手痛い反応を受けるかも知れません。

 ゲームデザインを見ても、第一章→第二章→第四章裏パート、とプレイした結果、マルチシナリオのゲームで、各シナリオ間の連関が(意図したものかどうかは別として)部分的にではあってもみごとに取れている、と感じます。これだけの仕上げを行っているものとしては、ほかには『』(リーフ)ぐらいでしょう。その点では、間違いなく高評価に値するゲームです。

個人評価 ★★★★★ ★★★☆☆
2001年3月11日
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