魄冬(はくとう) Zenos

2000年1月28日発売
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 ゲームの中でも、デジタルノベルという体裁を取っている場合、かなりの文章力が要求されます。さらに、エンディングフラグ方式を採用するマルチエンディングとなってくると、「読み進むほどに謎が解けていく」「別のシナリオに入ると別の見方が出てくる」ということが必要のハズ。特に、プレイヤーの介在する要素が極めて限定されたスタイルのものとなれば、「展開」がどれだけ巧くできているか、またどのように演出が行われているか、ということが重要になります。

 そういう「基本」を押さえているかどうかで、ゲームの完成度がどんなもんかを見ることができる、というのを、つくづくわからせてくれたのが、この『魄冬』でありました。

シナリオ

 都会に憧れていた旅館の一人息子である島村陽平(変更可能)は、村に古くから伝わる祭り「五日夫婦」の役を、幼なじみであるあかねとともに演じることになった。しかし、祭りが近付くにつれ、彼とあかね、そして村を訪れた女性たちとともに、妙な夢など、不思議な体験を重ねることになる。彼は、祭りを無事に終え、そして過去の悲劇を乗り越えることができるのだろうか。

 

 歴史的なネタを軸に用いた因縁モノなんですが、伝承や陰陽道といったネタの使い方はまずまずですし、全体のストーリーの根幹自体はまあ悪くはないでしょう。もっとも、肝心の「悲劇」自体があまりにも薄味で、実際にはあまりにもあっけない理由ゆえ、事実がわかった時点で開いた口がふさがらないという程度のものではありますが、定番に近いストーリーで「プレイヤーを安心させつつ、同時に引き込む」ためには、こういう方法も悪くはないと思います。

 テキスト描写もさほどくどくはなく、「さっさと進めんかい」という気にならなかったのはよし。最近、言葉数ばかり多いテキストがかなり目立つのですが、これについては問題なし。

 

 ただ、致命的な問題点がいくつかあります。

 まず、登場人物たちの行動。主人公はもちろん、主な登場人物が、なぜそのように動いているのか、そしてその結果何を感じ、何を受け取ったのか。これがきちんと描かれていません。単に「流されている」だけならともかく、何らかの行動をそれなりに起こしているだけに、プレイヤー側の「置いてけぼり」感はさらに増幅されます。

 次いで、輪廻というネタを用いながら、過去の人間関係がどうして現在まで尾を引いているのか、そして「解決」されたという場合、はたして何をもって「解決」と言えるのか、その説明が決定的に不足しています。「オチがこうなんだ、はいオシマイ」という締め方をされても、はぁさいでっか、としか反応できません。また、過去における「悪役」も、すべてを1人に押しつけており、その背景も何もないため、時を超えるだけの説得力がまるでありません。人間の「執念深さ」を語るにしては、あまりに浅薄過ぎる展開でありましょう。

 さらに、主要人物以外の「顔」が、一切出てこないため、シナリオがリアリティを思い切り欠いていた面も否定できません。特に「人形」などの象徴的な道具が、イミテーションにちょっと説明がついた程度の役割しか担っていない点など、本当にもったいない感じがします。

 そして最後に、マルチエンディングにしたメリットがまるで感じられなかったこと。最初のシナリオの前半部分をプレイした時点で、設定の大半が見えてしまうというのは、まぁ仕方がないでしょう。しかし、その「設定」が、ほぼそのままの形で全シナリオに適用されている上、エンディングの違いが、単に「各ヒロインと結ばれる」ことへ強引につなげるとどうなるか、という程度の差異しかないので、2回目以降のプレイが義務的なものとなってしまい、意外感をまったく感じることができなかったのは、ゲームデザインの面と併せ、完全に失敗だったと思います。

ゲームデザイン

 大きく3つのシナリオからなるアドベンチャーゲームですが、基本的にシナリオをクリアする順序は固定されており、1つのエンディングを見ると、次のシナリオへの分岐となる選択肢が出現する、というスタイルになっています。3人のヒロインに対し、ハッピーエンドとバッドエンドとが1つずつ用意されています。

 選択肢自体はさほど多くなく、またエンディングに影響をおよぼすものは限られているので、難易度はさほど高くありません。

 ただし、エンディングに到達すると、自動的にセーブデータがクリアされてしまうという難点があります。特に、ハッピーエンドとバッドエンドとの分岐は終盤のようなので、この仕様はさっぱり訳がわかりません。このあたりのことは、CD-ROMの「README」には書いてありますが、それならマニュアルに書くことはできなかったのでしょうか。マスターアップ直前に決まったようなことではないでしょうに。

操作性など

 インストール先ディレクトリは変更可能です。BGMはPCMで、常にCD-ROMから読み出す形になっており、フルインストールはできません。

 操作の基本はマウスになっています。キーボードでの操作も可能になっており、エンターキー押下で左クリック代替になっていますが、選択肢が表示された場合、自動的に一番上が選択された状態となるため、エンターキーを連打すると不用意な選択をするハメになります。このため、セーブを多用するか、マウスを使用するかのいずれかを行う必要があります。この仕様は、非常に疑問が残るのですが。

 グラフィックは、基本的に640×480ドット表示で、下部に半透明のメッセージウィンドウが表示されます。また、ウィンドウ表示・フルスクリーンの切替が可能となっています。また、フォントの切替も可能です。

 セーブ&ロードは任意の位置で可能ですが、先述のとおり、エンディングフラグを管理しているセーブデータは個々別々になっているため、実際には1個所でしかセーブできません。また、エンディングに到達するとセーブデータがクリアされるため、セーブ&ロードでのプレイは不可能となっています。また、メッセージスキップもありますが、既読・未読の区別はありません。何度もリプレイする必要があるうえ、各ストーリーのうち7割近くは重複しているため、既読・未読の区別がないのは非常に辛いものがあります。おまけに、メッセージ速度調整はなく(遅いまま)、メッセージ読み返し機能もありません。

 CGモードは、各キャラクターごとにサムネイル表示されますが、マウスカーソルを上に置くと下の縮小画面が出るというスタイルで、やや見にくいのが残念。Hシーン回想モードも同様です。BGMモードもあります。

サウンド

 BGMは、PCMで演奏されます。割としっとりした感じの曲が多いのですが、録音環境のせいでしょうか、やたらとプチノイズがのっており、耳障りなことこのうえありません。

 音声がないのはいいとして、効果音が一切ないというのは、今どき珍しいのでは。

グラフィック

 キャラ原画担当は「佐伯達也」氏。どこかで見たことのある図柄なんですが…。キャラの描き分けがみごとにできておらず、カツラをかぶせりゃ全員が同じ顔に見えるというのは、ずいぶん違和感があります。やや丸ぽったい感じの顔で、表情のバリエーションが乏しい(せいぜい顔にうっすらピンクが走る、口の端が動く、程度)ため、ずいぶん淡々とした感じになっています。ほぼ全員が童顔なので、そういうのが好みの方にはよいかも。

 最大の問題点は、背景と人物との重ね合わせがうまくできていないことでしょう。キャラの着ている服がもともと地味(年ごろの娘が着る服とは思えん)、そして背景の着色も茶色をベースとした地味なものであるため、顔の肌色のみが目立ってしまい、首が浮かび上がっているように感じます。また、写真を撮る人なら、やってはいけないこととして周知の「首の後ろに横ライン」という構図が堂々と行われています(みやげ物屋前のあかね、旅館前の瑞穂など)。この2つが相補って、キャラの不気味さを増幅させてくれます。

お気に入り

 社響でしょうか。もっとも、選抜対象キャラが少ない上、あまり積極的に選べるというわけでもないのですが。

関連リンク先

 九牙さんのサイトでの指摘が、なかなかによいと思います。というより、私とほとんど内容的な違いがないので、あちらを見た方が早いかも(^^;)

総評

 いろいろな面で、やり残しが多いゲームと感じます。マルチエンディングでありながら、実際には単一の設定(それも、ずいぶんと薄味かつすぐにわかってしまう設定)、それを何度も繰り返させるスタイル。意地悪としか思えない操作性。演出面での効果を全然発揮していないグラフィックとサウンド。こういったもろもろの要因のため、ゲームを「楽しむ」ことが、まるでできませんでした。

 バッドエンド系の「救われない外道Hシーン」がわりとよかった点のみ、独特のプラス面を発揮していた、という程度でしょうか。

 テキストを読ませることでプレイヤーを引き込もうとするのであれば、ゲームデザイン、そして演出の両面において、あまりにも中途半端な水準に留まっているといえます。『』あたりを引き合いに出すまでもなく、「必要な要素」の欠落が自明である以上、ZENOSには猛省を促したいものです。

個人評価 ★★★☆☆ ☆☆☆☆☆
2000年4月30日
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