るな・シーズン 〜150分の1の恋人〜 EMU

2000年11月24日発売
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 『Railway』や『雨に歌う譚詩曲』などの作品をプレイし、そこで紡がれている人間模様の描写に対して、ほかの作品ではなかなか見られない特徴があると感じていました。これらの作品と同じスタッフが最初に作成したのが、EMUの初代作品である『るな・シーズン』。前2作品をプレイしていた当時からそれなりの興味を抱いていたものの、芳しからぬ評価を目にしていたため、なかなか手に取る機会がありませんでした。そんな折り、廉価版が発売されたのを契機に、思い切って購入したしだいです。

 なお、『Railway』に出てくる不良教師・野本先生はこのゲームが初登場のようですが、後作ほどはっちゃけてはいませんでした。ちぇ。

※2003年に発売された廉価版をもとにプレイしております。

※ネタバレを避けるため、「シナリオ」ではかなり抽象的な表現になっています。ゲーム内容を端的に把握したい方は「ゲームデザイン」の項をご覧ください。

シナリオ

あらすじ

 主人公・朝宮祥介(変更不可)は、実に149人もの女の子とつきあってはふられるという、女運ないことおびただしい学生。そんな彼だが、桜野真希子という後輩と、それなりに長いことつきあえるようになった。しかし彼は何を血迷ったか、ほとんど何も意識がないままに、彼女をレイプしてしまう。当然のように、主人公と真希子の関係は断絶状態に。さて、主人公はどうなるのか。

 シナリオ担当は、門司(もんがまえ・つかさ)氏。

意味があるのかないのか不明な行動

 かなり無茶な設定になっています。150人にふられるといいながら、主人公の年齢はそう高いわけではなく、また小さいころからほぼ同じ場所に住んでいる模様。主人公に関する悪評がすっかり定着していると思われるのに、女友達には不自由していないというのですから、苦笑するしかありません。まあそれは、こういうゲームでは許される世界なのだ、ですませてしまいましょうか。

 上述のあらすじのとおり、主人公の行動に一貫性がありません。主人公は幼少時に特殊な経験をし、それがトラウマになって現在にいたっていることになっていますが、そこから導出される結論に説得力がありません。あるいは、現状を説明するための論法にもなっていないのです。

 具体的には、主人公はしばしば「自分が関わる人間は不幸になる」といったことを口にしています。多感な時期にまま覚えるタイプの発想ではありますし、自分を取り巻く環境を客観視できない視野の限界といった把握が可能ではあります。しかし、主人公のネガティブシンキングに理由があるとはいえ、主人公を取り巻く環境を見るかぎり、真希子との関係が冷え切ってしまった前と後で大きな変化があるわけではなく――せいぜい「またふられたのか」と見られる程度――、ゲーム中では、この考えがデファクトになっているようにしか見えません。これでは、主人公の思考や行動が、それまでの事件なり何なりとどのような因果関係を有するのか、説明できません。端的にいえば、それぞれの行動を見ても、どのような意味づけをしてよいものやら、さっぱりわからないのです。

 一応、ふられた後にも、彼の周囲にはかわいい女の子が何人もいて、なんだかんだで彼女候補がそれなりに揃っているため、結果的に「形式としての恋愛ゲーム」としての要素は満たしているものの、主人公側から見た恋愛譚にはなっていません。これは、描写されている恋愛が、主人公発ではなく、あくまでもヒロイン側からのアプローチであることが大前提になっています。したがって、ヒロイン側の描写が重要になってくるわけです。

散開するヒロインたち

 それでは、ヒロインのほうから見るとどうか、となるわけですが、これもまたバラバラです。

 元彼女であった真希子のストーリーはいちおう一貫していますが――主人公が立ち直るための道具となっている観があり、どうにも納得いかないのですが、それはさておき――、ほかの各ヒロインのシナリオは、主人公とのリンクができていません。例えば、天然キャラの美優の場合、その無邪気さゆえに、主人公の態度にいろいろと悩むことになるのですが、彼女の変化が主人公の動きと関連せず、ある時期を超えることによってストーリーが終わってしまうように見えます。

 別段、恋愛感情がヒロインから主人公へという一方通行になっているとはかぎりません。むしろ、主人公のほうが、淡い思慕の情を寄せているケースさえあります(真希子はどうしたんだという気がしますが…)。それより問題なのは、両者の間ですれ違いが生じていると思われるのに、それをまったく認識していないケースが多いこと。ヒロインを受け止める主人公の側では、恋人を受け入れる体勢が取れないことが大前提となっている以上、つきあい始めたときに出てくるさまざまな食い違いを解決していくプロセスは、イニシエーションとして必須だと思うのですが。

テーマが拡散するのか集約するのか

 さらに、主人公側から見ても、ヒロイン側から見ても、何をもって物語が“完結”したといえるのか、それがさっぱりわかりません。一般的な恋愛ストーリーであるなら、二人が結ばれて幸せに過ごしましたとさ、おしまい、で済むのでしょうが、この作品では、キャラクターが抱えているものを克服する必要があるわけですが、それを克服できた、あるいはできなかったことをどの時点で判定できるのか、それがあまりにも不明瞭です。

 ヒロインごとに個別の課題があって、主人公と接することでそれが解決していく。あるいは、各ヒロインがそれぞれ共通点を持つ何らかの課題を抱え、主人公が(少なくとも結果的には)鍵となってその課題が解決されていく。そういう形を取らなければ、話が話として成立しないと思うのですけれど。

話の組み立てが悪い

 ストーリーの組み立てとなると、2000年発売という時期を考慮しても、かなり低いと言わざるを得ません。

 突拍子もない設定に依拠している以上、ある程度「笑ってすませろ」といった感じで流してしまってもよいとは思いますが、それにも限度があるでしょう。さらに、発生イベントの内容の薄さ、あるいは会話のテンポのまずさなどもあって、ヒロインごとの思い入れが出る前に個別ルートに入ってしまうため、キャラゲーとしての“引き”も、決定的に欠落しています。イベントごとの会話の妙が出色だった『Railway』以降とは、トーンがまったく異なると思わないと、ガッカリすることでしょう。

ゲームデザイン

 攻略可能なキャラクターは5人です。ゲームの流れは、各ヒロインごとの好感度が最も高いキャラのルートに分岐し、そこから一気に話が進むというものです。前半の共通パートに比べて後半の個別パートがずいぶん短く、全体としてバランスを失している観があります。

 学園の昼休み中にマップ移動画面が表示され、ここでキャラクターと会話して好感度を上げます。キャラの位置は「?」マークが表示されるのみですが、キャラの登場パターンはおおむね決まっているため、意中のキャラと会いたいという場合にもさほど迷うことはないでしょう。1日1回程度会うように心がければ、まずルートに入ることは可能です。選択肢が出る場合もありますが、ごく素直なものばかりなので、特に問題ありません。難易度はかなり低いといえます。

 各ルートの終盤になると、ヒロインキャラをレイプできる選択肢もでてきます。しかし、この存在によって、主人公とヒロインの間にあった齟齬がいつ表面化するかわからない危うさが浮き彫りになってしまい、エンディングの意味づけがきわめて稀薄なものになっていることを考慮すると、少なくともシナリオの完成度という点で見ると、蛇足なものです。ヒロインを犯す展開にするなら、仲が少しよくなった時点で、主人公とヒロインのミスマッチが回復不可能な状態になるというターニングポイントを設けるべきでした。一応、設定メニューでカットすることができるようになってはいますが、Hシーンのバリエーションを増す以外の意味はまったくありません。

 残念なのは、各イベントごとの整合性が取れていない個所が多い点。例えば、放課後であるキャラ甲と会った後、同一イベント内で別のキャラ乙が「今日はゲーセンに行っていた」といいます。その翌日、放課後にキャラ乙と会うと「最近ゲーセンに行っていない」というセリフが出てきたりします。この程度のフラグ調整がさほど困難な作業であるとも思えないだけに、ちょっと残念なところ。

 ゲームを進めていく中で、フリーマーケットやら人形劇やらが挿入され、ここでそれなりのオペレーションが必要となるのですが、邪魔以外の何者でもありません。ちびキャラが動くのはそれなりに楽しいのですが(トマトの目つき悪すぎ…)、一度見れば十分。セカンドプレイ以降はスキップできるようにしてほしかった。

 なお、ゲーム本編中で、あるキャラと会話を重ねると、ミニゲームをプレイすることができます。このゲームをクリアすると、さまざまなヒントを入手できます。しかし、このミニゲームに伴うサブストーリーもまた、後味が悪いのがなんとも困ったところ。せめて、本編に対して何らかの関係があるようにしてあればよかったのですが。

不具合・修正ファイル

 WindowsXP環境でプレイしたところ、一部のフォントが大きく乱れる現象を確認しています。テキスト表示の一字が崩れるのみなので、内容の把握には大きな支障はありません。修正ファイルは配布されていません。

デモ・体験版

 デモ版の公開は確認されていませんが、ゲームをインストールすると、デモもインストールされます。ただし、ゲームとは別のプログラムであるうえ、ゲームの起動時などには表示されず、スタートメニューから別途呼び出す必要があります。ゲームを起動する際にはCD-ROMが必須なので、スタートメニューではなくCD挿入時のメニューからゲームを開始していると、デモの存在にまったく気づかないでしょう(私が気づいたのは、ゲームをコンプリートしたあとのことでした)。

操作性など

 対応OSは、Windows98/Me/2000/XPです。DVDケースパッケージで、マニュアルはごく簡単な紙が入っているのみという素っ気なさです。

 画面はグラフィックが640×480全画面表示で、ウィンドウ表示とフルスクリーン表示を切り替えられます。会話時にはテキストがメッセージウィンドウに、モノローグ時にはテキストが全画面に表示されます。

 操作は基本的にマウスで行いますが、メッセージ送りはキーボードでも可能です。セーブ&ロードは、移動画面・フリーマーケット・人形劇およびミニゲーム以外の部分で、10個所まで可能で、セーブ時の実日時が記録されます。難易度は低くキャラの数もそう多くはないので、これで十分でしょう。また、トップメニューで「前回の続き」を選択することで、前回セーブした個所から開始することができます。なお、ゲーム中にはメニューは表示されず、必要に応じて右クリックメニューから各種設定を行います。

 このほか、CGモード、Hシーン鑑賞モード、音楽再生モードがあります。おおむね、必要最低限の機能のみを搭載しているといった印象です。

サウンド

 サウンド担当はI'veですが、どうにも耳に残らない曲ばかりといった印象です。個別のキャラおよびシーンそのものが印象に残っていなかったという面もあるのでしょうが…。その中で唯一「さえずり/水」が、ゆったりした暖かみ伴う、いい感じの曲という印象です。

 上述のデモで用いられている「Color of Happiness」は、やや暗いこのゲームの中で、さっぱりした清涼感あるクリアなボーカル曲で、音楽再生モードから聴くことができます。しかし、このゲームCD中にはショートバージョンしか収録されていません。さすがに評判が悪かったのか、次回作以降では、フルバージョンが収録されるようになりましたが…。

 イベントシーンでのみ、攻略対象ヒロインが音声付きです。演技はそれなりのものかと思いますが、例によって詳細はコメントできません。

グラフィック

 原画担当は、甲斐氏。ぽっちゃりした感じのボディにダブついた格好の制服、針金のようにキンキンしている髪といった特徴があります。さすがに、2000年の絵を現時点で判断しても仕方がないのですが、まあこういう絵なんだ、と思ってプレイして、特に気にはなりませんでした。

 イベントシーンでの背景の彩色にはきれいなものがありますが、そうでないものも多く、シーンごとで使われているグラフィックを比較すると、どうにもバランスを欠いているという印象があります。

お気に入り

 特になし。

総評

 よくも悪くも、のちのEMUの作品、特に『雨に歌う譚詩曲』へと繋がっていくための布石といった印象があります。ヒロインごとの心情を主人公に向けることで、彼女たちの変化を描くことを狙っているのですが、それを主人公が受け止める体勢がまったく整っていません。

 シナリオ以外の面でみても、ミニゲームがそれなりに楽しめるものの、これはゲーム全体の評価を左右するほどのものではありません。

 EMUの(あるいは、シナリオ担当である門司氏の)作品を一貫して見たい、という理由でないかぎり、あえて手を出すだけのメリットはないでしょう。

個人評価 ★★★★☆ ☆☆☆☆☆
2005年5月2日
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