想い出の彼方 PL+US

2000年8月4日発売
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 想い出、過去、ノスタルジー、そういったものを題材としたゲームはいくつもあります。これには、Xゲームのプレイヤー層を考えた場合、過去を回想したがるような層がかなりの程度あるからという理由づけが可能でしょうが、それにとどまらず、過去のやや苦い想いが、現在にはどのように投影されているか、それをファンタジックに綴ったものもあります。まあ実際には、奇を衒って自爆しているケースもあるわけですけれど、この『想い出の彼方』は、なかなかによくまとまった作品でありました。セピア調のパッケージからも、ゲームの雰囲気はよく伝わってきますね。

 前作『蒼刻ノ夜想曲』の雰囲気が非常に好きだったこともあって、このゲームもわりとすんなり受け入れられましたが、前作に比べると、いろいろな面で洗練されてきている、という印象です。非常に地味かつ渋い、というのは変わらないのですが。

シナリオ

 大学生・北原和哉(変更不可)は、同窓会のために出身地へと数年ぶりに戻ってきた。変わる街並みに目を瞬かせつつ、同級生たちとの久々の会話を楽しんだ彼だが、過去の「想い」は、彼を思いもしない世界へと誘うこととなった。その世界にて彼を迎える運命とは何か、その世界に待っているヒロインたちの抱えている苦悩は何か。彼の想いは、夏の日差しの下で、どのような姿を取って現れるのであろうか。

 

 シナリオ担当は、青山拓也・田代裕の両氏。

 パターンとして斬新さがない、というのは確かに指摘できますが、サスペンスとファンタジーを足して2で割ったような独特の感じ(なんじゃそりゃ)が非常に好印象を与えます。

 まずイントロで、いきなり謎に満ちた「世界」を暗示させながら、ほのぼのとして楽しい沢口たちとの会話を重ねてなごませるという『』と同様の手法を取っていますが、これ自体はすでに手垢のついた導入法といえましょう。雰囲気的にも、明るい中に渋みを残す、ということを、常に意識させるようなものがあります。

 その過程で、主人公が抱いてきた「想い出」に対し、「現在の自分」がどのようにケリをつけるのか、が、このゲームシナリオに一貫したテーマといえましょう。その「想い出」のバックボーンになっているのは、必ずしも「過去」の自分ばかりではなく、むしろ、「想い出」を共有可能であったヒロインの過去(その「過去」が主人公の「過去」と同一であるわけではない)をどう受け止め、それを「現在の自分」がどう捉えるか。過去における悲劇を現在において超克したり、現在から見て歯を噛みたくなるような過去を再評価したり、その方法は、ヒロインの立場や対応、状況によって変わってくるわけです。このゲームの根本には、そういったテーマが流れているように感じます。

 そのテーマを下地においた上で、各ヒロインごとにシナリオが用意されているわけですが、そこには、「過去」というモティーフがすべて共通して装備されています(まぁ、過去のない想い出などありえないので、当然ですが)。その「過去」の描き方を見ると、主人公の目から見た描写が、かなり断片的という印象が強いものの、むしろ「過去を表す突然のイベント」に対しても、その際に示される情報が「説明のため」という臭さを極力排し、なおかつ、1回のイベントに集中豪雨的に情報を提示するということもないため、さほど面食らわずに済んでいます。

 

 また、メインシナリオでは、雰囲気だけでなく、モチーフとして用いられている「過去」に、「死」という「時計の針を巻き戻して解くことのできない件」を織り込んでいるため、人が生きている際に逃れられない因果律をうまく取り扱っている点で、充分に評価に値すると思います。演出面でもっと強く押し出しをするとよかったかな、といく気もしますけれど、むしろこの「渋さ」がいい、ともいえるので、何とも言えませんかね。

 人が「死ぬ」ということ、そして時間が経過すること、この2つを単純にクロスさせるのみならず、主人公・ヒロイン双方の立場や心境を非常にていねいに扱い、「自分で勝手に納得して勝手に進んでいく」という、こういうシナリオにありがちな失敗を犯していなかった点が、なによりもよかったと感じます。

 ヒロインが「死ぬ」あるいは「死んでいる」ことからスタートするゲームはほかにもありますが(例:『Rainy Blue』など)、このシナリオでは、心情描写がたんねんであるだけではなく、「誰にとって」の「何」が「どう」なのか、がきちんと出ている点も良かったところでしょう。そして、「自分の中の過去」をきちんと出していますから、展開に嫌みな点も不自然な点もなかったと感じたしだいです。

 ただし、難を挙げれば、美緒シナリオでは葉耶香なしではシナリオが完結しない反面、逆が成り立たないことがありましょう。葉耶香シナリオでの美緒は、中盤までのダシに使われているに過ぎず、祭に置き去りにされてそのままオシマイ。ずいぶん可哀想な目にあっているものです。

 

 いうなれば「サブ系」に属するほかのシナリオに関しても目を向けるべきなのでしょうが、そうすると、各シナリオ間の質・量両面での差が目についた点を、指摘しておくべきでしょう。

 縁シナリオなど、主人公の行動パターンは独善的かつ視野狭窄でありストーカー以外の何ものでもないうえ、「過去」への対峙姿勢とケリのつけ方が非常に中途半端であり、全体的に「浮いている」印象を否定できません。それ以外のシナリオでも、メイン2人以外の場合、主人公の「過去」とヒロインの「過去」とのつなぎ合わせにややでき合い的な印象を持たざるを得ないところが端々に残ってはいます。

 また、有紀シナリオにおいては、幼なじみ、そして「生者の中の死者」というテーマが含まれているんですが、美緒・葉耶香両シナリオに比べれば、展開が素直すぎ、迫力に欠けたような気がします。人間関係が2シナリオに比べて単純であること、物語として取り上げられる事件としても平凡であることが痛かったか。「過去」の扱い方自体は悪くないんですが。

 また、ひふみシナリオは、幽霊とは関係がないものの、やはり「時間」あるいは「人間関係」というものをきちんと扱っていると感じます。主人公の心情が行動および展開へと単純に直結することはなく、「主人公→ヒロイン」という心境が「逐一どう変化していくか」を実直に描写していたのが良。もっとも、ヒロインの心境変化に主人公がなぜつきあう必要があったのか、というツッコミが入る余地が十分にあったのは問題ではあります。

 

 テキストとしてみた場合、誤字脱字がちらほらあったのは確かですけれど、「一画面に表示されるテキスト量がきちんと計算されている」「現在形と完了形との配置バランスが取れている」「文章語として均整を考えた語彙の使い方をしている」と感じました。例えば、某シナリオの滝の部分では、メイン部分を「瀧」と表記する一方、「滝壺」「瀑布」といった表現をも併用するなど、なかなかできない芸当だと感じました。テキストの中に使われている語彙を見ても、なかなかシナリオライター氏の力量を感じます。

ゲームデザイン

 選択肢によって分岐していくタイプのアドベンチャーゲームです。好感度などの内部パラメータはないようです。

 序盤でシナリオが分岐し、それ以降はごく細かい小分岐があるだけです。ただ、終盤では即死選択肢が結構あるので、注意が必要です。

 各シナリオ間でみると、辻川・沢口両シナリオを除けば、基本的に関連性はなく、登場人物に重複がある程度のものに過ぎませんから、実際にはシナリオを見る順によって印象が大幅に違ってくるということはないと思います。もっとも、エンディングフラグ方式が取られているようで、ある特定のエンディングを見られないと選択肢が出現しないケースがあります。

不具合・修正プログラム

 PL+USのWebサイトにアップされている修正ファイルを用いてプレイしましたが、あるシナリオのHシーンで、CGが欠けるという不具合があります。ゲームの進行自体には支障がないので、ファイルの一部が壊れているものと推測されます。

操作性など

 CD-ROM2枚組となっています。CD-ROMを挿入するとインストールシールドが自動起動しますが、インストール先以外の選択はできません。また、ゲームを起動する際には、CD-ROMが必要です。

 操作には、マウスとキーボードの双方が使用可能です。画面中での選択なども、基本的に二択・三択があるだけなので、キーボードの方がやりやすいでしょう。

 画面は、640×480とフルスクリーンから切り替え可能です。基本的に全画面表示で、テキストがグラフィックの上に重なって表示されるビジュアルノベルのスタイルを取っています。スペースキーまたはマウス右クリックでテキストを消去できます。メッセージ速度表示は、標準速のほか、ノーウェイト表示も可能です。また、「Ctrl」キー押下でメッセージスキップ可能で、メニューバーの「スキップ」を押すと既読のみをスキップすることができます。さらに、既読文のみ高速表示することも可能です。テキストの読み返し機能も装備されるなど、「読む」ことについては、非常に細かいところまで気が配られているのが嬉しいところですね。フォントも任意のものを選択することができます。

 セーブ&ロードは、任意の位置で80個所まで可能ですが、そんなにいっぱい使うことはないでしょう。セーブ時の実日時も記録されますが、各シナリオごとの分岐は序盤で行われるわけですから、何シナリオに入っていたかも表記されていれば、もっと使い勝手がよかったですね。

 CGモードもあり、ヒロインごとにサムネイル表示されます。枚数はさほど多くはありません。回想モードはありません。また、前作とは異なり、BGMモードが装備されました。曲名を選んで再生する形式になっています。

サウンド

 BGMは、CD-DAで演奏されます。ノリのよい感じの曲よりも、穏やかなサウンドの方が、ゲームの雰囲気とよく合っていますね。特に「little miss」が流れると、しんみりとして、非常にいいです。

 音声は、主人公以外の全キャラクターが(男性も含め)フルボイスとなっています。私は、音声をオンにする場合は全キャラクターをオンにするので特に問題はありませんでしたが、男性はオフにできるように切り替えればなおよかったでしょうね。演技はなかなかよく、辻川の落ち着いた声や沢口の元気いっぱいな声が印象に残っています。

グラフィック

 キャラ原画担当は「とうかい林檎」さん。やはり目にクセがあるのは相変わらずですが、爬虫類を連想させるような極端な緑目はだいぶんおとなしくなりました。パッケージでも多用されている横長の目が「合わない」という方は、避けた方がいいかもしれませんね。キャラの表情変化はさほど大きくはありませんが、ビジュアルノベルという方式を採っている以上、変化の大きさで画面演出を図るのはあまりスマートな方法ではないでしょうし、これでいいと思います。

 塗りは、このゲームらしいといえばそれまでですが、非常に渋く、いい味を出していますね。夜のシーンが多いこともあって、青あるいはセピア系統のカラーリングでまとめられた背景は、文字を浮き上がらせるのにも一役買っています。

 ビジュアルノベルというスタイルのゲームで必要な、テキスト表示と画面切り替えのタイミング、そして画面の明るさのバランスですが、この両者はともに、非常にスマートであると感じました。まず前者の間の取り方ですが、「テキスト消去→画面切り替え→テキスト再表示」のプロセスが、非常に自然なんですね。これは、表情変化をやや抑え気味にしているという面もあるのでしょうが、音声付きビジュアルノベルでしばしば起こる「頻繁な間抜けタイム挿入」という失敗からうまく避けられています。また後者でも、文字をきれいに見せようとするあまり、背景が非常に暗くなってしまう、あるいは何が描かれているのかわからなくなってしまう場合が多いのに、このゲームでは背景の明るさと文字表示とをうまく重ねています。

お気に入り

 「お気に入りキャラ」が出るタイプのゲームではないのですが、キャラ的に言えば、沢口美緒に尽きますね。冒頭、旅館で「はい?」と声を返すときなど、目が点になっているさまがまざまざと浮かんできます。

 シナリオ的には、やはり辻川になるでしょう。メインというだけあって、非常に気合いが入っています。

関連リンク先

 私のリンク先ページでは、このゲームを扱っているサイトはまだ見当たらないようです。渋いながらもいいゲームですし、それ相応に売れてほしいものなんですけれど。

総評

 非常に地味であり、絵的にもかなりクセが残っているので、その時点で人を選ぶのは間違いありません。また、演出効果がさほど強いわけではなく、萌えられるキャラクターを揃えているわけでもありません。定型的な「物語」を素直にたどるわけではないとはいえ、沸き上がるような感動をもたらしてくれるわけでもなく、非常に静かなシナリオです。

 「想い出」という言葉から、郷愁とファンタジーとを期待される向きに、その期待を裏切らないだけのものを呈示してくれる、稀少な作品といえましょう。別段名作というほどのものでもないのですが、よくまとまった作品だと思います。

個人評価 ★★★★★ ★★★☆☆
2000年9月8日
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