書淫、或いは失われた夢の物語。 Force

2000年7月15日発売
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 私事で恐縮ですが、私は一時期「書淫」という言葉をペンネームの一部に用いていたことがありました。しかし数回使ったところ「エロ小説書いてんのか」と真顔で尋ねられて嫌になり、そのまま使わなくなったという経緯があります(「書淫」という単語の意味は、お手元の国語辞典でお調べください)。それはさておき、このフランス語ちっくな表現のタイトル(かの国では「そして/あるいは」といった表現をよく使います)に、ムズムズとした「何か」を感じたものです。

 プレイしていくごとにうならされるゲームというのは数多くありますが、このゲームは、その叙述の巧みさ、そしてプレイを重ねていくごとにあらたに生み出されていく不思議な世界の独特な魅力が持ち味となっているうえ、その「魅力」をなかなかうまく表現することができないという点で、まことに不思議な作品となっています。パッケージ自体は緑色系統(この配色は非常に珍しいのですが)でさほど人目を引くことがないと思われるにもかかわらず、プレイした人からの評判は上々で、しかしながらセールス的には振るわなかったのか、結局ブランドが消滅してしまい、今となっては「隠れた名作」の名を冠されている、まことに不遇な作品です。私自身、このゲームをプレイしたのはそう新しいことではないのですが、プレイした際に「感じたこと」を言葉にする術をもたず(こういう言い訳によって“逃げる”ことができるのがアマチュアの特権なのではありますが)、結果として、この作品の人口に膾炙する機をあたら逸した観が否めず、今となっては少なからず口惜しい気がします。

 なお、この『書淫、或いは失われた夢の物語。』は、「書淫」および「失われた夢の物語」の2つのパートからなっています。以下、本作品そのものを指す場合は『書淫、』、「書淫」編を指す場合は「書淫」と、読点(、)の有無で区別します。

シナリオ・ゲームデザイン

 「書淫」シナリオでは、主人公「X」は連続婦女暴行魔として、ほかには3人の女性しかいない山中のホテルで活動する。そこで「X」が見たものはなにか。そして「失われた夢の物語」シナリオでは、やはりほかに3人しかいないホテルに閉じこめられてしまった「明」が、3人の女性とどのような「共同生活」を担うのか。それぞれ異なるシナリオを読み解いていくことにより、真の「主人公」の姿が浮かび上がっていく。

 

 シナリオ担当は「深沢豊」氏。

 2つの大きなシナリオ群からなっていますが、オムニバス形式となっているわけではなく、双方が密接に関係/連続しています。さらに、エンディングを次々と見ていく過程で、さらに新しい展開へと入れるようになっているという、マルチエンド/マルチシナリオ形式を取っています。

 構成の妙にこのゲームの大きな魅力が秘められていますが、これを内容面から分離して語るのはあまり賢明な方法ではないので、「シナリオ」および「ゲームデザイン」を統合し、まずは後者から先に進めます。

 

 このゲームの最大の特徴は、非常に多いエンディング数と、最後の最後まで「先」を読むことができない展開でしょう。

 ごく基本的な背景設定は、「書淫、」および「失われた…」の2つでもさほど大きく変わるわけではなく、場所や登場人物もまったく同じです。一方、主人公の置かれた状況がこの2つではかなり異なっています。ただし、エンディングの数は半端ではありません。分岐の基準となる選択肢の数はさほど多いものではないとはいえ、とにかくやたらめったら分かれるため、のんびりプレイしているといつまでたっても終わりません。難易度としては「難」の部類にはいるでしょう。

 

 1つ1つのシナリオはさして長いものではないものの、エンディングの数が半端ではないため、何度も何度も似たようなシチュエーションを繰り返すことになります。1回選んだ選択肢にはマーキングされるので2回目以降のプレイは比較的楽ではありますが、分岐の激しさがそれを補ってあまりあるうえ、話が「進む」のにはかなりの時間がかかります。このため、よほど一気にゲームを進めないかぎり、最終段階に到達したころには序盤の展開のかなりの部分を忘れたり、あるいは複数の展開の中で記憶が混同したりする可能性が非常に高くなっています。通常は、こういった「展開の忘却/混乱」がいい方向に働くことはまずないのですが、こと『書淫、』にかぎって言えば、これはむしろ、それまで見てきたストーリーから現実感を削ぎ、その結果「“いま”プレイしている状態」をよりリアルに感じさせるという形で働いています。

 確かに「謎解き」といった面もシナリオの中に盛り込まれているのは確かですが、それは『書淫、』シナリオの一部であるに過ぎません。そこで広げられて重ねられている「世界」は、それぞれ必ずしも有機的な連関を持つものではなく、ただただ「ある」以上の意味がなさそうなケースもあると見受けられます。しかし、上述の「忘却/混乱」によって、それまでの展開を「過去への回顧」というレベルでごく大雑把に把握する程度の余地は残す一方で、その細部にまで明確に記憶可能な状態にはさせないというスタイルを取っていることは、文字小説ではあり得ない「間」の置き方を、ビジュアルノベルという独特のインタフェースを備える媒体が発揮するものであり、非常に有効な手法であると考えます。

 また、個別のシナリオは決して完成度の高いものではなく、むしろ伏線の貼り方が中途半端であったり、あるいはオチの付け方が弱かったりして、消化不良という感触をプレイヤーに与えます。しかし、それがプレイを重ねていくにしたがって、むしろそれぞれの完成度はこの程度で十分であって、さっさとケリをつけてはつまらない……そんな気にさせてくれました。はじめのうちは偶然のなせるわざだと思っていましたが、貼られている伏線が思いがけないところでいかされていることも何度もあることを考えれば、これは緻密に、計画的に行われた「中途半端」さなのでしょう。

 

 また、『書淫、』においては、主人公以外のキャラクターはヒロイン3人だけなのですが、彼女たちは決して「対等なヒロインズ」ではなく、与えられている役割がまったく違います(これは終盤にならないとピンとこないことですが)。

 そもそも、主人公の「位置」そのものも、序盤から中盤にかけては非常に不安定です。プレイヤーの立場からすると、この「不安定さ」はすぐに不安へと直結するわけですが、これがプレイヤーを引きつける力を強く持っています。

 

 こう書くと、各登場人物が、物語の筆者(あえて「作者」とは言いません)の手によって踊らされているのみの存在に感じられるでしょうが、登場人物は決して「物語の記号」にとどまらず、その「世界」のなかでみずからの行動原理を確かにもちつつ(右往左往するのも「行動原理」の内です)、その「中」で確かに「動いている」ことがきちんと描かれています。より卑近な表現をすれば、感情描写が細やかになされている、といえましょうか。なによりも、各キャラクターが単純に「結びついてハッピー」ではないにも関わらず、最終的にはその相互の連関が決してマイナスに働くものではなく、少なからぬやるせなさを持ちながらも、その「前向きさをともに抱いていく」という姿勢が出ている点を強調しておきます(うーん、ネタバレギリギリの記述かな…)。

不具合・修正ファイル

 少なからぬ問題点があるようです。「LANGuex2」から修正ファイルをダウンロードして適用してからプレイするのがよいでしょう。私は最新のパッチを当ててプレイしましたが、特に問題は発生していません。ただし、まだ誤字などが修正しきれていない個所が散見されます…というか、ビジュアルノベルで誤字だらけというのはやはり致命的だと思うのですが。

デモ・体験版

 いずれも、存在を確認していません。

操作性など

 対応OSは、Windows95/98/2000ですが、WindowsXPでも問題なく動作します。

 メディアはCD-ROM1枚です。

 インストール時に消費するHDD容量はわずか70MB弱で、しかもプレイのCD-ROMが不要であることを考えれば、そう古くはないゲームとしては驚異的でしょう。グラフィックが貧弱であったりエフェクトがパッとしなかったりする点を差し引く必要があるとはいえ、これはありがたいことです。

 画面は、640×480ウィンドウ表示で、テキストは全画面に表示されます(一部のイベントのみ、メッセージが下部テキストウィンドウに表示されます)。ゲームを起動すると、「書淫」「失われた夢の物語」「EXTRA CG」「EXTRA H」「EXTRA ♪」「エンディングチェック」「名前登録」「お読みください」の各項目が表示されます(初回プレイ時には表示されない項目もあります)。ロードするときは、トップメニューではなくドロップダウンメニューから選択する必要があります。また、フォント(初回プレイ時には自動的に生成されます)も変更可能です。

 プレイ時には、大半の作業をキーボードで行います。選択場面はもちろん、ゲーム中にはキーボードでの入力が必須となる画面があるなど、マウスよりもキーボードが中心となっています。メッセージスキップも可能。

 セーブ&ロードは、任意の場所で999(!)まで可能で、プレイ中の日時とゲーム中のシーン(編集可能)とが記録されます。分岐が複雑怪奇を極めるゲームとあって、この仕様はありがたいところ。

 CGモードは、サムネイル形式で表示されます。Hシーン回想モードは各ヒロインごとに、BGMモードは曲名から選択する方式になっています。BGMモードでの各曲ごとの適切な解説がなかなかよろしい。

サウンド

 音楽担当は「石原伸悟」氏。BGMはMIDIで演奏され、ちょっと控えめで、しかし閉鎖された空間での焦りがうまく出ています。また、要所要所で出てくる効果音が非常によく利いている点が特筆できます。単独で聴くほどのものではありませんが。

グラフィック

 原画担当は「月永真洋」氏。グラフィックで引きたてるゲームでないという点を考慮すれば、地味な塗りは雰囲気を損なっていないのでいいのかな、とも思いますが、いかんせんあまりにも渋すぎ。もう少し明るめでもいいかと思います。特に立ち絵は、ヒロインがみな1人につき同じ姿勢ばかりなので、どうにも寂しいものです。CGの数はずいぶんと少なめなのが寂しいところ。

 背景はなかなかきれいですが、もともと地味な描写にならざるを得ない宿命もあってか、あまり目を引きません。

お気に入り

 特にありません。そもそも、個別のキャラクターに対して思い入れが出るようなタイプのゲームではありませんから。強いていえば、“物語”そのものが「お気に入り」の対象になった、という気がします(誤解のないように言い添えておきますが、べつだん「世界観」「倫理観」などが提示されているわけではありません)。

総評

 プレイした当初は「陵辱物と純愛物とを並列させた物」という程度の認識しかありませんでしたが、これはみごとにいい方向に裏切られました。ゲームの中で浮かび上がってくる世界と、そこへ没入していくプレイヤーとが、いわば相互に「意志」を交換し合うような錯覚をさえ感じさせてくれます。プレイヤーがカタルシスを感じる「場」を提供するのではなく、物語世界とプレイヤーとが直接肉弾戦を交える舞台を提供しているのが『書淫、』というゲームである…そのような気がします。物語に対して意味を付与することが虚しいという、いわばあたりまえのことを、当然のように認識させてくれる作品になっています。

 ただし、エンディングの数があまりにも多いうえに、とにかくそれらを進めていかないと何も見えないため、最初の段階でプレイを放棄してしまった人が少なくないのではないか、という点が気にかかります。そして何より、このように地味なパッケージと、ひたすら「読む」ことがプレイの前提条件として求められることもあって、そのスタイルがプレイヤーのニーズに合わなければ、まず「おもしろい」と感じることもないでしょう。さらに、物語世界そのものが、プレイヤーの「関心」から直接引き出されるという面もあるため、プレイヤーの視点しだいでは、とんだ「空振り」に終わるリスクもあります。

 そういったマイナス面を差し引いてもなお、「ゲーム」という媒体で新しい語り方を提示した、非常に魅力的な作品であることには、いささかの揺るぎもありません。内容と構成とが有機的に関係し、そして凝った構成が「物語」を大きくまとめることを「作品」として成功させているという視点で見れば、『痕』(Leaf)に匹敵する出来ともいえます。これだけの作品が今後出ることは望み薄という見方ができそうなのは非常に残念ではありますが、むしろこういう作品が出たということそのものを奇貨とするべきなのかもしれません。

個人評価 ★★★★★ ★★★★☆
2002年9月30日
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