水素 〜1/2の奇蹟〜 e-エ・レ・キテル

2001年3月30日発売
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 「水素」という、およそゲームにはふさわしからぬタイトルを見て、私の頭に浮かんだイメージは「Hが2つ、共有結合…ぐへへ」でした(^^;) 我ながら発想が貧困かつ情けないことには苦笑せざるを得ませんが、いずれにせよ、これまでのゲームとは何か違った「奇」を求めたゲームなのだろう、と思った次第。もっとも、「奇」の結果は、得てして悲惨な結果になることが多いものですが。

 なお、マニュアルのキャラ紹介文6人分のうち、5人分までが日本語としておかしく、これを見た瞬間「やっちまったか…」と思ったため、特に大した期待も持たずにプレイすることとなりました。

シナリオ

 学園の2年生である主人公、倉田洋介(変更可能)は、夏休みの期間中、自分が所属する新聞部でさまざまな活動を行う。その中で出会う少女たちと、いろいろな物語を作りだしていくことになる。少女たちの見せる「顔」の実は、どのようなものなのだろうか。

 

 シナリオは、へろ〜ん(綺羅・まひる・彩乃)・MIYA(千奈美・静瑠)・マロガッツ(千奈美)各氏の担当。そのせいか、「綺羅・まひる・彩乃」と「千奈美・静瑠」とでは、シナリオの雰囲気が明らかに異なっています。以下、それぞれのシナリオグループを「彩乃系」「千奈美系」と書くことにします。

 

 共通しているのは、どのヒロインも主人公に対して「仮面」ならぬ「別の面」を見せていることです。この「別の面」は、ヒロインが主人公にアクセスする際に、ヒロイン側はわかっているけれど主人公にはその正体がわからない、というスタイルを取っています。ややシリアスな雰囲気を持たせながら、日常のコミカルなシーンを取り込んだシナリオ、ということになるでしょうか。

 ところで、タイトルで用いられている「水素」ですが、私が見たかぎり、特に水素という化学物質ないし元素と関連しそうなものは見当たりませんでした。要所要所でイメージ的に挿入されるのは、むしろ「水」ですね。「水素」というよりは「水沫」とでも表した方が的確だったようにも思えますが。「水」と「水素」とは関係ないと思うのですけれど。

 

 まず、メイン級であると考えられる彩乃系シナリオですが、ヒロインの境遇がかなり「紆余曲折を経た」ものとなっています。こういう場合、主人公とヒロインとの関係を構築するのであれば、救いを求めようとするヒロインが、主人公(あるいはその言動・行動など)に対して「自分」を照射し、何かを見出すという過程があるはずです。しかるに、主人公の境遇や内面などに関わる描写はまったくありません。18禁ゲームに典型的な「取りあえず一人暮らし」というパターンが用意され、あとは徹頭徹尾「没個性」を絵に描いたような設定になっていることに目くじらを立てる必要はありませんが、その後の主人公の「動き」を見せることで、「ヒロインとの繋がり」がいかなる意味を帯びるのか、その記述はみごとに省かれています。この結果、ヒロインという「人間」をただ重たくするのみで、ヒロインと主人公とがつながること自体はやたらと「軽く」なり、取って付けたような「結末」にしか見えてきません。

 これとは別の問題として、クライマックス付近の展開、あるいはエンディングでのオチ、さらには(後から振り返っての)ヒロインの行動など、一貫性・合理性ともに欠ける点が多く、各イベント間のリンクも説得力がないものが目立ちます。それなりにマトモであるまひるはともかく、彩乃や綺羅に至っては、「プレイヤーが選択した結果として用意されたエンディング」であるはずなのに、そのエンディング自体が放り出されたように突然現れるという感じです。「感動」を与えようとした結果なのでしょうが、プレイヤー側が関与できないところで話が進み、しかも認識(「理解」以前の段階ですね)もできないほど情報が不足したままで話を締められては、わけわからんままで終わることになります。主人公が納得することは、プレイヤーにも理解可能な範囲にすることが、重たい(「深い」ではない)テーマを扱う場合には求められるはず…というのは、要求の度合いが高すぎるのでしょうか。

 

 一方の千奈美系シナリオでは、主人公を取り巻くキャラクター構成は非常に単純で、主人公・ヒロイン・キーパーソンだけであり、しかもヒロイン以外の女性キャラクターはほとんど出てきません。このため、ヒロインが主人公に対して見せる「もう1つの顔」は、プレイヤーにとっては「結びつけるべき情報」として明確になっている、つまりかなり早い段階でモロにわかる状態になっています。にぶちん主人公がいつになったら気づくのかな、と思いながらプレイすることになりますが、逆に「どういうタイミングで気づかせるのか」と思わせる展開にはなっています。主人公とプレイヤーとが必ずしもシンクロしないことを前提とした手法なので、ストーリーの展開に強引なところや無茶なところがあれば、その時点でガラガラと話が崩れていく危険がありますが、千奈美系シナリオでは無理さがなく、ナチュラルな流れを維持しています。お約束の流れを忠実に守っている感じですので、別段新しいものはありませんが、安心してプレイできるストーリーですね。

 もっとも、私は静瑠の次に千奈美をクリアしたのですが、キャラの作り方が極端なまでに対照的(先輩と後輩というだけでなく、天才と秀才、天然系と元気系、そのほかいろいろ)である反面、ストーリーの組み方はほとんど同じなのは、ちょっと芸がないかな。エンディングが若干異なるのが幸いですが、「この事件の後にはこんな風に収まるんだろうな」という気になってしまったものです。

 

 テキストはビジュアルノベルで表示されていますが、「一文が長くメッセージウィンドウに収まらないので全画面表示にした」というのが実情のようで、テキスト自体に「読ませるだけの魅力」がありません。誤字脱字の多さもさることながら、個別の文と文との連関に対する配慮が欠けており、「一画面に表示する文」に共通点がないのです。改ページ位置などの指定も、かなりいい加減に行われており、「どうしてここで切る?」と思った個所がいくらもありました。「読ませる」ことが「内容を情報として把握させる」に留まっており、「文字を見せてイメージを喚起する」ことへの関心がまったくなかったのではないでしょうか。さらに、地の文はおろか会話文においても、無用に漢字を用いているという印象は否めず、ワープロ変換の出力結果をそのままテキストとして吐き出しているのが見え見えなのも、お粗末なかぎりです。

 端的にいえば、ビジュアルノベルという方式を採用するに足るだけの筆力――日本語運用能力という「スキル」の水準であり、センスうんぬん以前の段階――がないのに、無謀にもその方法を採ってしまっている、ということでしょう。

 

 ヒロインのキャラクターは、幼なじみ、社会人の先輩、謎の学友(?)、先輩、後輩といった定番が揃っていますが、幼なじみの造形はちょっと特異ですね。絵柄もさることながら、人の話を聞かない食欲魔人というのは初めて見ました(^^;

 なお、Hシーンへの導入は、基本的に各シナリオで1回ずつですが、その大半が唐突なもので、盛り上がりに欠けます。

ゲームデザイン

 序盤でヒロインが絞り込まれ、各キャラごとのストーリーになっていきます。一応どのヒロインとも最低1回は会ってから始まりますが、絞り込みは好感度ではなく選択肢による分岐のようです。しかし、これの見極めが意外にも難しく、狙ったキャラのルートにクリティカルに入れるようになるには、数回程度の試行錯誤が必要でしょう。序盤にある3つ程度の選択肢の組み合わせによって決まるようですが、この選択肢群は個別のヒロインとは直接の関係がない場合が多いので、「狙ったキャラのタイプに合わせて常識的に選べばよい」とはいかないところが辛いところ。

 攻略対象キャラは5人いて、それぞれエンディングが用意されています。分岐点以降の同時攻略はできません。

 各キャラごとのシナリオに入ると、イベント単位で話が進行するので、日めくりを1日ずつクリアしていくわけではなく、テンポよく話が進みます。各キャラごとの展開では、正解選択肢と不正解選択肢とがあるようで、正解選択肢をクリティカルに選べばトゥルーエンド(若干の違いは許容範囲)、ミスが多くなるとそうでないエンドとなります。難易度は「標準」といったところでしょう。

 また、どのキャラも、エンディングを見てから再びプレイをすると、選択肢が増え、おまけシナリオに突入します。しかし、本編における主人公とヒロインとの関係を把握していることを前提としている(クリア後に登場しますので)はずなのに、その展開は場違い以外の何ものでもなく、単に「Hシーンのバリエーションを増やす」ために用意されていると見るべきでしょう。もっとも、そのHシーン自体、キャラの性格をすでに掴んでいる以上、イメージギャップがエロ度を低減させる方向に働いています。なにか勘違いしているとしか思えないのですが。

 なお、全キャラをクリアすると、タイトル画面の表示が変わります。

不具合・修正ファイル

 とにかく、非常に問題点が多いようなので、プレイ前にまず修正ファイルをメーカーサイトからダウンロードし、修正した状態でプレイを始められることをお勧めします。私は最初から修正ファイルを用いたせいか、致命的な不具合は特に発生しておりませんが、出荷時のプレイ時のセーブデータは最新版の修正ファイルとの互換性がないそうなので、念のため。

 テキストの誤字脱字の多さも気にかかるところで、特に冒頭の2行目でいきなり白けさせてくれたゲームはこれが初めてではないかと思います。修正ファイルではそれなりに修正されているとのことなのですが、出荷時の状態はこれよりもさらにひどかったということなのでしょうか。

 また、シナリオの不整合も目につきました。綺羅との会話で、名前を教えたはずなのに、次のシーンでは教えていないことになっていたりするので、興ざめもいいところです。こういう事例は、『WHITE ALBUM』(Leaf)などの例もありますが、この『水素』は純然たるアドベンチャーゲームであり、こんな不具合はどうやったところで弁護のしようがありません。猛省を促したいところです。

操作性など

 CD-ROM2枚組となっており、それぞれ「Game-Disc」「BGM-Disc」となっています。しかし、プレイ時に必要なのはBGMディスクの方なのは、なんとも妙な仕様。さらに、マニュアルのインストール方法説明は、ディスクが1枚であることを前提としたものとなっており、どうにも不親切さが漂っています。インストールに必要なHDDの空き容量は約300MBですが、このスペック表示はマニュアルはおろかパッケージにさえ書かれていません。「CD-ROM:4倍速ドライブ以上(8倍速以上推奨)」なんていうのはむしろどうでもいいのであって、ごく一般的なプレイヤーにとってもっとも気になるであろうスペックに関して表示をしないというのは、ずいぶん無神経です。

 画面構成は、640×480ウィンドウ表示とフルスクリーン表示とを選択可能で、グラフィック全画面表示・その上にテキストが乗るというスタイルです。一般的なメニューバーの替わりに、画面上部にコマンドボタンが配置され(フルスクリーン表示時にはカーソルを上に持っていくと出てきます)、これを押すことでシステム変更などが容易…のはずなのですが、音声などないのに「音声」ボタンがあったりするあたりで十分に怪しく、また「スキップ」を押すと、ボタンを再度押さないと止まらないのは致命的です(特にフルスクリーン表示の場合、リアルタイムでボタンを押すのはほぼ不可能)。また、タイトル画面に表示される「ロード」コマンドも、直前プレイ時のオートセーブデータから強制的に始まるなど、不可解かつマニュアルへの記載のない仕様が満載です。このあたりは、プレイしていくうちに要領を掴んでいくしかないのですが、RPGやSLGじゃあるまいし、ビジュアルノベルで「操作にコツを要する」ゲームというのは、情けないかぎりです。なお、このスキップ機能は、マニュアルによると既読テキストをスキップすると書いてありますが、私の環境では、既読・未読の区別はしていないようです。テキスト巻き戻し機能も今ひとつ使い勝手が悪いですね。すぐに使えるボタンは、セーブ・ロード・画面サイズぐらいではないでしょうか。なお、このコマンドボタンのスキンを、ゲームが起動していないときに切り替えることができますが、モノによってはなかなか不気味なのもあって笑えます(^_^; しかし、いらんところに凝っているという印象が強いですね。

 コンフィグメニューで可能な設定は、音楽のオン・オフ、音楽ボリューム調整(9段階)、効果音のオン・オフ、アニメーションのオン・オフ、文字スピードの調整(5段階)、文字スキップのオン・オフ、画面サイズ設定。

 アクションは、キーボード・マウスのいずれでも可能です。

 セーブ&ロードは、任意の位置で、36個所まで可能です。選択肢の数から考えれば十分。セーブ時の実日時と主人公名とが記録されますが、どのシナリオパートかも表記されていればもっとよかったですね。なお、セーブ画面からタイトル画面に戻ることができますが、この仕様も妙と言えば妙。

 CGモードは、タイトルメニューから入れ、サムネイル表示されます。全キャラをクリアすると、おまけCGも見られるようになります(古美明さんの絵のほか、おそらく飯塚さんの手によるヒロイン絵もありました)。Hシーン回想モード、BGMモード(曲名あり)も用意されています。

 なお、タイトルメニューから「終了」すると、ランダムで各ヒロインのデフォルメ絵(マニュアルにも載っています)が出ますが、ミノムシモードの静瑠が個人的にはお気に入りです(^^)

サウンド

 BGMは、CD-DAで演奏されます。担当はおなじみのI'veで、「flow 〜水の生まれた場所〜」と「YA・KU・SO・KU」(Vo:共にKOTOKOさん)の2曲がボーカル曲となっています。前者のショートバージョンは、メーカーサイトにて公開されています(2001年7月現在)ので、興味があれば聴いてみるのが吉でしょう。BGM自体は、曲単体では取り立ててどうこういうものではないのですが、各曲間の雰囲気がずいぶんと違っているうえ、シーンごとに用いられているBGMが必ずしもマッチしているとは限らないので、違和感をおぼえたこともありました。

 音声はありません。キャラゲーとしての性格が強い中、音声なしというのは最近では珍しいですね。別になくてもかまわないのですが、音声がないためにかえってテキストの貧弱さが目にあまったという気もします。

グラフィック

 キャラクターデザインは古美明氏。ポタッとした幼げな目に特徴があります。しかし、キャラの大きさや画面内の配置がやや中途半端なせいか、どうにもビジュアル的に「かわいい」という気になれませんでした。一枚絵ではそれなりにキャラの表情が生きているのですが、立ちCGでは「現在の話し相手は彼女です」という説明程度の存在感しか示していなかったように感じます。なお、千奈美を除き、それなりに胸を強調した図柄になっているのですが、顔が幼いために不自然です。また、学校が同じハズなのに、制服のパターンが2とおりあるのはなぜなのでしょうか。綺羅と彩乃、千奈美と静瑠とはそれぞれ同じなんですが。なお、CG監修は飯塚正則氏となっています。個人的には、古美・飯塚両氏とも好きなタイプなんですが、これが混ざってしまって中途半端になってしまったように思えます。

 なお、雨が降るシーンでは、雨がアニメーションで表示されるのですが、これは非常によかったと思います。

お気に入り

 マイペースな先輩・静瑠がいいですね。静瑠先輩の水着姿サイコーヾ(^^; 決めゼリフ「ティアーモ」がいいですね。イタリア語を勉強したことがある(「できる」わけではないので念のため)私は「えっ、もう!?」と思いましたけれど。

 千奈美ちゃんも悪くはないけど…ジュース飲むときにヒジついて小指立てるのはやめなさいね(^^;

関連リンク先

 バランスよくまとまっているところとしてSHEOさんのサイトがあります。

総評

 ストーリー展開が盛り上がりにどうにも欠ける上、はっておくべき伏線が用意されていないなど、シナリオ面での不備が非常に目につきます。この結果、シリアスな雰囲気はもちろん、キャラに対する思い入れも出てきません。キャラゲーとして割り切るにしても、満足できるのは千奈美系2シナリオだけでしょうが、メインを務めると思われる彩乃系3シナリオが事実上未完成であることを考えれば、トータルではマイナス評価に落ち着くでしょう。

 また、古美さんのグラフィックにしても、その魅力をいかせているとはとうてい言えません。時折、ドキッとするようなシーンがある反面、日常パートではいきいきとした面がないのは、致命的とまではいかなくとも、魅力を大きく損なっているのは間違いありません。

 「悪くない」ところもそれなりにはあるため、バッサリ全否定することはできないといった程度の魅力がないこともないのですが、少なくとも積極的に推奨できるものを備えているとはとてもいえない、結果としてマイナスイメージを残してしまう作品と評するのが妥当でしょう。

個人評価 ★★★★☆ ☆☆☆☆☆
2001年7月30日
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