トリコロール −Tricolore− PL+US

2001年4月27日発売
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 「トリコロール」というタイトルを目にして私が最初に連想したのが、「自由・平等・博愛」をそれぞれシンボルとした三色旗、すなわちフランス共和国旗でした…というのはヘンですね、もともとの意味がそうなんですし。しかし、そこからあれこれといろんなことを思うこと自体は、ヘンでも何でもないでしょう。この3要素の確執だとか、その理想がもつ偽善や欺瞞だとか、あるいは統合(一致)に向けての象徴だとか。「三色旗」という、いろんな意味を背後にもつタイトルが冠せられているだけに、「3つ」の各要素の役割がいかなるものなのか、に注目しておりました。実際には、新品が3,000円以下という価格で売られていたということのほうが、購入の直接の要因の1つでもあったのですけれど(^^;

シナリオ・ゲームデザイン

 研究開発者である父親をもつ主人公・岩瀬道隆(変更不可)のもとに、一体の女の子型ロボットが届けられた。彼女は通称「真珠(しず)」と呼ばれ、日常生活を経験させるために父親から送り込まれたものだった。何事にも好奇心旺盛かつ天真爛漫そのものの彼女であったが、ある日、彼女の中に、朱鷺乃、藍という人格も入っていることがわかった。人間として暮らす多重人格ロボットの見せる表情は、主人公の目にはどう映るのだろうか。

 

 シナリオ担当は、青山拓也氏。

 各人格を別個のキャラクターとして扱っており、各キャラごとに1つずつのエンディングが用意されたタイプのビジュアルノベルです。エンディングフラグ方式ではなく、選択肢による絞り込み方式のようですが、選択のシビアさに差をもうけることによって、実質的に「真珠→藍→朱鷺乃」という順序が想定されているようです。実際、シナリオ構成のバランスを考えれば、これがベストの順番でしょう。バッドエンドは確認していませんが、各ルートの終盤で「あきらめる」タイプの選択肢があるので、一応バッドエンドもあるようです。真珠エンドは楽勝、藍エンドも割と簡単ですが、朱鷺乃エンドは選択肢の見極めが大事なのでやや難しくなっています。全体では、やや易〜標準あたりでしょうか。

 各ルートで脇役のHシーンもありますが、メイン以外とのエンディングはないようです。

 

 各シナリオのバランスは、あまり取れているとはいえません。

 真珠・藍各シナリオでは「ロボットとのつきあい」に対して表面化する問題点を出しています。最終的な問題解決に対して「念ずることで解決する」という姿勢がすべてを決着させているといってよいのですが、そうであるなら、ラブラブベタベタな関係を濃密に描いておき、「壊れるのがつらい」状態を出しておくべきでしょう。しかし、実際には「人間と同様に(同様の、ではない)感情を持つロボットとのコミュニケーション」に主軸がおかれており、恋愛描写も淡々としています。しかし、最後の部分で、それまでの葛藤ないしは別見解に対してなんら解答を用意することなく、感情の勢いで決着づけられても、その説得力を強固なものとすることはできません。真珠シナリオでの「ロボットが人を好きになることの意味」、藍シナリオでの「人工的な"感情"の意味」あるいは「武田・野島の見解に対する論破」といった問題点を「回避」してしまったことは、この両シナリオの魅力を大きく殺ぐことになっているといえます。

 この点、朱鷺乃シナリオは異色シナリオで、人工知能開発という、ブラックボックス化された部分における暗部を題材としており、ロボットの感情それ自体ではなく「ロボットの周囲」に焦点を当てており、なかなかおもしろく描けています。エンディングのまとめかたがスマートすぎる、悪役があまりにも単純すぎるという嫌いがあり、深みに欠ける点は否めませんが、上記2シナリオに比べると完成度はずっと高くなっています。真珠の「日常的素顔」や藍の「隠れた一面」が出ることもあるなど、全体をまとめるシナリオになっているといえます。

 しかし、真珠・藍両シナリオに比べると、朱鷺乃ルートに入るのはけっこうたいへんなので(激ムズではないのですが、上2つがめちゃめちゃ簡単なので)、このルートに入ることなくプレイを挫折した人も多いのではないかと推測されます。だとすると、なんとももったいないゲーム設計になっているといわざるを得ません。

 

 「ロボット」と並んで目玉の1つとなっているであろう、各人格間の「すみ分け」も、うまくいってはいません。ある人格のストーリーの中で別の人格が活躍することもあるのですが、基本的には各人格は相互不干渉を保っており(そもそも真珠はほかの人格を認知できていません)、葛藤などは皆無です。したがって、各人格は「ハードウェアが共通」という以外で有機的な関係をもつことはなく(←無機物じゃんというツッコミが入りそうですが、まあ言葉の綾っス)、従ってトータルでの一体感は皆無です。ある独立不可分のものの構成要素としての3人格、ではありません。これでは、「トリコロール」という看板に偽りあり、といわれても仕方ないでしょう(実際、「トリコロール」というタイトルの説明に関する記述はゲーム内ではいっさいないだけでなく、言葉自体がまったく出てきません)。これでは「三色旗」ではなく「三色弁当」でしょう。もっとも、全部1回に食うことはできませんが(爆)

 

 3者の「登場の仕方」自体、都合のいいときに都合のいい人格が出てくるため、ストーリーの展開に合った人格がその場その場で用意されているという印象が強くなります。

 そしてなによりも、各人格が同一の身体に宿り、それが最後まで続くにもかかわらず(すなわち、どのハッピーエンドにおいても、ほかの人格が消去されることはない)「メデタシメデタシ」で終わってしまうのは、首を傾げざるを得ません。もしこれが「(多重人格症の)人間とのラブストーリー」であれば、ある人格との恋愛が始まりつつほかの人格はそのまんま、ということが不自然であるのは明らかですし、しかも肉体関係が媒介している以上、何らかの形でチグハグさがどこかに出るのは間違いありません。しかし、多重人格という「問題点」についてはほぼ一顧だにせず、せいぜい「人間の多重人格とは違うんだね」といった記述だけで流してしまう無神経さは、私には理解できません。

 

 また、主人公の行動や性格パターンが、序盤と終盤とでズレを感じさせる点も、気にかかります。序盤から中盤にかけての主人公の行動はかなり落ち着いたもので、最初にプレイしたときは主人公が大学生であるという設定であるとさえ感じました(実際には「始業式」があり「転校生」がある学校でした)。しかし、後半になってからの落胆や狼狽の激しさには、それまで事をスマートにさばいてきた姿を感じられないのです。もちろん、熱情に浮かれて行動に一貫性が欠けた、というのであれば、それでもいいでしょう。しかし実際には、主人公は内省的な姿勢をとっており、決して猪突猛進の結果周囲が見えなくなっているわけではありません。それまで培ってきた「余裕ある姿」はどこにいったのか、と思ったものですが、この状態でクライマックスに突入しても、「盛り上げるために落ち込ませたのか」という気にならざるを得ません。

 このズレは、真珠シナリオで特に顕著であり、「心の閉ざし方」がかなり陳腐で、その解決もずいぶん適当なものになっています。この直後に藍シナリオをプレイすれば、主人公とヒロインとの関係を転倒させただけではないのか、といううがった見方も可能となってしまいます。最初にプレイヤーが到達するエンディングであればこそ、「2番手以降のシナリオに期待する」エンディングにしてほしかったものですが。

 ただし、主人公の情報量とプレイヤーのそれとがほぼ一致しており、また状況説明もくどくない程度に行われているため、プレイヤーが「置いてきぼり」になることがなく、そのために最後までプレイすることが可能となっている、そのように見えます。

 

 テキスト自体は、非常に安定した文体で、また語彙の誤用法といったこともなく、非常に安心できます。ただし、(イレギュラーとはいえ)日常に密着した描写が続くことを考えれば、漢字が多用されている点がやや気にかかりました。前々作『蒼刻ノ夜想曲』、あるいは前作『想い出の彼方』美緒・葉耶香両シナリオのような、叙情的・神秘的な雰囲気に依拠した世界ではないだけに、もっと軽く流すタイプの表記がよかったのではないか、と思います。

 日常会話自体は、なかなか楽しいですね。べつだん爆笑するようなものではないのですが、真珠のお気楽な雰囲気を出すのにはうまくいっています。

不具合・修正ファイル

 私がプレイした環境では、不具合などは特に何も見当たりませんでした。

操作性など

 対応OSは、Windows95/98ですが、WindowsXPでも動作します。

 ゲーム内容はCD-ROM1枚で、必要なHDD容量は約155MBと、音声なしゲームらしい容量になっています。CD-ROMなしでもプレイは可能ですが、BGMがCD-DAなので、BGMなしのプレイとなります。

 通常画面はフルスクリーンとウィンドウ表示とを切り替え可能で、グラフィックの上に全画面表示されます。コンフィグメニューからは、画面表示切り替え速度設定、文字補正のON/OFF、テキスト表示速度の2段階切り替え、2回目のテキスト表示高速化ON/OFF、カーソル自動移動ON/OFF、効果音ON/OFFを選択できます。キーボードまたはマウスでの操作が基本(いずれか一方だけで操作可能)ですが、ジョイパッドでのプレイもできます。メッセージスキップは、既読のみ可能です。また、フォントは任意に変更可能です。

 セーブ&ロードは、任意の位置で80個所まで可能ですが、そんなに使うことはまずないでしょう。セーブすると、ゲーム内の日付と、セーブ時の実日時とが記録されます。

 おまけモードは、一回エンディングを見てから入ることができるようになり、CGモードとBGMモードがあります。CGモードは、各ヒロインごとにサムネイル表示されます。BGMモードは、各曲名を選択する方式です。

サウンド

 エンディングはボーカル曲「TRICOLORE DAYS」(何語?(^^;)となっていますが、特に印象に残るほどのものではありません。

 BGMはCD-DAで演奏されます。ちょっとくぐもった感じの曲ですが、これはこれでなかなかよかったかと。

 音声はありません。

グラフィック

 原画担当は、八葉香南氏。パッケージの絵柄どおりとしかいいようがなく、まず無難なところでしょうか。かわいいかわいいという言葉がぽろぽろ出てくるというより、クールなキャラの表情変化(藍のようなタイプ)がよかったですね。

 塗りは、見たところ悪くはないのですが、どうにもあか抜けないというのか、なんというか。ビジュアルノベルで明るい絵柄にしてもしまらないのは確かですが、キャラクターが背景に埋没している印象を受けます。もう少し背景を渋めに、キャラを明確にしたほうがよかったように思います。

お気に入り

 キャラというより人格でいえば、朱鷺乃につきるでしょう。したたかさと強さとを兼ね備えている面もさることながら、脳天気さと前向きさとを両立させている点は見事。

 シーンとしては、朱鷺乃の膝枕ですね。

関連リンク先

 このゲームが内包する問題点をシビアに指摘したレビューとして横山堂さんのレビューを挙げておきます。私の考えでは、それだけで留まるものではないと思うのですが。

総評

 ロボットものとしてみた場合、真珠・藍シナリオで問題を回避する形で決着している点。多重人格ものとしてみた場合、単に「1体で3度おいしい」以上の意味がほとんどない点。この2つの問題点が非常に大きく、素直に楽しめるものになっていないのが、この作品の最大の問題点でしょう。

 各キャラクターの振る舞いなどはうまく差別化されており、そしてまたテキストもきちんとしたものに仕上がっています。また、おそらくは最後にプレイすることになるであろう朱鷺乃シナリオは、小粒ながら良いものになっています。しかし、トータルで見た場合、上の欠点がどうしても足を引っ張る形になっています。

 佳作になり損ねた作品、というのが、ひととおり終えての評価です。もっとも、最後まで終えられなければ、この「評価」自体違ったものになったことは間違いないのでしょうけれど。

個人評価 ★★★★★ ☆☆☆☆☆
2002年1月28日
Mail to:Ken
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