夕闇の童詩 えん

2001年8月31日発売
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 ざしきわらし(ゲーム中では「座敷わらし」)が登場するゲームといえば、すぐに思い浮かぶパターンとして「和服を着た人形のような女の子が人間の男の元に転がり込む」という設定になるかと思いますが、このゲームの場合はざしきわらしが男で、しかもヘッドフォンを耳に当てているという、郷愁の欠片も感じさせないデザイン。この設定でどういうお話になるのか、という興味を抱きつつも、いったいどんなシロモノなのかという怖さとを抱きつつ、プレイすることになりました。

シナリオ

 人の目には見えない座敷わらしは、人間たちの幸せを守るため、日々死神たちと戦い続けている。そんな座敷わらしが人間になれる方法は、自分を見て触れることができる人間を見つけ、深く愛を交わすことだという。あるとき、生意気でひねくれ者の座敷わらし・ユキオが、自分を認識してくれた少女・由美と出会ったことから、この物語は始まる。ユキオにとってのタイムリミットは7日間。彼は人間になれるのだろうか。また、ユキオや由美の周囲にある座敷わらしは、どのような生を送っているのだろうか。

 

 シナリオ担当は「田中蛙」氏。

 テキストは、地の文が基本的に主人公のモノローグのみによってつづられ、第三者視点での描写などはほとんどありません。いうなれば、「その者の見方」が各編の中で最初から最後まで貫徹しているため、プレイヤーにとって「得られる情報」のムラがなく、安定しています。ひたすらモノローグが続くので、どうにもたどたどしく、読みやすいとはいいにくいのですが、それはむしろ各登場人物たちをより引き立てているように感じます。

 

 座敷わらしという設定から、田舎を舞台とした不思議な心温まる世界、といったものを連想すると、まず外します。舞台の詳細な説明はどこにもありませんが、舞台は都市部であり、肝心の座敷わらしに田舎くささがまるでありません。また、人間と人間以外のキャラとの関係、という点で見ても、たとえば肉体に対する意識で葛藤するということはなく、単に「1週間」というタイムリミットが足かせになっているにすぎません。ロボットものなので多く見られる、心身関係に関する話題はまったくなく、このあたりに期待すると、あまりおもしろくはないでしょう。

 

 このゲームシナリオの最大の魅力は、その中からにじみ出てくる、やさしげな雰囲気でしょう。

 人間が感じることのできる「温かみ」、あるいは「愛」というものを、これ以上ないほど自然体に受け止めた上できちんと作り上げているシナリオ群。「意外性の追求」でも「消費・再生産される感動」でもない、すっかり使い尽くされた、しかし古くなることのない展開。それは、「幸せ」というものを「座敷わらし」に語らせることからスタートするわけですが、これには意表をつかれました。

 特に、ラストシナリオの叙述は、みごとの一言につきます。それまでに描かれてきたさまざまな人間模様、そして心の揺らめきをすべて受け止めた上で、非常に美しく締めているのは、最近のゲームではなかなか見られない技でしょう。話のまとまりが良すぎて素直に受け入れにくいかもしれませんが、私はこういうのに弱いんで。

 さらに、キャラクターの扱いにしても、カップル2組を軸とした人間関係に絞り、それ以外の人間はほとんど頭に残らないように描かれています。パッケージ裏には9人のキャラが載っていますが、メイン格といえるのは5人のみ(なぜ4人でないかはネタバレなので伏せます。なお3Pはありません(^^;)で、クリア直後の段階で「あんた誰?」なキャラもいるぐらいです。しかし、この「絞り込み」も、別視点で別の描写を加えることで、「なんでアイツが食えんのじゃ」と思わせない効果に至っていました。

ゲームデザイン

 あるシナリオを終えた後に最初から入ると別シナリオに入るという、エンディングフラグ方式が取られているタイプのノベルゲームです。各シナリオにはいくつか選択肢がでてきますが、妙な選択肢を立て続けに選ばない限り、ハッピーエンドに到達するのは容易なので、難易度は非常に低い部類に入ります。ただし、CG100%を狙おうとすると、ランダム性があるなど、割と手こずるものになります。

 どのシナリオも、「単一の事実」に対して、個別の主人公が語っていくものになっています。元になっている事実は完全に同じであり、シナリオごとにずらすということがまったくないため、先の展開や締め方はある程度わかってしまうのですが、それでもダレることがなかったのは、やはりテキストの力でしょうか。

不具合・修正ファイル

 いくつかの不具合が報告されています。えんのサイトにアップされている修正ファイルが5つありますので、それぞれダウンロードしたうえで実行しましょう。修正ファイルを用いた後は、Win98環境では、特に問題が発生することはありませんでした。

操作性など

 対応OSは、Windows95/98/Me/2000です。WindowsXPでは、互換モードでも画面切り替え時に異常終了し、「Ctrl」+「Alt」+「Delete」を押すとWinXPもろとも強制終了しました。もともとサポート対象外なので、旧バージョンOS上なら問題ないようです。

 CD-ROM1枚組で、初回版には人形が同梱されていました。

 インストールの際に必要なHDD容量は、約360MBほど。ゲームの起動にはCD-ROMが必要です。

 ゲーム操作はマウスオンリーで、キーボードは受け付けません。ノベルタイプのゲームなのでマウスオンリーというのはやや辛い。ゲーム中、右クリックメニューから、セーブ・ロード・スキップ・読み返し・タイトル戻り・オプション設定(テキスト速度・フォントの設定)が可能です。クリックの際のレスポンスがあまり良くなく、画面切り替えの遅さも相まって、どうにもスムーズに進めることができないのが残念。

 画面構成は、800×600ドット表示で、強制フルスクリーンとなります。グラフィックは全画面表示となり、テキストは会話文だと左右に分かれて、地の文だとそのまま左上から出ます。いずれも、メッセージウィンドウはなく、画面のすぐ上に表示される方式です。

 テキスト表示速度は比較的細かく設定できますが、基本的にかなり遅めなので、はじめからやや速い設定にしておくことをおすすめします。メッセージスキップは右クリックメニューから可能ですが、既読・未読の区別はしないようです(マニュアルには「未読の場合はスキップできません」とありますが、私の環境では未読でもスキップしました)。また、マウスのホイールを回転させることでテキストの読み返しが可能です。

 セーブ・ロードは任意の個所で可能で、セーブしたシーンのビジュアルが縮小表示されて記録されます。オープニング、およびラストのスタッフロールは、スキップすることができます。

 CGモード・回想モード・BGMモードがあります。CGモードは、いまどきグラフィックが1枚ずつ表示されるというのには驚きました。達成率表示もあります。BGMモードでは、曲名が表示され、選択することでBGMが演奏されます。なお、回想モードは、一度ゲームを終了させた後に再起動しないと入ることができないと不思議な仕様になっています。

サウンド

 音楽担当は「Setzer」氏。BGMは、CD-DAで演奏されます。全然期待はしていませんでしたが、これが思いのほかいい出来…というのは失礼かな。CD-ROMの中に、同氏のコメントが入っています。

 音声はありませんが、この作品については、音声はなしで正解だったと思います。特に、順番でいけばラストのシナリオにおけるやりとりでは、音声ありで適切な間を取るのは不可能に近いのではないでしょうか。

グラフィック

 原画・キャラクターデザイン担当は「ゆうろ」氏。肌色を多用した独特の質感に満ちたグラフィックで、非常に落ち着いた印象を与えます。ただ、ときどき構図が崩れる場合があること、また立ちグラでの身長差無視がどうにも不自然であること、といった難点があることが残念。

 背景画像は、鉛筆画に水彩絵の具で着色したようなものから、非常にていねいに塗られたものまでさまざまです。

 なお、画面切り替えが非常に遅く、見ていていらいらしてきました。文章のテンポがさほど速いものではないとはいえ、それでも流れを止めてしまっていたことが多いのは考え物です。

お気に入り

 1人に特定することはできません。もともとキャラに萌えるタイプのゲームではなく、ストーリーの中で各主人公を素直に追っていくタイプのゲームですから、4人の主人公+1人に対し、みなさまざまな思い入れができてしまいました。むしろ、本来であればヒロイン格であろう由美の存在感がいちばん薄いかな。

関連リンク先

 渋すぎるのかなぁ、私のリンク先でこのゲームを取り上げているところはありませんでした。

総評

 かなり哀しいシナリオもありますが、温かみのある雰囲気に浸り、そして柔らかいトーンのグラフィックに惹かれるのであれば、迷わず「買い」でしょう。プレイ意欲を削ぐことにしかならないであろう劣悪な操作性をのぞけば、その温かさと哀しさとをうまく合わせ、ボリューム・バランスの双方において満足な出来に至っています。人物の感情の動きを追っていくことが性に合わないという方には向かないでしょうし、したがって明快な展開や強いメッセージ性があるわけではありません。また「萌え」ともいっさい関わりのなさそうな展開ですので、「引き」の弱さは否定できませんが、叙述の引き込む力、そしてプレイ後にホッと残る余韻の効果は、このゲームがほかのゲームにはないものをもっていることを示しているといえましょう。

 いうなれば、「論理の洪水」に疲れ、雰囲気を楽しむ、そこにこそ、このゲームの真骨頂があります。

 人間という、ネガティブに評価しようとすればいくらでも可能な、しかし多分に魅力を秘めた種族が醸し出す「温かさ」を味わってみよう、という人にはいいでしょう。マイナーブランドの中に埋もれている秀作であると確信します。

 しかし、このブランド「えん」は、このゲーム専用の単発名なのでしょうかね?(理由というか根拠は、プレイしてのお楽しみ☆)

個人評価 ★★★★★ ★★★☆☆
2001年12月2日
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