雨に歌う譚詩曲(バラード) emu

2002年2月1日発売
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 前作『Railway』で、トータルバランスの崩れにうんざりしながらも、根幹部分をなす2シナリオの組み立て方のうまさに驚いたという記憶もあり、emuというブランドのゲームには注目しておりましたが、本作はその第3番目にあたります。前作では「時間が足りなかったのでここんところは省きました」といった個所があちらこちらに見えて辟易したものでしたが、はたして今回はどんな風になっているのか、と思いながら、プロローグ部分がそのまま収録されている体験版をプレイして、「これは買うしかないでしょ!」という気になったしだいです。発売日前後は仕事でゲームどころではなかったのですが、通常であれば発売日に即買いしていたことは間違いないでしょう。

 ただし、「感動させる」「萌えさせる」「笑わせる」といった要素に期待して購入したわけではありません。あくまでも、流れるようなシナリオをゆっくりと楽しみたい、そう思っただけです。実際には「笑わせる」部分だけをとっても、十分に元は取れたと思いますが、こればかりは人によって受け止め方がまるっきり違ってくるので、体験版をプレイした結果によって判断されるのが吉でしょう。雰囲気はこの部分だけでも十分に味わえますから。

シナリオ

 主人公・浅野孝一(固定)は、親類にあたる精神科の女医・伊藤千夏と同居する学生。すでに両親とは死別していた彼に対し、千夏は「自分の担当する患者の女の子3人を、2週間、この家で生活させたい」ともちかける。とまどいながらも、女の子たちが美少女だと聞いて二つ返事で受け入れた彼だが、それは波乱に富んだ日々の始まりであった。そしてまた、彼が4年前に交わした「約束」の重みを、再び思い起こさせるきっかけにもなった。

 

 シナリオ担当は、門司(もんがまえつかさ)氏。前々作『るなシーズン』前作『Railway』と同じ人です(もっとも、前々作は私は未プレイですが)。

 ヒロインがすべて精神科の患者という、非常にデリケートな題材を扱う以上、どうしても「精神科の患者に対する視線」という観点での評価が避け得ない問題として出てきますが、この点については、「大きな問題は」なかったと思います。具体的に出されていた薬の名前なども、おおむね問題ありません(一部、妙に生々しさを覚えるところさえありました)。

 ただし、美佳の母親にかぎっていえば、うつ病と虐待とを直結させている観があり、ちょっと違和感を覚えたということを指摘しておきます。

 

 実質的なハッピーエンドが用意されているキャラクターは3人。主人公と同い年という設定ですが、実際には年上っぽいのからロリ系まで分かれています。そして、各キャラクターごとに、それぞれの外見に応じた設定がなされています。

 ヒロインたちがそれぞれに傷を抱えており、また主人公も傷を抱え、それぞれが立ち直っていくというコンセプトが貫かれています。

 メインヒロインといえる悠の場合、特に「それぞれが立ち直る」経過がかなり綿密に描かれています。ここで単純に「相互の傷の深さを確認しておしまい」というのではなく、いうなれば敵役を最後にドンと出してそいつを懲らしめて一丁上がり、といったオチなので、締めが安直という印象は否めませんし、エンディングに向けた展開もそれなりにパターンどおりともいえるものではありますが、問答無用の流れで押しているわけではなく、最後までおもしろくプレイを進めることができました。

 また、序盤での伏線の張り方がなかなかに巧妙で、「この設定が出てきたら次はこうなるんだろうねハイハイ」と思わせるのではなく、適度にあれこれバラまいているため、しばらくしてから発生するイベントのための布石として役にたっています。終えてしまえば「なーんだ」という程度のものではありますが、それでもプレイ中に説明くささを感じさせず、なおかつ理解に不自然さを求めないつくりは、しっかりしているといえます。

 その一方、各シナリオごとのバラツキがかなりある点は、やはり指摘しておく必要があるでしょう。「雨」の存在、および過去における「雨」とのつきあいの現在におよぶ影響にしても、悠シナリオではそれが十分に生かされている(設定上当然といえば当然ですが)反面、みつきシナリオでは通りいっぺんのものにすぎず、主人公の抱えたトラウマとして処理されているに留まっています。美佳シナリオに至っては、主人公側の「心の傷」に対する踏み込みはほとんどなく、もっぱら美佳に対する姿勢のみに終始しています。

 後述のとおり、前半部分はどのヒロインにおいても共通のルートとなっており、分岐は事実上ないに等しいのですが、後半部分の差の付き方が大きすぎるために、シナリオによっては「前半部分のアレはいったい何だったの?」と思えることが多くなっています。そしてまた、メタファーとしての「雨」の使い方にしても、悠>みつき>美佳という順にウェイトが下がり、美佳ではほとんど意味をなさなくなっています。これはマイナス要因といえましょう。

 

 また、各ヒロイン間のリンクも、うまく処理されているとはいえません。トータルのまとめ役としてそれなりの機能を果たしているみつきはいいのですが、ほかのキャラについては、サブキャラに回った場合に「ただのうっとうしいやつ」以上の意味を出していません。前作『Railway』では、ひとえルートでのふたえ、ふたえルートでのひとえが非常に重要な役回りを演じることに成功していたのに、今回は中途半端な存在に終始しているのは、残念です。もちろん、前作の2人が姉妹であり、単なる「同病相哀れむ友人」に過ぎない3人とは根本的に異なる、というのはわかるのですが、前作が、複数ヒロイン間のリンクに関して秀逸であったことを知っている者にとって、物足りなさを覚えるのは、あまり不自然なことでもないでしょう。

 いちばんもったいないのが、「自称彼女」の七菜子でしょう。悠に対してライバル意識を出す程度にとどまっており、結局「自分の枠」から抜け出るにいたらないため、本来であればキーパーソンたり得る地位にいながら、完全に「サブキャラその2」になっており、みつきや美佳のルートにはいると、そもそも姿さえ出てきません。悠にからむキャラという以上の役を持たせることは可能だったと思うのですけれど。

 

 一方、主人公の心理面の描写については、もともとが相当に子供っぽい傷を残し、その呪縛に苦しむという設定になっている一方で、ヒロインに対する姿勢が非常に冷静である点は、ややギャップがありますね。もちろん、対応(選択肢)を誤ればバッドエンドルートに流れはするのですが、自分のことに対して「先を閉ざす」形でケリをつけている人間が、いわば「それを棚に上げつつ」ヒロインに肩入れしている、といった感じです。しかしおもしろいことに、私には、このギャップが不自然なものとは感じられませんでした。おそらく、「他人を眺めているうちに、自分に気づく」という姿勢を、「説明をすることなしに行動で示しながら」徹底しているせいでしょう。主人公の口から「そうか、俺は……だったんだ」と語らせるゲームは多いのですが、本作ではそういう手法は(少なくともあからさまには)取られておらず、むしろ「動いてしまう自分に対してやや冷笑する」主人公を描いてさえいます。このゲームの「ナチュラルさ」は、ブレイクスルーにあたって多くを語るのではなく、むしろ突き進んでいくうちに「後になって言葉に表せる程度にわかっていく」ものだという、いうなれば「当然ではあるが表現するのが難しい」手法に依拠しているがゆえと思われます。

 また、日常のバカバカしいシーンがシリアスなシーンの中に混在し、そのコントラストが良い方向に作用しています。単に「日常の貴重さを再認識する」というものではなく、むしろ、日常シーンのお気楽さからシリアスな展開への変化の大きさは、状況の困難さをリアルに出す働きをしています。これが、主人公の感情の起伏とうまく重なり、展開に冗長さを感じさせません。

 

 ヒロインに目を向けた場合、いずれもかなり重たいものを背負っていながら、それゆえに彼女たちが「同情すべき対象」になっているにとどまらず、「そこからどう動くのか」を「彼女たち自身が決定する」という流れになっている形を取っている展開が多いのは、好印象を受けました。美佳シナリオではかなり流れの作り自体に無理がありますけれど、悠やみつきのルートでは、主人公とヒロインとが惹かれ合っていくこととリンクしつつも、それだけをブレイクスルーの唯一の起爆剤としてオシマイにするのではなく、「自分の中」を見ようというポジティブな方向が確実にうかがえます。そこには、馴れ合いによる相互承認といった生やさしいものではない世界があるわけで、果たしてそこまで彼女たちが「強く」なれるのかどうか、という疑問がしなくはないのですが、話の作りとしてはしっかりしています。

 

 日常におけるイベントの「過大なバカバカしさ」については、前作譲りといえましょうか、相変わらずのノリですが、これは人によって受け止め方がかなり違うでしょうね。私は大いに楽しめましたし、各キャラクターの雰囲気を十分に生かしているものになっていますが、「くどい」と感じる人も出そうではあります。悠がマジギレして美佳の胸ぐらをつかむシーンなど、何度見ても楽しめます(^^)

 

 細かいツッコミを少々。悠は二次関数で言うと、Y=2X的バカです!!といっていますが、「y=2x」は(係数2の)1次関数です。またやはり悠が小春日和と言うんです。4月らしい陽気だと思いますねといっていますが、小春日和とは、11月から12月初頭にかけての時期の暖かい日を指すのであって、4月ではホンモノの春になってしまいます。お前が一番バカだろ。え?「殺します」?(^^;;;

ゲームデザイン

 第一部と第二部とに分かれます。共通パートである第一部で3シナリオのいずれかに分岐し、またこの時点でエンディングがほとんど決定します。第二部では1つのルートをのぞいて選択肢そのものが出現しません。選択肢の数は一桁にとどまっていますが、実際にはどれが分岐となるのかが明確でなく、なかなか思ったとおりのルートに入れないことが多くなっています。難易度は「標準」レベルでしょう。1日の始まりごとにアイキャッチが出ます。また、プロローグと本編との間、そして第一部と第二部との間に、それぞれ別途、デモが挿入されます。

 CGコンプリートの時点で、全部で6つのエンディングを確認していますが、うち明確なバッドエンド(スタッフロールが出ないエンディング)は1つです。実際には、七菜子エンドは悠ルートの、千夏エンドはみつきルートのバッドエンドといってよいでしょう。美佳には、ハッピー・バッドの両エンドがあります。

 なお、主要3ヒロインのハッピーエンドを迎えた後に回想モードに入ると、おまけシナリオに入ることができます。前々作や前作の設定をまじえたパロディ的Hシーンが堪能できます(笑

不具合・修正ファイル

 私のプレイ環境では、特に不具合は発生していませんが、インストール時に不具合が発生する場合があるようで、emuのサイトにファイルがアップロードされています。なお、起動にやたらと時間がかかることが多い(30秒近く待つ場合がある)のですが、これはどうしたものか。

デモ・体験版

 デモがemuのWebサイトで公開されています。

 体験版は、第一部がまるまるプレイ可能なものがemuのサイトにて公開されていました(2002年10月26日現在、確認できず)。3人のヒロインの性格や行動パターンなどを把握することができるので、キャラゲーのイントロとしては非常によいものになっています。

操作性など

 対応OSは、Windows95/98/Me/2000ですが、WindowsXPでも問題なく動作します。

 ゲーム内容はCD-ROM3枚組で、必要なHDD容量は約400MB〜1.1GBと、かなり大きくなっています。最小インストールの場合は音声が再生されないので、基本的には最大インストールを選ぶことになりますが、この場合でもプレイにCD-ROMは必須です。なお、インストール時に出てくるマンガは、着色された上にページ数が増え、前作以上にパワーアップされています(^^)

 画面構成は、640×480ウィンドウ表示とフルスクリーンとを切り替え可能で、グラフィックが全画面表示、下部にメッセージウィンドウが表示されるオーソドックスなスタイルです。メッセージウィンドウの周辺には、クイックセーブ・クイックロード・システム・メッセージ読み返し・メッセージスキップ・メッセージ読み返し解除の各ボタンが設置されており、またツールバーからのメニュー選択も可能となっているので、使い勝手は非常に良くなっています。システムメニューでは、ウィンドウ表示切り替え・メッセージスピード切り替え(3段階)・スキップ設定(未読・既読)・画像エフェクト・音声・音楽などの設定が可能となっています。ただし、フォントは明朝体に固定されているのが残念。なお、マウスのホイールにも対応しています(Windows98以降)。

 セーブ&ロードは、任意の場所で30個所まで可能で、セーブ時の実日時・ゲーム時の日付・セーブするまでのプレイ時間・攻略済みキャラクターのアイコンが表示されます。

 エクストラモードは、一回エンディングを見てから入ることができるようになり、CGモード・シーン回想モード・BGMモードがあります。CGモードは、各ヒロインごとにサムネイル表示されます。シーン回想モードでは、各キャラクターのHシーンを見ることが可能ですが、おまけシナリオに入ることもできます。BGMモードは、各曲名を選択する方式です。なお、このエクストラモードの右下部には、小さい謎のメニューが表示されます(^^;

サウンド

 BGMは、DOLLY、小動 物(いずれもI've)両氏の担当。前作『Railway』とは異なり、曲のバリエーションがかなり増えました。各シーンにマッチした曲が多かったですが、やはりタイトル通りといいますか、バラード系の曲がよく耳に残ります。

 主題歌「雨に歌う譚詩曲」(作詞・門司氏、作曲・中沢伴行氏、唄:Hearing leaf氏)は、しっとりとしたいい曲ですが、それ以上に、エンディングの「A Rainbow after the rain」が気に入りました。

グラフィック

 キャラクター原画担当は「甲斐」氏。女の子の表情の変化をうまく描いており、本作のように無表情キャラがほとんどいないゲームではうまく雰囲気に合っていると思います。しかし、髪と服と、この2点については、野暮ったいを通り越してヘンだという気がするのは私だけでしょうか。

お気に入り

 特定の1人のキャラがお気に入りになった、というのは特にいませんでした。悠とみつきがほぼ横一線ですね。悠はツンツンしながら心をふっと開いてくれるときがかわいいし、みつきは痛々しさを見るにつけ「放っておけない」という気にさせてくれますし。残り約1名は、ハッピーエンドがハッピーに思えないので却下(^^;)

 シーンでは、ピクニックでのみつきとの老夫婦ごっこ(^^)

関連リンク先

 私のリンク先では、まだこのゲームを取り上げているサイトはないようです。

総評

 各ヒロインごとの設定比較が非常に良く、また主人公の心理描写も悪くありません。明るい話とは決していえない展開ですが、プレイした後に、何か「残るもの」を用意してくれるゲームに仕上がっています。どのヒロインも重いものを抱えているだけでなく、そこからスタートした「未来志向の見方」を出して締めるスタイルを取っているため、後味は決して悪くはありません(美佳シナリオではそうでもないかもしれませんが)。

 語り口の中に、観念説明による描写が多々あったにもかかわらず、それらが空虚な言葉遊びにとどまることなく、しっかりと各キャラクターの「口から出た言葉」となっていた点が、やはりこのゲームを支えたのだ、そう言ってよいでしょう。

 みつきが何気なく発したこの言葉を、ゲームのエッセンスの1つに据えたいと思います。

未来は、過去と違って変えられるものですから

個人評価 ★★★★★ ★★★☆☆
2002年2月17日
(2002年10月**日、「デモ・体験版」を追加)
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