Blue-Sky-Blue【s】 −空を舞う翼− emu

2002年9月20日発売(DVD-ROM版)
2002年10月18日発売予定(CD-ROM版)
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 ゲームをかなり多くプレイしてきた結果、いわゆる「ブランド買い」といったものをあまりすることもなく、むしろ設定やテーマの提示に対して興味を抱いたものをプレイするようになったこともあり、かなり地味なものに敢えてスポットを当てることが多くなった私ですが、そんななかで数少ない「ブランド買い」を続けているのが、emuです。もともと私が最初に買った『Railway』は「このタイトルはオレに対する挑戦状か、えぇ?」といった、かなり特殊な動機に基づくものでしたし(^^;、発売日購入を決定づけた要因の1つに、その魅力的な主題歌があったという点も確かにあります。しかし、そのゲームの中で出されている「物語」をいわば相対化しようとする試みの中に、一種独特の魅力を感じ、その後、目を離すことができなくなったメーカーとなったしだいです。

 この『Blue-Sky-Blue【s】』では、ヒロインの設定が「主人公の父親と婚姻関係にある」ことがまず事前情報として入っていました。親の配偶者と子とは結婚できない(民法で決まっています)以上、このケリをどうつけるのか、という好奇心が働いた点ももちろんあるのですが、それにとどまらず、この「どうしようもないぐらいに先に進むことのできない“関係”から、次の一手をどう打つのか」という点が非常に気にかかっておりました。

 なおこのソフトは、初回限定版(音楽CD同梱)はDVD-ROM版のみで、通常版がCD-ROM版のみとなっています。私はとくだん「初回版」やら「特典」やらにこだわるほうではないのですが、前々作および前作の主題歌「夏草の線路」「雨に歌う譚詩曲」がいたく気に入っていたこともあって、このゲームの初回版をプレイするためにわざわざDVD-ROMドライブを買ってしまいました。ゲームをプレイするためにPC環境を変えた初めてのゲームとなった本作品ですが、やはり、それまでの「独特の雰囲気」を濃密に反映したものとなっていました。

シナリオ

 主人公・安倉木智也(変更不可)は、お天気キャスターの父親・耀司と2人で過ごしていたが、幼なじみの美砂が智也とその父の身の回りの面倒を見るという状況が続いていた。耀司が札幌に転勤することになると、離ればなれになることに耐えられなくなった美砂は、家族としてついていくことになる――それも、なんと耀司と結婚するということで。籍を入れてしまい、名実ともに「同い年で同級生の母親」を持つことになった智也は、学校で、空を愛する「大空倶楽部」のメンバーと出会い、さまざまな変化を感じていくことになる。

 

 シナリオ担当は「門司」氏。これまでのemuの作品のシナリオを担当されてきた方と同じです。

 最初にプレイしたときに抱いたイメージは、「キャラクターが“記号”になっておらず、「物語」における純然たる語り部に留まっている」というものでした。すなわち、キャラクターはストーリーを作り上げていく中の「駒」になっておらず、それらを構成するというよりはむしろ、ストーリーを「プレイヤーとは別の次元で」「作り上げていく」がゆえに、心理的な生々しさが赤裸々に表示されています。この「生々しさ」のあまりの露出の激しさゆえに、それを「感覚的に認識できない」のであれば、それはただちに「キャラクターの独りよがり」と解釈されかねないほどのものになっています。登場人物たちの行動や心証の原理を「合理的に」把握することを前提とした場合、このゲームシナリオは理解不能なものに留まることが確実です。

 これを考えると、このゲームは『Railway』で伝えきれなかったことを、より明確に(いや「露骨に」とでもいったほうがよいか)表現したものである、といえましょう(私はこのゲームを終えてから『Railway』のシナリオを思い返しましたが、そのシナリオ評価がかなり揺れ動いています)。

 

 モチーフとしては、「運命」あるいは「罪」というものをキャラクターが担うことの意味(認識および結果の両面)の扱いが、ひたすら内向的に描かれています。そして、その「罪」を支える(あるいは根拠としている)ものの根幹にあるものとして、「時」および「関係」(男女間、および親子間の関係が中心ですが、かなり広範囲に一般化できそうな「関係」と解釈できそうです)があり、その2つによる「縛り」が明確に示されています。

 また「嘘」や「夢」といったキーワードが、随所に散りばめられています。単なる自縄自縛、あるいは因果応報というレベルで「当人たちが」納得してしまうという図式を取るよりは、むしろ「十字架を担う」こととその桎梏からの脱却をはかることの2点をに絞ってストーリーを作っているように感じられます。

 この2つは、やはり『Railway』のシナリオを踏襲しているものといえましょう。特に「嘘/夢」といったフレーズは、(特にひとえのセリフを通じて)盛んに使われていたことばですし、これらの解釈を最提示しているように感じられます。

 

 ただし、登場人物間のコミュニケーションに関しては、コミカルさで十分に楽しめたこれまでの作品に比べて、大きく魅力を削いでいる点は否定できません。個別のキャラクターが「物語」の構成要素になっていない以上必然的帰結ともいえるでしょうが、キャラクターを「いかそう」というシーンにおいては、むしろその不自然さが浮かび上がっています。

 某台風的暴走キャラなど、シナリオに絡んでこないだけでなく、シチュエーションを説明する役にさえなりえておらず、ランダムな間欠泉の噴出に過ぎません。主人公が“物語”の中軸となってほかの人物たちを動かすというスタイルを取っており、いわば主人公は「空」に対して「翼」を生かさせうる“風”となっている(ネタバレとなるため、詳細は伏せます)点を考慮すれば、「叙述の方法としては」妥当なものといえるでしょう。

 しかしこの手法は、各人物の心象を徹底的に抽象化するものであるため、表象(このゲームにおいては「空」)で綴られる「帰結」と、「日常」との対比が難しいものとなっています。このため、各登場人物が「思いこみが激しいだけ」と見えかねません(いや、そういう評価は十分に可能でしょうし、その評価もある程度は十分に妥当なものといえます)。実際、個別のヒロイン(そして、個別のシナリオ)に対しては、魅力もなにもほとんど感じなったのが実際のところです。攻略対象キャラクターの数を絞り込んだとはいえ、行動や言動にクセの強いキャラをそろえた以上、肩すかしを食らったような印象を受ける可能性はかなり高いでしょう。

 端的に言えば、ラブコメや萌え展開は絶対に期待してはいけません。一応「愛」につながる葛藤や模索はありますが、その表層にある心地よさは完全にカットされていますから、その尺度で見ると「キャラが薄い」とか「いつ好きになったのかわからない」とかいったズレた印象を持ちかねません(男女間の恋愛は二の次、三の次なので)。

 なお、「メインヒロインとの婚姻不可」という設定は、エンディングでは説明されず、あいまいにごまかされています。なし崩しに事実婚とでもなるのでしょうか。義理の母が失踪した場合であっても、夫婦関係と違って親子関係は破棄できないと思いますし。

ゲームデザイン

 選択肢によってヒロイン(エンディング対象キャラは4人)を絞り込んでいくタイプのアドベンチャーゲームです。ただし「主人公とヒロインとが結ばれてハッピー」という無邪気なエンディングは非常に少ないのが、やはりこのゲームの特徴といえましょうか。選択肢の数は10程度と少なく、数回プレイすればある程度見当はつきます(美砂がややシビア)ので、難易度は「やや易」レベル。

 また、各ヒロインごとに、エンディングで出る総括がなかなか利いています。エンディングになると席を立つ、というのはもったいないですね。

 なお、各エンディングをすべて見た後に最初からプレイすると、「Last scenario」なるおまけシナリオに入れます。ただし、本編を補完するシナリオで、分岐はおろか選択肢もまったくありません。

不具合・修正ファイル

 私の環境では、特に問題は発生していません。ただし、ここはというシーンで誤字がちらほら見られるのはやや問題かと。

デモ・体験版

 デモがemuのWebサイトで公開されています。個別のキャラクター紹介という印象が強く、タイトルの中で象徴的に示されている「空」あるいは「翼」から具体的な物語をイメージすることは無理なものになっています。このデモムービーを最初に見たとき、前2作とはちがって、期待よりもむしろ不安の方が大きくなったということを、素直に告白しておきます。

 体験版については確認していません。

操作性など

 対応OSは、Windows98/Me/2000/XPです。

 DVD-ROM版のメディアはピクチャーレーベル仕様のDVD-ROM1枚で、このほか音楽CDが別途付いています(CD-ROM版には音楽CDは付きません)。インストールの際には、最小(約50MB)・中間(約300MB)・最大(約700MB)の3つから選択できます。またこのほか、ハードディスクに音声・BGMデータをコピーするかどうかを選択できます。最大インストールして音声・BGMデータをすべてコピーした場合、2.25GBが必要でした。なお、今回もインストールの際のマンガはある…ようですが、インストールにかなりの時間がかかるため、最初の1枚目を見ただけで中身は確認していません(^^;

 画面は、640×480ウィンドウ表示とフルスクリーンとを切り替え可能で、下部に半透明のメッセージウィンドウが表示されます。メッセージウィンドウの右側および右上側には、セーブ・ロード・システム設定(ウィンドウ表示切り替え・スクリーンエフェクト・メッセージ速度・スキップ設定・自動進行モード・音声設定・BGM設定など)・メッセージ読み返し・メッセージスキップ(既読/未読の区別あり。「Ctrl」キーによる強制スキップも可能)の各メニューボタンが配置されています。ややマウスクリックの反応が重いと感じられることがありますが、操作性については一応問題ありません。

 セーブ&ロードは、移動選択画面以外の任意の個所で30まで可能です。セーブすると、プレイ中の実日時・ゲーム中の日付・それまでに見たエンディングキャラのアイコンが表示されます。

 CGモードは各キャラクターごとにサムネイル表示されます。Hシーン回想モードは各ヒロイン別で、キャラクターごとにクリアするとおまけ的なHシーンが追加されます(これは前作『雨に歌う譚詩曲』と同様)。BGMモードは曲名選択方式です。

サウンド

 音楽担当は「wata」(I've)氏。曲はPCMで再生されますが、すべてのBGMが無圧縮のWAVEファイルというのはどうにかしてほしかったものです。各ヒロインごと、およびシーン単位でBGMが設定されていますが、曲数は実質11曲と少ないのも相変わらず。ゲーム中の雰囲気とはそこそこ合っていますが、日常シーンとはどうも浮いていると感じます(もっとも、日常シーンとシリアスなシーンとの関係の把握自体が難しいので、この指摘の妥当性そのものにも留保が必要であることは付け加えておきます)。ボーカル曲「空を舞う翼」(唄:島宮えいこ氏)は、サビの部分こそ開放感を得られるものの、やや軽い感じがします。また「夏草の線路」(『Railway』主題歌)および「雨に歌う譚詩曲」に比べて、歌詞の印象が薄く(ミスマッチというわけではありません)、それゆえに聴いていて耳に残りにくい面がありますが、これはゲームシナリオ自体が内向的な思考を抽象的に用いたものとなっている結果でしょう。

 音声は、女性のみフルボイスですが、男性のボイスもほしかったと感じます。演技はなかなかの水準で、凶悪な先生のボイスはやっぱり楽しいのですが、もともと「世界」から浮いている以前に別次元に隔離されているため、『Raiway』の某先生ほど強くないのが残念。

グラフィック

 原画担当は「甲斐」氏。髪の毛たっぷり、目玉クリクリという独特の絵柄は相変わらずで、線がややハッキリしていることと、リボンなどのアクセサリー類が非常に多い(前作まではさほど気にならなかったのですが)ということも特徴です。かなり癖がある絵ですが、emuのサイトにアップされているグラフィックを見れば好みかどうかはわかるでしょう。

 一枚絵CGはなかなか綺麗で、特に回想シーンでの鉛筆画はなかなか魅力的です。その一方で、立ちグラフィックにやや魅力が欠ける気がします。また背景もいいのですが、ややパターンが少ないのが残念。もっとも、行動パターンのバリエーションが極度に限定されているため、これはこれでいいのかもしれませんが。

お気に入り

 うーん、気に入ったキャラクター、というと………特にいません。個別のキャラクターに還元できるシナリオでない以上、当然かもしれませんが。

 シーンとしては、耀司・まどか・美緒の3人の学生時代のシーンです。これが最後に見たシーンということもさることながら、「親の因果が子に報い」とでもいうか。

総評

 『Railway』のようにクッションを挟んだ「辛さ」の描写と「強さ」とを提示するものとは異なり、自省がむき出しに出ているため、どのキャラクターもお互いを振り回しかき乱すという方向に作用しています。このため、各キャラクターごとの話題は非常に限定されたものとなるうえ、テーマとして浮かび上がるものをトータルに結び上げることが非常に難しくなっています。また、「自省」という自分勝手(敢えてこう表現しておきます)なものの価値があることを大前提としているだけに、その冗長さ、ひいてはムダさの意味を否定しないことがプレイヤーに求められますが、まずこの部分で弾かれる可能性が高いでしょう(私は特に問題ありませんでしたが)。パッケージにある「純愛アドベンチャーノベル」というフレーズの「純愛」という言葉から「主人公とヒロインの一対一のラブストーリー」を期待すると、まったく違う方向に唖然とさせられます。

 かなり「やりにくい」ゲームシナリオになっていることは間違いありません。好みである/好みでないという区切り以前に、このシナリオでの各登場人物に対して「わけわからん」となるでしょうし(論理的に心理説明を施すことは難しそうです。詳細な解析はしていないので断定はできませんが)、またファンタジーなどで取られる手法が踏襲されているというわけでもなく、徹頭徹尾「現実世界における“観念”が表面に出る」ことに耐えられるかどうかが分かれ道になりそうです。

 これほど評価が難しいゲームも、ほかにちょっと思い当たりません。シナリオでかなりの“冒険”を敢行している点は高く評価したいのですが、その手法が、事前になんの意識もなしに(特に『Railway』で示唆されていた“関係=呪縛”の図式に対する意識なしに)プレイした場合、単なる「キャラクターの独善=シナリオライターの暴走」に直結しかねないものであるのも確かです。あくまでも「個人的には」非常にパンチ力を感じうる叙述なのですが、一般的には「通用しやすい」手法ではないでしょう。

 また、『Railway』で示されていた「夢」に対する姿勢そのものも大きく変わっています。ここまでくると「考えすぎ」と言われても仕方ないかもしれませんが、シナリオライター氏自身が、「翼」に仮託することで「夢」を新たなものに変えていきたいといった“あがき”のようなものさえ感じ取れました。

 個人的には『Railway』のテーマの完全版と位置づけていますが、「キャラクター」の切り捨てが日常シーンの乖離に直結し、結果としてメインテーマの把握が(論理的にではなく感覚的に)難しくなったという点が痛いところ。ただし、日常シーンの「楽しさ」については十分な実績があるわけですし、やはり日常を「対象」としうるテーマ描写に期待したいところです。

 ストーリーをキャラクターに還元しないことを是とできる人以外にはおすすめできないゲーム、と評しておきます。

個人評価 ★★★★★ ★★☆☆☆
2002年10月6日
(10月7日、「総評」に加筆)
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