夢のつばさ 〜Fate of Heart〜 KID

2002年4月1日発売
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 私は飛行機という乗り物にはあまり興味がない、いやそれどころか(米軍基地に近いところに住んでいたこともあってか)好きでない部類に入るのですが、この分野に興味を持つ人は「自分で自由に動く」ことへのあこがれが背景にあるのでしょう。この『夢のつばさ』も、こういう“自由への希求”が背景にあるんだろうな、と思ってプレイしたしだいです。ところが実際には、過去に対してトラウマを抱える主人公が…というパターンの内容でありました。

 この『夢のつばさ』は、2000年9月28日にPS版が、2001年7月26日にDC版が出ています(ただしPS版にはサブタイトルがありません)。Windows版はこれらの移植と思われますが、なぜかKIDサイトの製品紹介ページには、Windows版が掲載されていません(^^; 

※このゲームは、年齢制限のない一般ゲームです。

シナリオ

 主人公・深山直人(変更不可)は、パイロットだった父親がフライトの際に行方不明になるという出来事を幼時に体験した。当初は飛行機や空に対して嫌悪感を抱いていたものの、父のことを理解するには空を飛行機で飛ぶしかないと思うようになり、まずはULPの操縦資格を得るべく、バイトなどに打ち込む日々を送っていた。高校2年の1学期末のある日、彼は「瑞雲しずく」と名乗る謎の美少女を助けることになる。自分のことを何も話さない彼女にさんざん振り回されつつ、彼女と同居することになる直人の生活は、大きく変わっていくことになる。

 

 シナリオ担当は、「梅田伸明」「三浦洋晃」両氏。

 ヒロインは4人いて、メインヒロインのしずくのほか、従妹かつ同級生の勇季、親友の妹、女子大生という顔ぶれです。広大な大地で飛行訓練をしたり、かなり離れた牧場が「お隣さん」だったりするなどといった設定から、最初は北海道が舞台かと思ったのですが、7月末から8月いっぱいまで夏休みということを考えると、中国地方か九州地方あたりでしょうか。

 

 プレイを続けるたびにどんどん感じていくのは、全体のまとまりが非常に悪く、プレイヤーに伝えられるべきものが散漫で、結局何が“伝えたいもの”なのかが皆目見当つかぬままに進めなくてはいけない点です。オープニングから冒頭部分へのつかみでは、主人公が抱えていた「過去」をどのように決別ないし克服して成長するか、というテーマが含まれているのはまちがいないと思えたのですが、必ずしもそうではなく、いつしか主導権が主人公の手から離れたり、あるいは主人公があさっての方向に情熱を傾けたりといった展開になってしまっています。

 

 本来“謎のヒロイン”であるはずのしずくの正体が、序盤ですでにバレバレであり、ハッピーエンドを迎えるのであればエンディングはこうなるだろうといった予測がかなりハッキリとたてられますし、「これならおそらくバッドエンドのほうが切なくて締まったオチになるんだろうな」と思ってしまったくらいです(そして実際オチは予想どおりでした)。もう少しヒネリを効かせることはできなかったのでしょうか。ベタな展開は必ずしも悪くはないのですが、設定から容易に予測できるオチというのはやめてほしかった。

 さらに、このヒロインの行動原理じたいもかなりわかりにくく、どこからどこまでが「ヒロインの負っている宿命」なのか、それがよくわからないため、「……何やってんの?」と思うことは一度や二度ではありませんでした。

 

 また、各ヒロインごとにストーリーの方向性がまちまちです。

 主人公が抱える“過去”をきちんと扱っているのはメインであるしずくのみで、またそれをベースとしているのも勇希のみとなっており、ほかのルートでは、主人公が心のすべてを傾けていたものをなげうってまでそういう展開になったのか、それがまったく伝わってきません。しずく・勇希以外のヒロインを選択する際の“想い”がそれだけ大きいものだったという“指標”にはなっていますが、しかしこれでは主人公の「空にかける想い」が軽いものにとどまってしまい、上っ面の展開を追うだけになるのは自明の理です。

 勇季にしても、結局はしずくがトリガーとなるラブストーリー以上のものではなく、両者が「過去の事故」をそれぞれの中で総括したものとはなり得ていません。しずくが「救う役」じゃなくてキューピッド役になっては、設定が陳腐化するだけでしょう。

 

 さらに、個別のストーリーにおいて、起伏に欠けている点も指摘できます。また、主人公の姿勢や考えがはっきりしない(←別に悪い意味ではなく、主人公がさほど興味を持っていない、という意味)段階で話が流れてしまうことがあったり、あるいはプレイヤーが話の流れについていくのが精一杯であるのに主人公がアクティブに動き出したり、主人公の行動に整合性がなかったりという点も無視できません。

 

 ヒロイン描写は、各ヒロインの考えや行動がかなりわかりやすい形で表現されています。これは、もともと主人公が“女よりは飛行機に興味を持っている”という設定である以上、自然のことといえます。しかし、これが各ヒロインの持っている、よくいえばこだわり、悪くいえばエゴイズムがかなりハッキリと出てしまっています。

 それが表面化した段階で主人公側にいらだちが募る、というスタイルになっているところが多いため、相互の感情が行き違っている点がかなり出ています。しかるに、そういった感情を相互が見せる背景そのものは、プレイヤー側にはなかなか伝わってこないため、主人公あるいはヒロインの一方がキレてるだけ、としか見えないシーンが多かったのは残念なかぎりです。

 また、ヒロインの行動自体がかなり甘ったれたものを背景としているものが多いため、主人公が振り回されているさまを「見ている」プレイヤー視点でみると、むしろ主人公側に同情してしまうケースが少なくなかった点も指摘できます。

 

 もっとも、これらの問題点のベースとなっているのは、物語の軸となっている主人公がある程度ハッキリしたものとして固まっていることでしょう。むしろ、飛行機や空、そして“飛ぶ”ことへの念をもう少しフレキシブルに把握できる程度にまで希釈していれば、各シナリオごとの位置づけのレベルを変えることができたでしょう。それぞれのストーリーそのものは、各キャラクターの作り方などもそれなりのものになっています。

 あと、キャラクターごとに、萌えのポイントとなるイベントも適宜配置されています(星空を見るしずく、浴衣姿の勇季など)。ただし残念なのは、それぞれがブツ切りになっていることですね。主人公をもっと抽象的な立場にしていれば、萌えゲーとしていい線いったのではないか、という気もします。少なくとも、「何も言えないの…ごめん…」を何度も何度も何度も出す必要などなかったでしょう。

 

 ところで、桜花が海軍マニアというのはなかなか斬新なんですが、彼女が抱えてきた模型をみて「戦艦大和ってこんな形してたっけ?」と思ったのは私だけでしょうか。私も海軍についてはさほど詳しくはありませんけれど。

ゲームデザイン

 各ヒロインごとにストーリーが分かれるタイプのアドベンチャーゲームで、分岐は核となるイベントを発生させるか否か、また好感度が一定以上か否かで決まるようです。ヒロインごとにハッピーエンドとバッドエンドとが用意されています。エンディングを迎えるだけならさほど難しくはなく、志菜乃ルートにはやや入りにくいという程度です。

 各ヒロインのハッピーエンドを迎えたのちに最初からリプレイすると、トップメニューにそのヒロインごとのおまけシナリオが追加されます。このおまけシナリオはけっこう長いものが多いのですが、かなりネタバレを多く含んでいるので、各ストーリーをひととおり把握してからプレイするのがよいでしょう。個人的には、勇季シナリオで出てくる「第5のヒロイン」が捨てがたいかな。ただし、このシナリオをプレイした後に桜花シナリオをプレイすると、主人公が同一人物とは絶対に見えなくなるのが何ともつらいところ。

不具合・修正ファイル

 いくつかの不具合が確認されています。パッケージ同梱の修正ファイル(KIDのWebサイトにもアップされています)を使うことで回避可能です。なおこれ以外に、フルインストールしてCD-ROMなしで起動した場合に確認ダイアログが出ます。また、なぜか右クリックすると強制終了することがあるなど、全般的にかなり不安定です。

デモ・体験版

 存在を確認していません。

操作性など

 対応OSは、Windows98/Me/2000/XPです。CD-ROM2枚組となっており、フルインストール時に必要なHDD容量は約670MBで、プレイ時にはCD-ROMは必要ないことになっています。

 画面はグラフィックが800×600全画面表示で、ウィンドウ表示とフルスクリーン表示とを切り替えられます。下部にメッセージウィンドウが表示され、透明度や色を変えることが可能です。メッセージスキップ(既読/未読の区別あり)と文字速度調整、テキスト読み返し機能などが装備されています。また、メッセージ表示と音声との同期/非同期を設定したり、画面効果(雨、木漏れ日、などなど)を変更したりすることもできます。

 ゲームを起動すると「起動メニュー」が表示され、DirectSoundの使用/非使用(非使用時はSE/BGMが鳴らない)、起動画面モード切り替え、MMXコード使用/非使用、CPUパワーに応じたエフェクト設定を変更できます。CPUは「High」(クロック周波数300MHz以上)/「Low」から切り替えます(私は「High」にてプレイ)。

 セーブ&ロードは、任意の個所で5個所までクイックセーブ&クイックロードが可能です(ゲーム中のイベント名が表示されます)。これとは別に、キーボードのみで可能なセーブ&ロードが65個所まで可能で、ゲーム中の日付とセーブ時の実日時のほか、それまでに登場したキャラクターのスタンプを記録でき、またゲーム中のイベント名も自動的に記録されます。さらに、各選択肢ごとにオートセーブ&オートロードが行われるため、選択肢を変えてリトライすることも容易です。このため、リプレイを繰り返してもとまどうことはまずないでしょう。

 トップメニューからは「アルバム」に入ることができ、ヒロイン別のCGモード(サムネイル表示)に入ることができます。

サウンド

 サウンド担当は「阿保剛」氏で、PCM再生されます。BGMのバリエーションはけっこう多いのですが、どうにもパッとしないというのか、シーンごとのメリハリが効いていません。シーンを印象づけるほどのパワーが備わっていないというところです。

 音声は、主人公以外フルボイスですが、メインであるしずくの演技が、どうにもたどたどしい感じが伝わってきます(^^;。

グラフィック

 キャラクターデザイン担当は「成瀬ちさと」氏。ふわっとしたやさしい感じのグラフィックが特徴です。ただし、輪郭線が過度にクッキリと描かれているのが気にかかります。背景は一部のみをカラーで表示し、あとの部分はモノクロとして重ね合わせるというスタイルをとっていますが、通常の全画面表示で問題なかったと思うのですけれど。あと、雨が降ったり星がまたたいたりするエフェクトが非常にきれいですね。

お気に入り

 お気に入りキャラとして、上記「第5のヒロイン」に一票。勇季以外のシナリオではどうして彼女が関わってこなかったのか(特に桜花)という素朴な疑問はさておき、しずく以上に「完成度の高い女のコ」になっている点がなんとも。

総評

 いろいろな意味でもったいない、この一言に尽きます。

 各ストーリーの組み立てかた、そしてそれらの組み合わせにもっと注意すれば、なかなかおもしろい作品に仕上がったのではないかと思えるだけに、かなり残念な気がします。キャラクターの描写などは部分部分で見ればかなり水準が高いと思うので、これをシナリオの中で使っていく点で失敗している、というのが私の評価です。

 飛行機がどうのといった設定をすべて排除していれば、志菜乃シナリオなどはそれなりのものになっていたと思えます。重く、また多くの可能性を持った設定を、軽く扱ってしまい、別方向へと流してしまうのはもったいないですし、木に竹を接ぐ不自然さはプレイ意欲をそぐ方面に働くということを、改めて実感させてくれた作品でありました。

 これと類似のテーマあるいは設定のゲームをプレイされるのであれば、emuの『Railway』あるいは『Blue-Sky-Blue【s】空を舞う翼』のほうが、はるかに多くのものをプレイヤーに提示してくれるでしょう。

個人評価 ★★★★★ ★☆☆☆☆
2003年2月2日
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