Wind -a breath of heart- minori

2002年4月19日発売
ご意見などは掲示板へどうぞ

 Webサイトに公開されていたデモムービーを、特にその内容に興味も持たないままに何となくダウンロードし、何となく再生して、そこに見られた「空間の広がり」から感じられる開放感と、その中でいきいきと動く「個別のキャラクター」の躍動感との双方で、無性にプレイしたいという気がわき上がったゲームです。2001年ごろからブロードバンド環境が一般家庭にも広く普及するようになったこともあって(私の環境はまだナローバンドです…)、Webを介した大容量デモファイルが盛んに各メーカーから供給されるようになった中で、この『Wind』のデモムービーはほかを明らかに圧倒するクオリティと訴求力をもっていました。このため、発売前からデモムービーをめぐってさまざまな話題が各地で展開されましたが(うちの掲示板も例外ではありません)、それから実際の発売日まで少し間があったこと、発売前には一般への体験版の頒布が制限されたことなどを受け、結局発売直後に買うことはありませんでした。

 フタを開けてみると、デモの出来に比してゲーム本体のクオリティに関する疑問の声がかなり大きくあがったのを受ける一方で、逆にどの程度「デモとは違う」ものになっているのか、という興味もわいてきました。また、発売されたのちには体験版も一般に公開されるようになり、これをプレイした結果、ほのぼのとした学園ものとしては悪くない一方、キャラクターの配置が定型的で、デモから受けた開放感と躍動感とをどのように綴っていくのだろうか、という気持ちになったのもまた確かです。結局、「楽しいものを期待する」よりは、「どんなものになるか」という好奇心が先に立って購入/プレイすることになりました。

 路面電車の描写があるというのは購入の動機にはなっていませんでした、とだけ言っておきますです、ハイ(^^; あと、オープニングでみなもがとってもいい女になってたら、俺はおまえと間違いなく結婚すると主人公が言っていますが、現実ではむしろどうでもいい女になっていることが多いように思っているのは私ぐらいでしょうか?(^^;;;

シナリオ

 主人公・丘野真(変更不可)は、妹のひなたと2人で、幼いころ住んでいた風音市に戻ってきた。路面電車が走るその街の人々は、さまざまな「力」を使えるという特徴があった。主人公は後輩姉妹がアルバイトをする喫茶店に通ったり、悪友とだべったりする日々を送っていたが、ある日忘れ物を取りに学校へ戻ると、懐かしいハーモニカのメロディが耳に入った。音色に誘われて屋上へ行くと、そこにいたのは幼なじみの鳴風みなも。劇的な再会とともに、主人公を取り巻く世界が今、大きく変わろうとしていた。

 

 シナリオ担当は「古我望」「向井正哉」両氏。

 日常の会話はなかなかにうまく作られています。弁当失敗、調理実習など、いろいろとなごめるシーンがあり、日常のほのぼのとしたシーンの描写は決して悪いものではなく、かなりベタな設定/展開とはいえなかなかに楽しめるものとなっています。各キャラクターの「役割」が再三再四繰り返されるのみという面が否定できない(紫光院を除く)点が気にかかるものの、学園ラブコメとしてみれば少なくとも悪い出来ではないでしょう。喫茶店でのマロウブルーなど、この種のゲームの登場キャラが扱うネタにしては「学年設定間違えてないかい?」と思うシーンもありましたが、それはご愛敬のうちに入るでしょう。

 しかし、機軸となる設定、キャラ描写、展開の3点において、看過できない問題を抱えています。

 

 まず、最重要な設定であるはずの「力」の出し方が、かなり唐突という感が否めません。どのヒロインのルートに分かれるにせよ、この設定が非常に重要な要素であることはまちがいありませんが、それにもかかわらず、プロローグ部分ではいっさい触れられていません。にもかかわらず、妹であるひなたや、再会したみなもとの会話のなかでは、それが「ある」ことがごく自然なものとしてかわされており、プレイヤーには違和感(あるいは、ゲーム中の登場人物に対する疎外感)を広げています。私は雑誌掲載の事前情報から「力」というものが各キャラクターに備わっているという予備知識があったために比較的素直に受容できましたが、ゲームの冒頭にはいっさい出てこない「現実世界では“普通”ではないゲーム中の“日常”」の扱いには、かなり問題があります。

 

 さらに、各ヒロインのうち、望以外の各キャラクターに対して、どうにもリアリティのない非現実的存在(あるいは、Virtual-Realistic Existenceとでもいえばいいでしょうか)という印象を拭えません。各ストーリーの流れを「作る」ためにどのキャラクターがどのような存在になっているかは、それなりに過不足なく情報が付与されてはいます。しかし、上述のように「力」がピンとこないままに各キャラクターがそれを自然に受け入れてしまっている(=プレイヤーが直感的に理解可能な世界から遊離した行動原理を体現している)ため、キャラのもつ「力」による“宿命”が、どうにも浅薄なものに感じられます。現実世界であればなお“宿命”の過酷さが強くなる望を例外とすれば、誰もかれもが「ifの世界での葛藤」に終始しており、そこにプレイヤーを「巻き込む」力が決定的に欠けているのが実情です。これでは、物語の中から「感動」を引き出し得ないのはごく当然の帰結といえましょう。

 もっとも、「力」の設定からはある程度免れている望といえども、彼女の姿勢(生き方、行動指針、など)に対する主人公の指摘など、プレイヤーがそれまでのストーリー展開で得ていた情報ではとうてい把握できない事実をベースとしたものであるため、それが当を得たものであるか否かを別として、なんとも納得いかないまま「話を聞かされる」格好になります。

 

 また、シナリオの展開が、あまりにも急です。ヒロインとのクライマックスへの流れはどのルートにおいても「早急」という言葉が適切のように思えます。各ストーリーを盛り上げる「要素」がそろわないうちにシリアスな展開へと強引に話を進めています。

 さらに、ここはというべき「盛り上がる場所」で、登場人物が演説よろしくポンポンと言葉を機関銃のごとく発するのは、音声つきゲームで賢明な手法とは思えません。感情のほとばしりを表すのはいいのですが、これが音声つきでえんえんと出されると、むしろくどさが鼻につきます。テキストだけなら「文字の波」が持つ力にゆだねるのは効果的でしょうが、音声つきとなると逆効果に思えたのは、私だけでしょうか。この点もやはり、「話を聞かされる」だけに終始しています。特に、秋人おじさんの某ルートでの饒舌ぶりは、内容以前の段階で「勘弁してよ」と思ったものです(内容面に踏み込んでしまうと、それだけで1ページぶん軽く書けるほどツッコミどころ満載なのですが、それはひとまず置いておきます)。また、わかばのセリフなども、ひとつひとつが粘っこいくらいに「自己暗示を掛けるかのごときトーンが重い」(内容が重いかどうかはまったく別です)ものになっているため、逆に会話内容の客観的妥当性が疑われる口調になっています。たとえ理解できたとしても、プレイ中に納得しながら進めることは無理でしょう。その場の雰囲気が「深刻なものらしい」と受け止められればともかく、そうでなく「物語の展開がテキストの中から読みとれる」ことを(無自覚のうちに)期待してしまうと、その時点で何の感銘も受けなくなることは必定です。

 総じて、語り口調の使い方にかなりの問題があるといえます。

 

 キャラクター別にみても、書き込み不足の感が否めません。

 メインヒロインのみなもは、いいコすぎるというか、あまりにも男にとって都合のよい面ばかりを抽出した観があり、この結果「人間くささ」がどうにも希薄に思えます(あるとき「記号でさえないシニフィアン」とか「徹底的に空虚化された“φ”」とか評したことさえありました)。それでも日常の「楽しさ」を醸し出すための役割はまず果たしているといえますし、その範囲内ではまずまずでしょう。

 しかし、ほかの各ヒロインの作りがずいぶんと定型的であるうえ、主人公に対する対応、あるいは主人公への「想い」の具体的な表現がハッキリとは書かれていないため、あまりピンとくる形で浮かんできません。会話を重ねるだけで漠然と惹かれていった、というだけで話を進めてもよいといえばそれまでですが、どうしてそのキャラと結ばれることになるのか、プレイヤー側がよくわからないままに引きずられるということになりがちなのは困ったものです。

 さらに、各ヒロインごとの「色づけ」が、「パターン化されたレッテル付け」というレベルで終わってしまっているため、口癖や行動パターンが気になってしまうと、それが繰り返されるたびにうんざりする可能性が高いことも指摘できます。比較的癖のない望はともかく、「うにゅうという宇宙人」など、いったん「つまらない」と思ったら最後の最後までそれをえんえんと繰り返すことになります。その「パターン化」そのものがキャラの物語をつくる要素たり得ていればともかく、実際には単なる識別記号の枠から出ていません。

 

 以下、ネタバレに入るので、文字色と背景色を同一にします(CSS非対応環境では文字が見えてしまいますがご了承ください)。範囲指定、あるいはコピー&ペーストなどでご確認ください。

 このゲームの舞台となる「風音市」では、住む人みながそれぞれ「力」を有しているという基本設定になっていることが「ゲームの全貌がみえてくる段階になって」明かされます。この「設定情報開示」のタイミングのまずさは非常に問題がありますが、それだけでなく、「市」という「範囲」は、単にそれが面的な存在であるに留まらず、そこに「住む人」によって画定されているものと見るべきです(「住む人」の「力」が重要なのですから)。しかるに、このゲームの中では主人公の顔見知りである数人をのぞき、ほとんど「住む人」の「顔」が見えてきません。一応、飛行船を目にした人々の反応が出てはくるものの、この街で「力」がどのような意味で受け入れられているのかを示唆する表現はほとんどありません(少なくとも私の記憶には残っていません)。その一方で、主人公の「周囲の人」の中では、それはごく当たり前のように用いられ、その「力」があるがゆえの「物語」が「主人公の周囲の中で」完結しています。このため、舞台設定とキャラクターの行動範囲とのギャップが最後の最後まで鼻につく格好になってしまいました。各登場人物の力量(「力」とは無関係です。念のため)を越えた「設定」を出して街の運命を変えてしまい、あまつさえその後に生じたであろうさまざまな混乱に対する描写もほとんどないさまを目にすると、「饒舌トークで自己を納得させる主要登場人物総ナルシスト物語」にさえ見えてしまったのですが、あまりにもうがった見方、なのでしょうか。

ゲームデザイン

 5人の攻略対象キャラごとにエンディングが用意されているアドベンチャーゲームです。選択肢の数は少なく、また各キャラの狙いを絞っていれば迷うようなものはほとんどありません。難易度は「易」のレベルといえます。

 プロローグ→オープニングムービー→前半→挿入ムービー(あるルートではこのムービーが省略されますが……なぜかは不明)→後半、という流れになっています。前半部は各キャラクターとの共通イベントが大半を占めますが、後半もかなりの共通イベントがあります。なお、挿入ムービーはオープニングムービー以上のものだと思いますが、プレイ前には見ないことを強くお勧めします

 シナリオの流れを考えた場合、彩のエンディングは後回しにした方が無難に思えます。彼女のエンディングで、最終的な設定が説明される形になっています。

不具合・修正ファイル

 少なからぬ問題点があるようです。minoriのWebサイトから修正ファイルをダウンロードして適用してからプレイするのがよいでしょう。私は最新のパッチを当ててプレイしましたが、特に問題は発生していません。

デモ・体験版

 冒頭で記したとおり、デモの出来は単独で見ると「秀逸」の一言に尽きます。路面電車に関して数か所ツッコミを入れたいところがありますが(^^;)、それを除けば「開放感」と「躍動感」の双方を短い時間と少ないコマの中でみごとに描いています。ただし(これも掲示板で話題にしたことですが)実際のストーリー展開では、「開放感=空間的な展開」はほとんど描写されていません(ストーリー上、都市の描写は非常に重要なはずなのですが)。また「躍動感」よりは「静的な安心感」の心地よさがそこかしこで訴えられている(積極的にテーマとして出されているのではなく、それの「快さ」が前提とした「物語」になっている)のが実情です。ストーリー上、仲の良い数人のキャラクター/小人数グループの「想い」が引っ張る形になっており、デモで見せられていた「視覚的なテーマ」は本編とはほとんど重なっていないように思えます。「デモにだまされた」という声があがったとしても(デモ自体のクオリティをさしおいたとしても)その意見を否定するのは難しいでしょう。なお、初回限定版のCD-ROM内に収録されているムービーでは、実際のゲーム中には没になったシーンが別のものに置き換わり、冒頭のみなものモノローグがカットされ、また文字のナレーションが消えています(このテキストの表示は非常によかったと思うのですが)。

 体験版は、本編のプロローグ部分とまったく同じです。主要キャラクターへの顔見せが主といってよいのですが、ゲームの主要なテーマである「力」はまったくでてきません。この部分だけをみると「みなも以外のキャラとのエンディングというのは想像できない」と思ったものですが…。

操作性など

 対応OSは、Windows98/Me/2000/XPです。

 メディアはCD-ROM2枚組で、初回限定版には「SPECIAL DISC」が付いています。

 インストール時に消費するHDD容量は400MB強ですが、DISC2内のデータをHDDにすべてコピーすると、ゲームプレイ時にはCD-ROMは必要なくなります(この場合のHDDの必要空き容量は約1.2GBです)。

 画面は、800×600ウィンドウ表示(一部、2画面スクロールあり)とフルスクリーンとを切り替え可能で、下部に半透明のメッセージウィンドウ、右下部に「LOAD」「SAVE」「LOG」「SKIP」「SYSTEM」の各メニューが表示されます。

 マウス・キーボードの双方が使用可能ですが、各メニューボタンはマウスクリックが必須となります。メッセージスキップ時には既読/未読の区別が可能で、メッセージ速度表示設定やフォントの変更、音量・音声設定も可能です。ただし、スキップしても画面効果や音声がOFFにされないのはどうしたことか。「Ctrl」キー押下でスキップすれば強制スキップとなり問題ないのですが、これは困ったところです。

 セーブ&ロードは、任意の場所で255個所まで可能で、ゲーム中の日付が記録され、任意のコメントを入力することができ、またセーブしたシーンが縮小表示されます。もともと難易度は低いゲームなので、量的には十分でしょう。むしろ「楽しいシーン」の前にセーブしておく、という使い方の方が一般的でしょうか。

 CGモードは、サムネイル形式で表示されます。Hシーン回想モードは各ヒロインごとに、BGMモードは曲名から選択する方式になっています。

サウンド

 音楽担当は、「TWOFIVE」。数は17曲とそれなりにそろっていますが、おちゃらけた曲と落ち着いた曲との違いが大きすぎ、メリハリが利くのを通り越して極端になっている気がします。ボーカル曲は、各ムービーに対応した2曲とエンディング曲の3つがあり、「SPECIAL CD-ROM」にはそれぞれのフルバージョンがCD-DAで収録されています。オープニングの「Wind」はなかなかいいのですが、歌詞とメロディとのバランスが取れていなかったり歌詞の流れに無理があったりするため、個人的にはショートバージョンの方が好きです(デモとうまくフィットしているという点もあるでしょう)。

 音声はまずまず悪くありませんが、どうもセリフ自体が「話している」ものよりは「朗読する」に近いものが多いためでしょう、どうにも不自然さが拭えませんでした。演技力の問題ではなく、おそらくテキストが音声ベースとずれているためでしょう。テキストのなかで綴られる感情表現には、抽象的・観念的なものが多く(これ自体はゲームテキストとして別に問題はないと思います)、それゆえ「生の声」で語られるとあまりにも浮いてしまいます。さらに、一回のトークで出てくるテキスト量そのものが多いこともあって、「用意された原稿を読んでいる」という不自然さが出てしまいます。

グラフィック

 原画担当は「結城辰也」「庄名泉石」両氏。光線の使い方がなかなかキレイですが、「グラフィックツールで多く用いられるパターンだな」と思えたカットが少なくなかったのも事実なので、あまり素直に「美麗」とは思えませんでした。また、ローアングルを不自然に多用している(別にパンチラ狙いというわけではありません)のも気にかかります。立ちCGでは、もう少し顔以外の変化も使ってほしかったところです(特に望)。線がハッキリしすぎている点、上半身と下半身とのバランスが不自然である点も気になりました。

 背景はきれいではあるのですが、しかし地方都市の描写の割には建造物や公共施設が妙に洗練されており、違和感があります。観光地化している、平地が少なく人家が密集しているといった説明は可能ですが、「地方」らしさを感じさせない風景なのは勘弁してほしかったものです。グラフィックとしての完成度と、「劇中の装置」としての役割とを取り違えているのではないでしょうか。

 ところで、Hシーンのグラフィックでは半脱ぎシーンが割と多めです。

お気に入り

 望ですね。いちばん恵まれていないキャラクターということへの判官贔屓もありますが、いちばん(唯一?)常識的なキャラという面もあります。

 ところで「のぞみ>ひかり」だから、最後に彼女が勝つ……と勝手に思いこんでしまったんですが、こういう発想をする人ってあんまりいないのでしょうか?

総評

 設定はともかく、それをどう「ストーリーとして組み立てるか」、そして「キャラクターをどう動かすか」の両面において、大きく失敗しています。

 日常のほのぼのとした雰囲気はうまく出ているだけに、シリアスな展開へとつなげていく過程、クライマックスの描写、オチの付け方の3つがうまくできていれば、もっと締まった話に仕上がっていた気もしますが、それができていれば少なくとも佳作以上のものには仕上がっていた、という気もします。

 minoriブランドのキャッチコピーは「We always keep minority spirit.」だそうですが、トータルバランスをまとめあげることをしないままでは、ただのminorityのままで終わってしまうのではないか、と思えます。

個人評価 ★★★★★ ☆☆☆☆☆
2002年9月16日
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