AQUAS MERCURIUS

2003年7月25日発売
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 ある程度ゲームから距離を置く期間があってから“復帰”する場合、ショップでゲームを手に取っても見たことも聞いたこともないものばかりでどうしたものか、と思うことがあります。私が『AQUAS』を買ったのは、まさにそんなときでした。やや線が強すぎるグラフィックはさておき、980円という価格だったので転んでもさほど痛くはないだろう、という程度の判断で購入したのですが、これが意外な当たりでした。

シナリオ

あらすじ

 シナリオ担当は、鷹取兵馬氏。

 人類は地上からその姿を消し、海の中で生活できる「人魚」のみが生き延びることになり、後には人魚たちが地上で生活するようになった。主人公のエイジ(変更不可)は、ほかの全員が人魚である中で、唯一の人の生き残り。彼は、海に浮かぶ小さな島でブラブラと毎日のんびりしていたが、育ての父である村長から、次の誕生日までにだれかと結婚するように迫られる。花嫁候補は、剣術修行に明け暮れる九月と、毒舌家の富豪である小鮎の2人。さらに、海岸に漂着した雪花という娘に、エイジは一目惚れしてしまう。誕生日に彼が求婚するのは、いったい誰になるのだろう。

破天荒な主人公

 序盤から中盤にかけては、基本的にギャグ調で話が進みます。とにかく何らかの形で、主人公あるいはほかのキャラが大ボケを連発し、この調子でどのように話をまとめるのか、と思えるのですが、各キャラクターのルートに入ってからはシリアスな流れになっていきます。

 最初にゲームを進めていったときに感じたのは、テンポがよいのか悪いのかよくわからないストーリーだな、という点でした。登場するキャラクターはさほど多くありませんが、ほとんどのキャラが大なり小なり壊れており(笑)、もともと「島」という閉鎖的な空間における異質な世界を、さらに微妙にゆがんだモノにしているため、各キャラクターのせりふをどのように受け止めればよいのかが、少なくとも最初のうちはまったく見当つきませんでした。

 ある程度ゲームを進めていけば、主人公の性格――あるいは、行動パターン――を把握できるので、その“世界”がわかっていきますが、序盤では先行きがよく見えてこないので、ギャグのノリがあわなければ進めていくのがややつらくなるかもしれません。実際、主人公の性格そのものは大きく変化するものではなく、むしろヒロイン側の抱えている問題を解決する(あるいは、解決されていく)ことで話が進むのですが、ここに気づかなければ、毎日起きる訳のわからないできごとばかりを追う主人公についていくのは難しいでしょう。これを裏返せば、このゲームの独特の魅力ともなるのですが、詳細は後述します。

ラストの爽快感が今ひとつ

 最終シナリオですべての展開をまとめているのですが、やや話のまとめかたが事後的と思われました。ゲーム序盤で漠然と抱く違和感が最終的には一応解決されるものの、各ルートで示される世界そのものを統括する、いわば“メタシナリオ”の存在があるようなないような中途半端な状態で宙に浮いているため、爽快感に欠ける面があります。

 これは、ある特定のキャラが“絶対的”なヒロインとして位置づけられ、そこからの身動きが取れない点にあるでしょう。主人公が縛られるのはいたしかたないとして、彼女が主人公と結ばれる理由付けについては、甘さが拭えません。トゥルーエンド最後の演出によって、話を美しくしている観がありますが、あれは反則でしょう。確かに最後のグラフィックは最高にきれいなんですけれど…。

どうして惚れたの?

 主人公を筆頭とした各キャラクターの役割がピンとこない状態でスタートするのですが、曖昧模糊とした状態に大きな変化がないまま、主人公とヒロインたちとの関係がとにかく“接近”していきます。しかし、“一目惚れ”という問答無用の設定にしてしまった雪花はさておき、ほかのキャラクターに対しては、主人公の“結婚”というイベントに巻き込まれていく過程は描かれていても、惹かれていく過程がどうにも薄い点が否めません。雪花にせよ、主人公→雪花はいいとして、逆方向への心理描写がどうにも甘くなっています。

 “恋愛ゲームではない”といってしまえばそれまでですが、少なくともヒロインは主人公を媒介としてその姿を変え、その結果として単一の“物語”が収束することを大前提としている構成になっている以上、ここの描写が甘いのはあまり感心できません。もっとも、これとて必ずしも悪いほうにばかり働いているわけではないのですが。

無理の残るストーリー

 また、個別のヒロインを見ても、ある1人を別格とすることをひとまず認めたとしても、バランスの悪さが否めません。

 特に、ゲーム中盤になってから唐突に出てくる(ルートによっては出てこない)隠しキャラなど、果たして登場させる必要があったのか、まったくもって疑問です。この種のゲームでのお約束的な存在といってしまえばそれまでですが、トゥルーエンドへの流れへの結びつきが皆無であるだけでなく、わざわざ独自のエンディングを用意している意味がさっぱりわかりません。ほかのキャラクターの存在意義を否定しかねないようにさえ思うのですが、これは考えすぎでしょうか。

 そこまでいかなくても、九月もけっこうひどいものです。九月に主人公が巻き込まれていくことに対する総括をいっさい行うことなく展開をしめているため、この“物語”に付随する悲劇なり喜劇なりが、表面的なものにとどまらざるを得なくなっています。中途半端な活劇を入れたり、これまた中途半端に存在感のある攻略不能なサブキャラを入れたり、島(およびその外の国)における主人公の役割がまったく説明されないままエンディングを迎えたりと、むちゃくちゃです。

 細部に神宿る、とも申します。個別のストーリーの、特にクライマックス付近で見られる性急すぎる展開にもやや疑問が残ります。トゥルーシナリオの裁判などはまあ悪くないものの、もう少し凝ってもよかったのでは。

身の丈にあったエンディング

 ここまでボロクソに書いてきましたが、それではつまらなかったのかというと決してそうではありません。むしろ、プレイを重ねるたびに、なかなか愉快な展開を楽しむことができました。

 これは、ストーリーの長さが適切なものになっていることが大きいでしょう。各シナリオをそれぞれ“完全に”独立したものと考えた場合、込められている要素がごく単純であるため物足りなさを抱きながら進めることになりかねませんが、むしろ“この先にまだ何か解決されるものがあるだろう”と思える切り方になっているため、ボリューム上の不満を感じにくくなっています。このため、最後の段階で展開をまとめることになっても、何がなんだかわからないうちにまとまるのではなく、むしろある特定の結末へ導出されるための理由付けを、それなりに納得できる形で提示しています。

 話のスケールを大きくしようとして多くの設定を盛り込みすぎ、結果的にエンディングの位置づけがわからないままに終わってしまう“大作”も見受けますが、いわば風呂敷の大きさを適切なものにしている点には好感を抱きました。

見にくい“裏”の配置

 前述のとおり、ヒロイン側の心証描写はかなり甘いものにとどまっており、これはシナリオを構成するパーツとしての各ストーリーを薄いものにしている面があります。しかしその一方で、ヒロイン側の心理や行動に対して一定のヴェールを施し、主人公とそれ以外のキャラクターとを確然と分離しています。いうなれば、ゲーム中に登場するキャラクターを希釈することによって、ゲーム世界そのものをより抽象化させることに成功している、ともいえます。主人公とそれ以外のキャラクターとの会話は濃密なものが多い一方で、人間と人魚という“彼我の立場”を当初から分離することで、徹底的に非匿名的な存在である“エイジ”の被創物としての性格を色濃く暗示しています。ストーリーの完成度という“肉”を切らせて、世界観をイメージ的に暗示させるという“骨”を得るようなものです。これを、(一種の)演出と見られるかどうかによって、このゲームに対する印象は大きく変化するでしょうが、私には、これはゾクゾクするようなおもしろさを感じられました。

 加えて、土着の民でありながら非−人魚という立場にある“エイジ”は、彼自身を媒介として他者を動かすことによって、自分が疑問を抱かずに行動できることそのものを合理化しています。これによって、“釈迦の掌上で踊らされている”ことに対して不自然さを抱かせず、現象説明の単純化に成功しているわけです。

 パラレルワードを同時に提示するという手法はさほど珍しいものではないでしょうが、その総体を主観的に認識させるという点において、みごとなできになっています。

ゲームデザイン

 攻略対象キャラクターは一応5人いますが、実際にはメイン1人、サブ2人、かぎりなく脇役に近いキーパーソン1人、正真正銘の脇役に近くいなくても話が変わらないアンキーパーソン(苦笑)1人です。

 マップ移動方式でイベントを発生させていくタイプのアドベンチャーゲームですが、攻略できる順序はある程度固定されているうえ、各キャラクターの行動場所はある程度パターンが決まっているので、難易度はさほど高くありません。序盤は共通パートとなっており、中盤で各ヒロインごとのルートに分かれます。だいたいヒロインごとのルートに分岐してしばらくしたころまではコミカルな流れで、それ以降はシリアスな流れになっています。Hシーンは、基本的に各ルートごとに1回ずつです。

 主要なエンディングを見ると、トゥルーエンドに入ることができます。ここですべての展開がまとまる形になっていますが、大団円で終わるわけではなく、むしろあるパターンのエンディングにまとまることを説明するようなスタイルになっているため、特定のキャラクターに対して何らかの思い入れをもってしまうと、理由付け以前に“納得いかん”となりそうに思います。シリアスな流れになってからは、トゥルーエンドで直接関わってくるキャラ以外は萌え系のイベントがほとんどなくなっているのは、このあたりを計算した結果なのかもしれません。

 話の流れの中で、メッセージフォントがときどき巨大になったり小さくなったりします。人によって好みが分かれそうですが、音声のないゲームの演出としては悪くないと思います。ただし、句読点の位置などがやや不自然な個所が多く、テキストを読み続けているとなんだか疲れてくるのですが。

不具合・修正ファイル

 私の環境では、特に不具合などは発生していません。。

デモ・体験版

 いずれも、存在を確認していません。

操作性など

 対応OSは、Windows98/Me/2000/XP。CD-ROM1枚で、紙のマニュアルはなく、CD-ROM内のオンラインマニュアルがすべてです。プレイ時にはCD-ROMは不要で、インストールに必要なHDD容量は約230MBというコンパクト設計なのはうれしいところ。

 画面は800×600全画面表示で、ウィンドウ表示とフルスクリーンとを切り替えられ、下部に半透明のメッセージウィンドウが表示されます。プレイ中のメニューは、マウスカーソルを画面の右上に持っていくと表示されるのですが、最小のうちはなかなかわかりづらいと感じられました。文字速度調整はウェイトありと瞬間表示のみ、スキップには未読/既読の区別がないうえ速すぎて止めるのに苦労するなど、文字表示関連の機能は今ひとつ使い勝手がよろしくないのが残念。セーブ&ロードは、任意の個所で30まで可能で、ゲーム中の日付とセーブ時の実日時が記録されます。このほかに、クイックセーブ&クイックロード機能もあります。

 トップメニューでは「画像閲覧」(CGをサムネイルから選択して表示)「回想モード」(Hシーンをキャラ名から選択して再生)がありますが、なぜかサウンド再生モードがありません。BGMが非常に高水準であるだけに、どうにも納得いかないと感じたのは決して私だけではないと思うのですが。

サウンド

 サウンド担当は、水月綾/SYUN氏で、Energyfieldが協力しています。コミカルシーンなど、やや曲そのものが強すぎる印象がありますが、非常によい曲が使われていると感じます。

 音声はありません。

グラフィック

 原画担当は芹沢克己氏。パッケージには美と萌えを兼ね備えた魅力溢れるキャラクターたちとありますが、少なくとも“美”に関しては、シーンごとにクオリティの差が大きく、ずいぶんムラがあるように思えます。特に立ちCGでは、表情の作りかたがわかりにくく、セリフとギャップを感じることがけっこうあります。また、一枚絵の中に、文字や顔文字などを多用するのはいかがなものかと。塗りはなかなかきれいです。

お気に入り

 割と定型化したキャラクターではありますが、やはり雪花でしょう。ただし、ちび雪花バージョンには手を出せない模様ですね(爆) 好きなシーンは、雪花酔っぱらいの図ですが、そこまでちゃんと歩いていったというのはいったいどうして?(^^;

総評

 重厚長大なシナリオとは縁遠く、むしろ軽快な流れから何か含みを持った形でシリアスな展開へ導き、最終的にすべてをまとめていくというタイプのものになっています。

 投げ売りされていた作品を何の期待もせずにプレイしたという点を割り引いても、独特の雰囲気を最後まで崩さずに仕上げている点はみごとです。キャラクターの使い方を、いわば“萌え”と反するような方向で活用しているため、ともすればストーリーの平板さのほうに目が行きがちだろうとも思える危うい手法をとっているのですが、十分に満足できる作品に仕上がっていると判断します。

個人評価 ★★★★★ ★★★☆☆
2004年2月8日
Mail to:Ken
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