待宵草 パティスリー

2003年8月1日発売
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 こういうゲームをやる趣味を持っている人に共通する現象かどうかはわかりませんが、私の場合、ある周期で突発的に新しいゲームを買ってプレイしたくなることがあります。以前はかなりまとまった数を短いサイクルでプレイしていましたが、最近では買っただけで手を着けていないものをちまちま進めるほうを優先してしまい、新作をチェックするなど、ごくごくかぎられたブランドのみとなっているのが実情です。しかしこの『待宵草』は、どことなく憂いを帯びた着物の娘に目を引かれ、特にこれといった理由もなく購入候補に入れてしまいました。発売日直前になって公開された体験版をプレイして、お茶目なキャラクターが楽しかったこともあり、かなりひどいテキストに辟易しながらも、これなら大外しはないだろうと、約4か月ぶりに発売日購入と相成りました。

シナリオ

 主人公・千亜樹(変更不可)は、血のつながっていない妹とともに、親戚の神林家へやってきた。地方の資産家である神林家の両親が旅行に出て、姉妹と家政婦さんのみが暮らしていた神林家は、彼らを温かく出迎えてくれる。ある日、いろんなものがぎっしり詰まっている倉庫を整理していると、ぬっと動き、言葉を口にする人形にでくわす。肝をつぶした主人公。非常に精巧にできた少女の人形は、自らを紅巴(くれは)と名乗り、夜になると屋敷の娘たちの夢に主人公を送り込ませることができる能力を持っていた。夢の中の娘たちのスケベな行動に加わる主人公だが、紅巴は、彼女たちは契約によって死が迫っているのだという。夢の中にある「契命樹」の内容を知り、契約成立を阻止しようとする2人。主人公は、想う相手を死から救うことができるのだろうか。

 

 企画・シナリオ担当は反転星氏。

 人形が動いたり話したり、夢の中を「もう1つの現実」として自由に出入りして行動したりと、伝奇ものの雰囲気を感じさせますが、実際の仕掛けはさほど複雑なものではなく、ある程度見当がつきます。特に、キーパーソン(パーソン…という表現は一応適切だと思います)である紅巴に注目すれば、全体の輪郭は明瞭でしょう。

 しかし、シナリオはあまり充実しているものとはいえません。まず、ストーリーの中核をなすはずの「契約」のあつかいからして、非常に存在なのが問題です。

 「契命樹」は夢の中で探し出すはずなのですが、実際には主人公はそこでなにがしかの手がかりを得ようと動くわけではなく、かといって時期を巧みにとらえようとあれこれ策を練るわけでもなく、あるシーンで偶然見ることができるようになっています。このため話は一応止まらずに流れてはいくのですが、これでは生きるか死ぬかといった切迫感が伝わってきません。

 娘たちの夢の中で主人公があんなことやこんなことばっかりやっているというのは、娘たちのほうに受け入れ態勢ができていていつでもオッケー(笑)というだけなのでかまわないのですが、そこから生死だの契約だのという方面へ話を持っていくのはずいぶんと無理なものです。しかも、夢の中で行われていることが、現実世界でほとんど何も反映されていないため、問題を解決するフィールドを“夢という舞台”だけに限定したことの説得力がみごとに欠けています。

 

 また、各キャラクターの心理描写にしても、ずいぶんのっぺりとしています。少ないイベントシーンで的確にいろいろなことを詰め込んでいる紅巴をのぞけば、どのキャラもデフォルトで主人公に好意を抱いており(これはこの種のゲームの“お約束”なので一応問題なしかと)、それ以上にどういった目で主人公を見ているかがさっぱり伝わってきません。前述のとおり、夢の世界と現実世界との間のフィードバックがほとんどないこともあって、主人公とヒロインとの間の結びつきの過程や変化がさっぱりわからず、夢の中のHシーンが「好意のあらわれ」に見えてこないのです。一応、視点を変えれば「結果としてヒロインが幸せになったことで満足できる」ことに重点を置くことも可能ではありますが、紅巴以外のエンディングをすべてこのパターンにしたのは賢明な手法とは思えません。

 それぞれのキャラの行動や挙措はそれなりに出ているほか、特にぱんつに対する妙なこだわりなどがあって日常シーンそのものはほのぼのと進んでいて悪くないのですが、夢という“非−通常”な世界(単なる「非日常」ではありません)がかなり早い段階から出ているため、素直にほのぼのできないのもまた事実。このため、キャラゲーとしても物足りないものに留まっています。

 

 さらに、テキストの叙述が非常に稚拙で、いわゆる誤字脱字のたぐいだけではなく、文脈からの類推がきかない奇怪な表現も散見するなど、読み進むのに非常に疲れました。企画会議をそのまま取締役会にすり替えるなんて、従業員役員あわせてひとケタ程度の零細企業でないとあり得ないのではないでしょうか(会社法についてはよく知らないのでツッコミ歓迎)。

 これに加えてHシーンも数こそ多いものの、前後の流れがまったくないばかりか、単に卑語を羅列しているばかりでおもしろくないことこのうえなく、ただただ退屈。

ゲームデザイン

 基本的に、各ヒロインとのイベントおよび夢の中でのコミュニケーション(笑)を重ね、中盤以降で各ヒロインごとのルートに分岐します。なお、どのヒロインともつかない中途半端な状態の場合、自動的にはつみルートに流れます。

 

 紅巴以外のキャラは、オンリープレイに徹すれば一巡でほぼすべてのイベントを網羅でき(サキのみ、CG回収のためにセーブ&ロードが必要な個所あり)、楽勝でしょう。しかし紅巴はかなり難しく、ほかのキャラとのバランスを取るのが非常に難しくなっています。

 なお、中盤に全ルートで1つ、終盤にある2ルートで1つずつ、それぞれミニゲームがあります。後者は「これが終わればクリアは近い」という状態なので特に苦にもなりませんが、前者は難しくこそないものの非常にめんどうであり、またこの時点ではどのキャラのルートに入っているかわからないため、リプレイするたびにこれにつきあわされることになります。とにかくめんどうであり、これがなければもっと早い段階でオールクリアできていたのはまちがいありません(私はこの場面が出るたびに休憩を取りました)。こういう本筋とは関係ないところでプレイ意欲を削ぐような“遊び”はいりません。

不具合・修正ファイル

 発売前日にWebで公開された修正ファイルを事前にあててプレイしたところ、私の環境では特に不具合は発生しませんでしたが、セーブ&ロードがずいぶんと重く、またスキップを途中で止めるタイミングが難しいのが残念です。

デモ・体験版

 デモの存在は確認していません。体験版は、主人公が1日を過ごし、各登場人物とひととおり顔をあわせるもので、ゲーム中のある1日をそのまま切り取った形になっています。選択肢などもそのままですし、雰囲気を感じられるものになっています。

操作性など

 対応OSは、Windows98/Me/2000/XPです。CD-ROM1枚、インストール必要容量が約460MBと、近年まれに見るコンパクト設計になっているのはうれしいかぎりです。ただし、CPUやビデオカードはそれなりのパワーが必要と思われます。インストールした後、プレイ時にはCD-ROMは必要ありません。

 画面はグラフィックが800×600全画面表示で、ウィンドウ表示とフルスクリーン表示とを切り替えられます。下部にメッセージウィンドウが表示されます。メッセージスキップは、既読/未読の区別があるほか強制スキップも可能で、「F3」キーで次の未読個所または選択肢まで一気に飛ぶことができるので、操作上はリプレイしやすい作りになっています。メッセージ履歴表示や自動テキスト送りなども装備されています。セリフの場合、各人物ごとにメッセージが色分けして表示されます。また、選択肢は対応する数字キーで選択可能です。

 ゲームを起動すると起動メニューが表示され、ここでオンラインアップデートを行うことができます(Windows Updateのようなものです)。この機能ははじめて見ましたが、ネットワークに常時接続していない環境だと無用の長物ではあります。

 セーブ&ロードは任意の位置で50個所まで可能で、セーブしたシーンの縮小表示、セーブ時の実日時、セーブした地点のゲーム中の日付が表示されます。なお、メッセージの未読/既読の判定は、セーブしなくても自動的に記録されます。

 トップメニューからは「CG鑑賞」「シーン閲覧」「音楽鑑賞」に入ることができ、「CG鑑賞」で全CGのサムネイル表示、「シーン閲覧」でHシーンのサムネイル表示、「音楽鑑賞」で聴いたBGMの再生が可能です。なお「音楽鑑賞」では、まだ聴いていないBGMは選ぶことができません。

 基本的にキーボードで大半の操作が可能なので、比較的プレイ時間が長くても通常はさほど疲労を感じない作りになっています。それでも、必ず最低1つは入るゲーム内のミニゲームは辛いものがありました。

サウンド

 サウンド担当は「タイフウ」氏で、PCM再生されます。BGMのバリエーションは割と多いのですが、プレイ中にはほとんど耳に残りませんでした。

 音声は、主人公以外フルボイスです。演技のレベルは比較的高いものでしょう。

グラフィック

 キャラクターデザイン担当は「陽之星照」氏。四角形っぽい目つきと、ややもすると何も考えてなさそうになるマイペースな表情が特徴です。やや憂いを含んだ表情はいいのですが、素直に喜んでいるときにはやや浮いた観が否めません。また、輪郭線がややキツすぎる感じがします。ところで、どうして主人公は夜に星を見るシーンでもサングラスをかけているんでしょうか(^^;

 背景画像はまずまずといったところでしょうが、やや構図に不自然さを感じさせるところがありました。

 しかし、神林一家の食事シーンだけは問題です。このシーンではヒロインキャラ全員がテーブルを囲むCGが背景になっているのですが、その上に立ちCGが別途表示されるので、なんだかドッペルゲンガーご登場といった趣を呈します。話が話だけに気持ち悪いし、これはやめてほしかった。

お気に入り

 お気に入りキャラは、紅巴で決まりですね。話の筋がしっかりしていることもさることながら、ほかのキャラクターにきちんと目を配っており、ほかのキャラのように“取って付けたようなすれ違い”をわざわざ持ち出さずに済んでいるという面もあります。しらないもん。はなびなんか別にしたくないもんなんていわれると、思わずニッ、と笑いたくなります(^^)

 印象に残ったシーンを1つあげるなら、紅巴ルート終盤の待宵草のところですね。

総評

 かなりボロクソに書いてきましたが、日常シーンでののんびりした雰囲気は決して悪いものではありません。各キャラクターも定型的なものばかりながら、いろいろ楽しめました(はつみだけはどうしてもダメでしたが)。しかし、紅巴がキーになっていること、そして夢という特殊な舞台を使っていることから、こういった「のんびりした雰囲気」がごく限られた部分でしか楽しめなくなっています。

 一方、終盤のシリアスな展開にしても、すべては紅巴を引き立たせるためのものと説明することができなくもありませんが、彼女以外については文字どおり駆け足で終わってしまい、消化不良感が残ります。

 おそらく、紅巴の設定を詳細に組み立てることで話の大筋ができあがったものの、その肉付けとしてのサブキャラが引き立て役以上サブヒロイン未満という中途半端な存在になってしまったうえ、紅巴以外のルートでは紅巴を単に「鍵を握るキャラ」のみにしてしまった結果、主人公の位置づけも曖昧なものになってしまった、と結論づけられるでしょう。

 ヒロインとのおしゃべりでそれなりに楽しめるとはいえ、それはこのゲームの主たる魅力になってはいけないはずです。核となる設定をそれぞれのキャラクターがどう受け止めて(あるいは避けて)いくのか、それをしっかり押さえてほしかったものです。

個人評価 ★★★★★ ☆☆☆☆☆
2003年8月5日
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