シンフォニック=レイン 工画堂スタジオ【くろねこさんちーむ】

2004年3月26日発売
ご意見などは掲示板へどうぞ

 「パルフェ」シリーズをリリースしてきた、工画堂スタジオ・くろねこさんちーむの作品として注目していました。もともとこのチームの作品にはシナリオ面ではさほど期待しておらず(失礼)、作品の間からにじみ出てくる暖かい雰囲気と、それを裏返すようなディープな展開とのギャップを楽しんでいたものです。この『シンフォニック=レイン』は、事前にWebサイトで関連ノベルが掲載されており、そのテキストに対して期待というよりはむしろ怖いもの見たさを感じ、ほぼ1年ぶりに発売日購入と相成りました。

 遠距離恋愛している恋人がいて、ほかにもヒロインが複数いるという設定から「浮気」や「裏切り」などがキーワードになると連想しやすいでしょうが、そういった要素はほとんどありません。むしろ、各キャラクター個別の悩みがどのように浮き上がってくるかがメインになっています。

※このゲームは、年齢制限のない一般ゲームです。

シナリオ

あらすじ

 主人公・クリス=ヴェルティンは、恋人のアリエッタが暮らす故郷から離れ、彼女の双子の妹であるトルティニタとともに、雨のやむことないピオーヴァにある音楽学院に通いながら、アリエッタとの文通を続けていた。フォルテール科に入学したクリスは3年目の冬を迎え、卒業のために歌唱担当のパートナーとともに成果を発表する必要がある。すっかり無気力になっている主人公だったが、パートナーとして彼が選んだ娘は、主人公を変えることになるのだろうか。

茫漠たる主人公の曖昧な視点

 主人公は基本的に内向的なキャラとして描かれていますが、中盤までは恋人であるアリエッタとは手紙のやりとりを行うだけで、影も形も見ることがありません。なぜ彼が無気力なのかというのが気にかかるところですが、この部分に関する説明は、少なくともゲームの中盤までは、ざっくり省かれています。

 こうなると、主人公を取り巻く人間環境が大事になってくるのですが、恋人の妹が1人、男友達が1人で、あとは友人と呼べる存在がほとんどいないのが実のところというありさま。才能があるから音楽学校という設定のおかげで存在が許されているような主人公ですが、このために彼の思考や行動などに無理があっても、さよか、でさらっと流すことができます。毎日毎日雨が降っていることをはじめとして、プレイしていると細かい点にいろいろと無理を感じるものですが、これらの無理の大半に対して「細かいことは気にすんな」で流せるようになってしまうのはよいことなのか悪いことなのか。こういった無理の中に伏線がいろいろ張られているのも事実ではありますが。

意外な面を見せるキャラクター

 トゥルーエンドの展開はベタすぎですが、それ以外は各キャラをうまく使っていると感じます。微妙な関係ながら快活明瞭な幼なじみ、誰にでも好かれる優等生、おどおどした下級生など、パターンどころをうまく押さえているとはいますが、実際には彼女たちのキャラクターに見合ったラブラブな展開になるというわけでは必ずしもありません。なかには5日間続けて同じベッドで夜を明かす(このゲームは一般ゲームです)といった描写もありますが、萌えに関してはさほど期待しないほうがよいでしょう。ヒロインキャラは、典型的な役回りを担うにとどまらず、むしろ自分を徹底的に隠したり殺したり、あるいはそういったものを自分の中で見据えたりする役になっているケースが多くなっており、これは非常に新鮮に感じられました。各キャラクターが見せる表面的な美しさ(ビジュアルは無関係)とは大きく乖離した醜さをも堂々と見せたいという欲求(あえてこう表現します)と恋愛感情とを結びつけるという手法は、ややもするとキャラクターのいやらしさのみを強調してしまいがちなだけに難しいのですが、これが有効に機能しています。

 もっとも、それがヒロインの弱さや限界を出すことには成功しても、見た目とは異なった美しさや純粋さを表現し切れているとは、必ずしもいえないように思われます。もっとも、これを明示的に表現すると、かえって各キャラクターの行動から読みとれる意味――“真意”といった意志に関するものではなく、主人公が得られる情報に基づく主観的な表意から演繹したもの――を損なう面もあるので、これも1つの方法でしょう。

 また、男性友人キャラという、通常なら毒にも薬にもならないか、ライバルになるかのどちらかでしかない存在をうまく使っています。

 ちなみに、ヒロインの1人の名前は「Falsita」というのですが、イタリア語では偽善という意味なんですけれど(^_^;

サブ系ヒロインの悲劇

 その一方で、サブ系ヒロインの設定で用いられているヒロインがいかに悲劇を迎えるか、あるいは悲惨なものを見てきたかという点については、あまりにも唐突なものばかりで、首をかしげざるを得ません。それまで主人公が担ってきたのは、あくまでも彼女の恋人であるアリエッタおよびその妹であるトルティニタとの関係であって、それとは次元がまったく異なる――超えるでも落ちるでもなく、無関係といえる――部分の“解決”をヒロインサイドに課しているわけです。もちろん、それはヒロイン側で処理されるべき問題として筋は通っており、そこでぶつかった/乗り越えようとした彼女に相対する主人公の姿勢が問われることになるのですが、ここの描写が徹底的に弱い。もちろん、ここで主人公を強くしてしまうことを避けた結果、主人公がいわば“鏡”となり、ほかの人物を動かすことによって、彼の内部にあるものを映し出す結果になっているので、いわば痛しかゆしといった観にはなりますが。

 また、この両ルートでは、アルに関わるイベントなどがみごとに希薄化されています。この結果、ひとまず主人公内部でケリがついたといえなくはないのですが、トゥルーエンドを見て背景の全貌を把握してからリプレイすると、ケリの付けかたそのものが浅薄と感じやすくなってしまうのが気にかかります。ストーリーに大きな矛盾を起こさず、また前から後へという流れを意識したストーリー作りはなされているのですが、一方向的な整合性を取っているのが精一杯で、トータルの整合性がかなり崩れているのが残念です。特に、いったんトゥルーエンドを見てしまうと、「アルが息を吹き返すか否か」の分岐点が非常に曖昧なのはまことに困ったものです。よく読み込んでいけば、各シナリオ内に散りばめられた各登場人物相互の微妙な関係が、アルという“聖域”を介してうかがえるのですが、これはゲーム世界にどっぷりと浸った人にのみ得られる“特権”のような気がしてなりません。

音の妖精は黙して語らず?

 さらに、キーパーソンであるフォーニの扱いが中途半端という点も、残念ながら無視できません。彼女の正体そのものは割と早い段階でうすうす見えてきますが、彼女がなぜ現れたのか、そして彼女といつまでもいられないと主人公がなぜわかっているのか、そういった説明がまったくなされないままエンディングにたどり着きます。特殊なキャラクターである以上、単純な「誰?」(Who)よりも、彼女がそこにいるのはなぜか/いかにして(Why/How)のほうが重要だと思うのですけれど。

 このため、主人公の日常行動において、何が自然体なのか、そしてどういう活動が好きになれないものか、そういった微妙なところがうまくつかみにくくなっています。ほかのキャラクター(トルティニタなど)の行動などが曖昧なのは別にかまわないのですが、主人公は“フォーニを介して”ほかのキャラクターの位置づけを整理している面がある以上、もう少しきちんと描写してほしかったものです。

背景となる時代設定がわからん…

 また、手紙以外の通信手段(電話や電報ですね)がないのに列車が走っているという、ベースとなっている時代設定がさっぱりわからないため、物語中で発生する事件のひとつひとつにリアリティを感じにくくなっています。しかしそれが、何が伏線で何が単なる効果なのかわからない、目くらましの役割を果たしているからおもしろいものです。

小ネタはなし

 フォルテールの演奏という題材があることから、くろねこさんちーむのこれまでの作品の流れをくんだもののように見えるのですが、実際にはパルフェシリーズなどのネタはまったく出てきません。フォルラータの名前さえ出てきていないのは、こういった小ネタ好きなチームなのに、と思ったものですが、評判がよろしくなかったのでしょうか(^_^;

ゲームデザイン

 移動ルートでヒロインと出会う、あるいは出会うのを回避することでイベントを発生させることでストーリーを進行させ、各ヒロインごとのルートに入っていくというタイプのアドベンチャーゲームです。プレイ当初は3人のルートに入ることができますが、一定の条件を満たすとトゥルーエンドに入れるようになります。攻略する順序は、リセ → ファル → トルタ → トルタハッピー → トゥルー がお勧めです。

 各キャラクターがどこにいるかはすぐにわかるうえ、選択肢にも特にいじわるなものはないので楽勝でしょう。ただしトゥルーエンドに入るための条件がやや厳しいため、最初は戸惑うかもしれません。

 『エンジェリックコンサート』以降標準装備となっている演奏パートは、このゲームにもついています。ただし初回プレイからオプションでオン/オフが切り替えられるので、手先の器用さに自信がない向きはオフにしましょう。私も当然オフにしてプレイしました(苦笑)。

不具合・修正ファイル

 私の環境では、特に不具合は発生していませんが、ゲームで日付が表示されるなどの細かい修正がなされた修正ファイルが公開されています。

デモ・体験版

 デモムービーが提供されています。

操作性など

 DVD-ROM版の対応OSは、Windows98/Me/2000/XPです。DVD-ROM1枚で、フルインストール時に必要なHDD容量は約2.3GBで、プレイ時にはDVD-ROMは必要ありません。

 画面はグラフィックが640×480全画面表示で、ウィンドウ表示とフルスクリーン表示とを切り替えられます。下部にメッセージウィンドウが表示され、画面効果の切り替えが可能です。また、メッセージ表示速度切り替え、メッセージスキップ(既読/未読の区別あり)やオートプレイ、テキスト読み返し機能などが装備されています。フレームレートを細かくカスタマイズできるのは、雨降りなどの効果を多用している本作品ならではでしょう。画面左上に日付と曜日(ただしイタリア語です)、右上に時刻が表示されます。

 セーブ&ロードは、移動パートおよび会話パートの任意の個所で99個所まで可能で、ゲーム中の日時とセーブ時の実日時が記録されます。

 ミュージックアクションパートでは、ベースとなる音やキータイプの音などを切り替えられるほか、最初から自動演奏にすることもできるため、指先に自信がない場合でもラクに進めることが可能です。また、演奏パートでのスコアが記録され、ユーザー登録すればインターネット上でスコアを公開することもできます。

 トップメニューからは「Album」に入ることができ、見たグラフィックがサムネイル表示されます。また一定のエンディングを見ると「Music」に入ることができます。

 基本的に操作性は快適で、ストレスを感じることはありません。ただし、自動演奏モードに設定していても、演奏そのものをスキップすることはできないため、リプレイにはやや時間がかかります。また、イベントの切り替え時などには「Now Loading」と表示されて待機する時間が長いのが残念。

サウンド

 サウンド担当は「岡崎律子」氏で、44KhzのPCMで再生されます。BGMのバリエーションは比較的多いものの、各キャラクターごとの曲ごとのメリハリがやや強すぎた観があります。しかし、ピアノ曲をメインとしてしっとりしたサウンドが多く、かなり水準が高いものになっています。ヴォーカルの弱さがやや気にかかりますが、演奏がメインと考えればこれも悪くはないでしょう。

 音声は、主人公以外フルボイスです。どのキャラもなかなかよかったと思いますが、個人的にはフォーニのにゃあ!がツボにはまりました。

グラフィック

 キャラクターデザイン担当は「しろ」氏。タレ目系のキャラ絵で、キャラごとの区別がみごとにつきません(苦笑) 照れたときの表情(特にフォーニ)がかわいいですが、一方で色気のかけらも感じられない絵ともいえそうではあります。

 背景画像はまずまずといったところでしょう。むしろ、多くの場面で雨が降っていたり、フォーニの羽がぱたぱた動いたりなど、細かい画面設定に凝っています。

お気に入り

 お気に入りキャラを1人あげるなら、フォーニとファルが横一線かな。フォーニの正体は一回最後までプレイすればバレバレなんですが、それでも主人公が/主人公を受け入れていく姿がよろしい。ファルは中盤までの正統的ヒロイン像をいったんぶち壊せる心意気がすごい(好みがハッキリわかれそうですが)。

総評

 全体の雰囲気作りと、各ストーリーの内部の構成は悪くありません。序盤から中盤がやや平板であるため、もともとゆったりと時が流れていくことも相まって、ややもすればだれがちになってしまうのが残念ですが、流れはまずまずつかめる出来になっています。

 その一方で、主人公の悩みとヒロインの悩みとが必ずしもきちんとリンクしていない点は、大きな問題です。また、各ストーリーごとの組み合わせのバランスがやや悪く、トータルで見た場合にキャラクター相互間の相対的な位置づけが把握できないというのも、よろしくありません。

 キャラクターの使いかたがなかなかに興味深く、キャラゲーとして話をうまく転倒させるのはみごとです。深く突っ込んで考えていくというよりは、その場で醸し出される雰囲気からキャラの心情を読み取りつつ、少しずつ得られた雰囲気をレイヤーのように適宜重ねながら新しい雰囲気を作っていくという楽しみ方ができます。登場人物たちの動きやぶれといったものを感じ取っていくのが好みという方にお勧めできるでしょう。

個人評価 ★★★★★ ★★★★☆
2004年4月6日
(4月20日、加筆・修正)
Mail to:Ken
[レビューリストへ] [トップページへ]