春萌 ~はるもい~ LOVERSOUL

2006年4月14日発売
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 長期のインターバルから復帰、といえばきこえはいいのですが、何か新しめのゲームをやってみようと、実に5ヶ月ぶりにゲームショップに入ってみました。しかし、何が最新作なのかどれが話題作なのか、さっぱり検討がつきません。こうなると、パッケージに描かれているキャッチコピーやグラフィックを見て、あとは“えいやっ!”と決めてしまうことになるのですが、過去の作品を知らないままに購入するのは非常に危険であることを忘れていたのは、まことに迂闊でありました。

 ゲーム開始直後、4画面目にいきなり「一族の棟梁」なんてフレーズがでてきましたが、こんな変換をするFEPがあるのか、などと思いつつ、ひとまず最後までコンプリートすることはできました。どうでもいい話ですが、主人公、大学のことをさかんに気にする一方で、受験勉強からの解放感をまったく感じていないのはなんででしょ。

シナリオ

あらすじ

 親戚の葬儀に伴い、5年前まで住んでいた故郷、北海道は能都萌(のともい)に帰省していた主人公。この4月から、東京の大学に入学する予定となっていた彼は、近々行われる祭の準備に忙しい叔母の灰音さんに引き留められ、藤川家にしばし逗留することになった。藤川家のすぐ向かいにある商店の看板娘で幼なじみの淡雪、神社では不思議な言動をする沙緒といった女の子がいた。彼は故郷でどのような春を迎えることになるのか。

 脚本担当は、夏場薫、水月紅葉両氏。

社会性のないコミュニケーション

 主人公とヒロインとの会話を眺めていて――参加しているという意識にはなれませんでした――思ったのは、あくまでも一対一の関係に終始しており、主人公はあくまでも自分を中心とした世界でしかモノを見ていない、ということ。これは、よい悪いとは関係なく、人間関係の座標軸に「そこにいる自分」を据えるか「自分がいる立場」を据えるかにおいて、前者にウェイトが置かれている、ということです。

 しかし、これは「田舎風ノベル」としては致命的ではないでしょうか。北海道の過疎地という、内地における“田舎”とは根本的に異なる世界――開拓地ベースの風土はやはり内地のそれとは異なります――とはいえ、都市部において生活している「日常の自分」との対比がそこかしこに出てくるのは自然なことです。それはよいのですが、単純に「自分」のみを軸として考えてしまい、自分が置かれている立場、自分を取り巻く人々の社会的関係をさして顧慮していないのはいかがなものか。オープニングが終わるとあっという間にフェードアウトしてしまう親戚関係を見ればわかるとおり、主人公はすっかり“都会化”しているのですが、その部分に関する当惑などはまったくありません。彼は、自分の生まれ故郷に戻って、この程度にしか感じるものがなかったのだろうか、と思わざるを得ません。

 これとシンクロさせるかのごとく、沙緒にしても淡雪にしても、自分の立ち位置に関する認識が、明らかに都市民のそれに留まっているのは、さらに大きな問題でしょう(りるけについてはよくわかりません)。沙緒は両親をベースとした人間関係の欠損個所を主人公へ依存しており、いわば家族関係を越えた帰属意識をうかがわせていません。淡雪もまた、現状に対する不満の根本に主人公との関係をもっており、そこには地縁的なものを含めた帰属意識がかけらも感じられません。淡雪など、都会への憧れを口にしつつ、大学への進学先が東京や京都ではなく札幌(それも第一志望)という屈折したところを見せており、興を引かれたのですが、結局は確固たる理由があったわけではなさそうです。

 また、ときおり出てくる主人公の独白の中に、自責の念が入ったフレーズが見られるものの、これらに血肉が伴っているとはとうてい見えません。自分の抱いている観念に酔っている若者の戯言程度のものです。この戯言をして、ゲーム内における心象を表現しようとしているフシが見られますが、とうてい果たしえていません。

 このほか、叔母である灰音さんがフォローしていたという面こそあれ、近隣の人との接触が帆村家をのぞいて皆無というのも首をひねったのですが、これは「北海道だから」で説明することが一応可能ではありますね。ちょっと苦しい気もしますが。

らぶらぶでいいのか?

 「恋物語」であるということを前提にすると、主人公とヒロインの関係が軸になるのは当然といえば当然。そこにハッピーエンドが用意されているのはごくごく当たり前のことでしょう。しかし、このゲームをプレイしたときには、果たしてその「ハッピーエンド」は当たり前なのか、そこで得られた結果はほんとうに佳きものであったといえるのかと問われると、疑問が残ります。

 淡雪の場合、告白なりキスなりセックスなりといったイニシエーションを介するのはいっこうにかまいません。しかし、これらは相互依存状態になるための要件にこそなれ、それを保証するものではありません。むしろ、そういった儀式を経てもなお、別れていた間の変容を再認識することはじゅうぶんにあり得るはず。伸ばしていた髪を、その長いままにしておくままで、それまでの恋愛感情をキープできると結論づけておしまいにしてしまっていますが、別離を介しての再会のもたらす意味が、際限なく矮小化されています。お互いが好意を抱いても、それだけでは恋人になれるわけではない――東京、札幌、そして過疎化の進む地方(……にも見えない描写が多々あるのが困りものですが……)という「文化的三角関係」を体現しうる主人公と淡雪のカップルの場合、そういう結論のほうが物語として美しいと思ったのは、私だけでしょうか。

 沙緒についても、心情を受け止めてくれる相手としての主人公に惹かれたという以上の要素が読み取れない以上、長期的に付き合っていけるのか、少なからぬ疑問があります。単なる萌えラブものであれば「これでいいのだ」で終わりでしょうが、ひねくれた扱いにしている人物の行動理由を単純化するのは、魅力を減殺するものにほかなりません。

世界をつくる言葉の非力さ

 これは、沙緒と淡雪の会話文で特に感じたのですが、さっぱりわからないフレーズが多発されており、前後からの類推も難しいところも散見されたのはいかがなものか。主人公=プレイヤーに対して意味を把握させにくいことを意図しているとも思えず、単に流れを阻害しているだけの結果になっています。プロトコルなくして通信はできないのですが、私の理解できる階層とは異なる次元でやり取りされても……。概して、会話文(あえて“会話”とは区別します)で用うべからざる表現が安易に多用されている観が否めません。

 また、主人公と信司が話を交わすシーンでは、男2人(=ノーボイス)で口ぶりにクセがあまりないということもあって、それぞれのセリフをどちらが話しているのかわからなくなるケースがありました。ノベル形式の会話文で、どれを誰が話しているのかが瞬時にはわからないのでは、テンポが損なわれることおびただしく、もう少し工夫してほしいものです。

弛みを感じさせるテキスト

 会話文にかぎらず、どうにもテキスト表記が冗長に思われました。

 用語表記の揺れも気にかかりました。漢数字と英数字が混在していたり、開いたり閉じたりという基本的な部分での統一がなされていないのは、テキストの露出が大きいビジュアルノベルであることを考えると、許容範囲を超えているように思われます。また、誤字や誤変換はさておき、脱字が数個所あったのはいったい…。

ここはどこ?

 舞台は北海道、それも北空知の田舎町ということになっています。「能都萌」という名前から、モデルとなっているのはNHKの連続ドラマ小説「すずらん」の舞台となった「明日萌」、実地名でいえば雨竜郡沼田町恵比島地区で間違いないでしょう。同地区は北空知地区随一の出炭地帯であり、ゲーム中には、炭鉱の閉山に伴い過疎化が進行というフレーズがあったこととも符合します。ただし、ゲームに出てくる能都萌駅は、ロケで使われた「明日萌」駅(沼田町公式Webサイトを参照のこと)のものとは異なります(モデル駅は不明)。

 しかし、どうにも「これは本当に北海道を描写したのだろうか」あるいは「これでどうやって田舎と判断できるのだろうか」と思わせる記述が多い多い。私は、春の北海道を訪れたのは1回だけで、住んだことがあるわけではありませんが、それでもかなりの違和感を抱かせる描写が見られました。具体的には下記のとおりです。

 ……まだまだあったような気もしますが、すぐに思い出せるのはこんなところです(ほとんど淡雪ルートベースのような気も)。道民からのご意見をいただければ幸いです。

キャラクターの名前

 「りるけ」の母親が「灰音」というのはちょっと…。元ネタは確かにわかるのですが、残り2名は「沙緒」(これで「すなお」と読むのもまた難しい)と「淡雪」であるだけに、浮いています。どのキャラの名前も、けっして平凡なものではないだけに、何らかの共通性を持たせてほしかったのですが、これら4つの名前には、そういったものはなさそうです。

 ここにも、各キャラが分断された存在にとどまっていることがうかがえます。本当に「田舎純愛ノベル」なんでしょうか。

矛盾点盛りだくさん

 キャラ紹介の中で、3ヒロインのネット環境が出てきますが、これに関する話題はゲーム中でまったくでてきませんでした。ADSL環境の淡雪がいちばんITリテラシーが高いという意味があったのかもしれませんが、それにしてはエピローグでの連絡が手紙のみ、メールのやり取りがほとんどなかったらしいというのも不自然な話。

 どうも、伏線を回収しないという以前に、全体の整合性に関してあまりにも無頓着なストーリーになっていました。このほか、淡雪の進学先と灰音さんの出身校が同じはずなのに何の記述もないとか、淡雪とのやり取りであった携帯電話の電波状況に関して明らかに矛盾しているとか、とにかくツッコミどころが多すぎるので個別の話題については取り上げませんが、上記がいちばん印象に残ったものです。

ゲームデザイン

 数個所に選択肢が出てきますが、どの選択肢が誰に該当するかは一目でハッキリわかるので、難しくもなんともありません。なお、沙緒と淡雪をクリアすると、途中で出現する選択肢が増えます。

 攻略に頭を悩ませる必要は皆無なので、分岐してからは個別ルートをひたすら進んでいきます。大枠では共通となるイベント(温泉など)もありますが、いつしかそれもフェードアウトしていくという形になります。

不具合・修正ファイル

 特に不具合などは確認されていません。

デモ・体験版

 デモ、体験版、サウンドが協力Webサイトで公開されています。体験版では序盤の共通ルート部分がプレイできますが、ラブラブパートには入っていません。会話のノリや設定について気にかかるかどうかのチェックのためにも、ひとまず体験版をプレイしてみることをお勧めします。

操作性など

 メディアはCD-ROM2枚組で、対応OSは、Windows98/Me/2000/XPです。ただし、WindowsMeについてはサポート対象外ですとのこと。フルインストール時に必要なHDD容量は約1GBで、プレイ時にはCD-ROMは必要ありません。なお、セーブデータは「マイ ドキュメント」フォルダ内に自動作成されるサブフォルダ「春萌 セーブデータ」内に保存されます。初回限定版には、原画などを収録したブックレットが付属しています。

 ゲームを起動すると、下部に「物語をはじめる」「続きから」「CG鑑賞」「音楽鑑賞」「シーン回想」「終わる」のメニューが表示されます。画面中央には、当初は能都萌駅、誰か1人をクリアすると直前にクリアしたキャラのCG、コンプリートすると全員が揃ったCGが表示されます(灰音エンド未クリアで主要3エンドクリア時の表示については未確認)。

 画面はグラフィックが800×600全画面表示で、ウィンドウ表示とフルスクリーン表示を切り替えられます。グラフィック上にテキストが表示されるビジュアルノベル方式ですが、表示方法にはもうひと工夫ほしかったところ(「グラフィック」欄にて後述)。メインで表示されるメニューは「システム(→自動的に読み進む/終了)」「画面(→ウィンドウ表示/フルスクリーン)」「ヘルプ(→目次/このソフトについて)」のみという素っ気ないもので、その他のメニューは画面下部にカーソルをあわせることで表示されます。メニューは「SAVE」「LOAD」「Q.SAVE」「Q.LOAD」「LOG」「SYSTEM」「AUTO」「BACK」で、内容は読んで字のごとくですが、このうちわかりにくい「BACK」は、ゲーム中のセンテンスブロックの先頭部分に戻るというものです。「SYSTEM」メニューでは、画面モード切替、エフェクトのON/OFF、スキップの既読/全部、メッセージ速度調整、オートクリック速度調整、背景濃度の調製、ボイスの音量調整が可能です。また、タイトルメニューに戻ることもできます。

 メッセージ送りは、マウス左クリック、マウスホイール順回転、Enterキーないしスペースキーで行います。

 セーブ&ロードは、任意の位置で60個所まで可能で、セーブ時の実日時、ゲーム中の日付、ゲーム中のイベント名が記録されます。このほか、クリックセーブ/クイックロードも備えています。前述のとおり難易度は低いのですが、それなりに長いので、ある程度のセーブは必須かもしれません。

サウンド

 BGMにはピアノ曲が多く使われていましたが、特に印象に残るものではありませんした。プロローグ終了後に流れるデモムービーおよびエンディングにはボーカル曲が使われていますが、歌以前に歌詞がどうにも。ゲーム中では、舞台としてハッキリ「北空知」と書かれているのに、曲の中では石狩平野の東側って、そりゃないでしょ。歌詞をつくったあとで設定が変わったのかもしれませんが、ここでいっぺんにズッコケてしまいました。

 音声は、3主要キャラ+灰音さんのみがフルボイスです。演技の巧拙については及第点以上と感じましたが、やや音質が荒れているように思われました。個人的には灰音さんのイタズラっぽい声がなかなか決まっていたと感じます。

グラフィック

 原画担当は、はいおく、菜然しかな両氏。首から肩周りにかけて、なんだか窮屈な印象を受けます。あと、りるけの立ち絵で、ネギを振り回しているのはどうかと思うのですが。

 ゲーム中におけるキャラクターの表情変化はそれなりですが、テキストが画面にかぶさるうえ、基本的に立ちグラのサイズがメッセージウィンドウ方式のものと同様なので、眉根を寄せる程度の小さな変化ではわかりません。ビジュアルノベル=ボディランゲージを交えた大振りな変化、というのが定番だと思っていたのですが。一応、テキスト背景のコントラストを変更することはできますが、明るくすると文字が読みにくくなるので、これも困ったもの。

お気に入り

 あくまでも会話相手というか、茶飲み友達的な立場限定ですが、灰音さんとのエロトークがなかなか楽しくてよろしい。家族にいると楽しいですが、親族としてこういう人がいることについての判断は保留します(笑)。

 主要3人で限定すれば、淡雪になるかな。曲がりなりにも、自分で考えているので。沙緒は、会話はともかくとして、実際には何も考えていない(考えることができない状況になっている)ように思えるのが減点。

総評

 なんだか、淡雪シナリオに対するツッコミばかり書いてきたような気もしますが、逆にいえば、それでも読む気が最後までもったのがこのルートのみで、あとは流してしまったというのが実情です。

 田舎という舞台を活用できていないのはある程度仕方ないと割り切ることもできるのでしょうが、中途半端なリアリティを入れた結果、ちっとも北海道らしくも田舎らしくもない世界になってしまったのが、何とも痛いところ。このため、個別キャラの世界のみに依存したストーリーになってしまっています。

 どうにも中途半端な作品、と評するのが妥当と考えます。

個人評価 ★★★★★ ☆☆☆☆☆
2006年5月1日
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