遙かに仰ぎ、麗しの PULLTOP

2006年11月24日発売
 

 豪華そうなパッケージに目を引かれたものの、発売当初は特に手に取ることもなかったのですが、その後複数の人からボリュームある内容についてあれこれと耳にしてプレイしたしだいです。実際、テキストのボリュームはかなりのもので、スキップせずに読み込んでいくとかなりの時間がかかりました。

※このレビューは、初回限定版(サントラCDおよび小冊子同梱)のプレイをもとに書いています。

あらすじ

 日本有数の超お嬢様学校として知られる「凰華女学院」の分校に新任教師として赴任したのが、大学を出てすぐの滝沢司(固定)。人里離れた半島にある分校で呆然とした司を出迎えてくれたのは、学院の諸事を取り仕切っているメイドさん。広大な敷地とごく少数の女生徒のみから成るこの学院は、彼がそれまで抱いてきた学校のイメージを覆すような存在だった。彼は教師として、教え子たちとどのように付き合っていくことになるのか。

 シナリオ担当は丸谷秀人、健速両氏。

ゲームデザイン

 選択肢によって分岐し、エンディングが決定されるアドベンチャーゲームで、6人のヒロインに対して1つずつエンディングが用意されています。

 最初に出てくる選択肢によって「本校系」「分校系」の2つのルートに分かれ、それぞれ3つずつのシナリオに分かれています。分校系と本校系では、基本となる舞台こそ同じであるものの、主人公の性格付けや行動パターンなどをはじめとして、ストーリーの構成からHシーンの数にいたるまで大きく異なっています。2つの異なるシナリオを1つの舞台でまとめたゲーム、というのが適切かもしれません。

 「本校系」では、凰華女学院の本校に入学しながら、諸般の事情で分校に移ってきた少女たちがヒロインとなります。選択肢はわずか2つしかなく、難易度はなきに等しいといえます。いっぽう「分校系」では、最初から分校に入学してきた少女たちがヒロインとなります。中盤までは基本的に共通ルートとなり、選択肢に応じてエンディング対象が決定されますが、狙いを定めていけばさほど難易度は高くないでしょう。いずれも、各ヒロインのルートを最後まで進めればコンプリートとなります。

シナリオ

一粒で二度?

 このゲームをプレイして誰しも気にかかるのは、本校系と分校系とでシナリオに大きな違いがあることでしょう。具体的には、主人公の思考や行動のパターンは、本校系はひたすら前向きで、なおかつ(少なくとも第三者的には)ムダにしか思えない努力を重ね、いつしかその周りに人が集まってくるタイプ。いっぽう分校系は、周囲の環境に順応しようと努めるもののなかなかうまくいかず、かといって責任転嫁するわけでもなく自分のできる範囲内で行動する、目立たない堅実派タイプとなっています。どちらがよい、悪いというものではありません。両系統の中ではそれぞれ一貫してはいるのですが、主人公はプレイヤーの分身といえる立場であるため、この双方が入り乱れるとゲーム世界があまり面白いとは思えなくなりそうです。

 主人公はいちばんわかりやすい違いですが、ストーリーの中で解決する対象および結論も、本校系は「ヒロインの成長、そして主人公とのささやかな関係の維持」であり、分校系は「ヒロインの解放、そして学園に潜む問題の解決」と大きく異なります。詳細を語るのは野暮な話なので控えますが、主人公が主体的に関わるか否か、そして主人公を取り巻く登場人物たちの役回りがどのようなものか、凰華女学院分校という場所を単なる舞台にするか問題解決の対象とするか、などなど、ストーリーの軸となるべき点で、両者はパラレルな関係にあるとさえいえます。

 繰り返しプレイしていくうちに、両者の相違を振り返ってみるとおもしろい、とも思えましたが、やはりユーザーフレンドリーな設計になっているとは思えません。“一粒で二度おいしい”という効用以上に、混乱というデメリットのほうが大きいように感じます。

本校系 ―― 大きな主人公と小さな解決 ――

 本校系では、マイペースでいつもふらふら出歩いている不思議系少女、極度の対人恐怖症の少女、小さい身体で理事長代理という役職を持っている少女の3人が攻略対象となります。理事長代理ルートでは彼女に仕えるメイドさんと接触する機会が非常に多いのですが、彼女単独のエンディングがないのはたいへん残念。

 いずれもヒロインが持っている個人的な課題を、主人公がそこへ踏み込んでいくことで解決するという流れになっています。主人公は思いついたら少年の瞳になりつつすぐに行動へ移るタイプになっているうえ、ヒロインとの関係がギクシャクすることがあっても、その周囲の人物たちとの信頼関係を基に、心の壁を打ち砕いていくものになっています。

 特にこれといって超人的な能力を持っているわけでもないのに、いつの間にか人を惹き付けてしまうという主人公は、ヒロインたちとの恋愛ものとしてはいわば反則的な存在ともいえます。主人公が接することの多いキャラがそのままエンディング対象となったというだけで、誰からも信頼される中でどうしてそのキャラがヒロインになったかという点については、ヒロインサイドの心理描写を丁寧に行うことで説明しています。ややくどいという観がないでもないですが、説明の手法としては悪くないでしょう。

 その一方で、主人公が魅力的なキャラという位置づけになっている一方、隔離空間といえる学院に内在する問題については手を加えず、個別ヒロインとの関係のみで話が終わっているのは、身の丈にあった解決のみで終えていて望ましいと見るか、はたまた一人のヒロインにのみ目を向け教育機関の一員であることに目を向けていないのが不自然と見るか。分校系と比較すれば後者の評価に説得力がありますが、私は前者の評価が妥当と考えます。

 しかし、クライマックスまでの流れがどっしりした安定感をもっているだけに、最後の締めがあっさりしているため、プレイヤーに与える満足度が控えめになっている面も否めません。解決するのが精神的な問題にとどまっており、社会的な問題(最初からこれが存在しない梓乃は除く)に手を加えていないことが、その大きな原因でしょう。一人ができる範囲など限られているのはわかりますが、もう一工夫ほしかったと思うのは、望みが高いでしょうか。

分校系 ―― 蟷螂の斧か嵐を呼ぶ男か ――

 いっぽうの分校系では、規律正しく自分にも他人にも厳しい少女、好奇心旺盛かつ活動的な元気少女、いつも温室で植物の世話とお茶の準備をしている大人びた少女の3人が攻略対象となります。

 こちらは前述のとおり本校系とは異なり、主人公は風采の上がらない気弱な新任教員に過ぎず、生徒たちに引っ張り回されて疲れたりと、どうにもパッとしません。決して後ろ向きのウジウジ型というわけではないのですが、頼りになる雰囲気などはまったくないといえましょう。このため、恋愛関係も信頼の延長になるものではなく、むしろ精神的に参っているヒロインが主人公に頼っていったという色彩が濃厚です。

 また分校系シナリオが本校系のそれと最も大きく異なるのは、主人公が対峙する“学院”そのものが描かれている点でしょう。分校系では、ヒロインたちが抱えている問題に対して踏み込んでいくと、その行動が今度はヒロインや周囲の人間を少しずつ動かしていき、その背景にある問題が見えてくる、という流れになっていますが、ヒロインとの関係は物語の中では結果(下流)という位置づけになっており、その背景ないし原因(上流)には学院という舞台の大いなる矛盾があることを隠していません。これによって、主人公の動き(ポジティブな「行動」に限定されません)の効果が、意外な形で知られざる面を照らすことになり、結果として学院ないしその背景にある大きな問題を解決することになります。

 カリスマ性などカケラもない主人公ゆえ、その周りに自然発生的に女の子が群がるというわけでは決してありません。分校系の生徒たちは本校系以上に深刻な問題を抱えている少女たちばかりという設定ゆえ、その少女たちの潜在的なエネルギーを、主人公が触媒となって放出させるという形になっていますが、これはこれでスマートな叙述だといえましょう。実際には、単なる蟷螂の斧だったところ、気が付いてみたら舞台が大きく動いてしまい、結果として主人公が嵐を呼ぶトリガーになっていただけ、と評するべきかもしれません。

 なお、全体の雰囲気に影響を及ぼすものではないのですが、言い回しが妙に大仰だったり、時代がかったものだったりしたような気がします。

不具合・修正ファイル

 特に不具合などは確認されていません。

デモ・体験版

 PULLTOP公式Webサイトおよび協力Webサイトにて、体験版、デモ(2バージョンあり)などが公開されています。体験版ではゲームの序盤をプレイすることが可能です。

操作性など

 メディアはDVD-ROM1枚組で、対応OSは、Windows98/Me/2000/XPです。インストール時に必要なHDD容量は約3.7GBと大きめですが、プレイ時にはDVD-ROMは不要です。

 ゲームを起動すると「最初からはじめる」「本編からはじめる」「続きからはじめる」「記念アルバム」「環境設定」「ゲームを終了する」のメニューが表示されます。「環境設定」では、画面表示、テキスト速度、音楽・ボイス、カーソル制御、バックグラウンド動作などの設定ができます。

 「記念アルバム」からは、CGモード(サムネイル表示)、Hシーンモード(同)、サウンドモード(曲名から選択)に入れます。このHシーンモードを見ると、本校系と分校系でこの部分の量がまったくのアンバランスになっていることが一目でわかります。

 ゲームのプレイ中は、下部に半透明のテキストが配置され、その下にクイックロード、クイックセーブ、ロード、セーブ、バックログ、自動テキスト表示、スキップ、コンフィグの各メニューが配置されます。セーブ&ロードは最大100まで任意の場所で可能となっており、セーブ時の縮小画面、セーブ部分のパート名、実日時が表示されます。

 さほど多くの機能があるわけではないですが、スマートなつくりになっているといえましょう。

サウンド

 BGM担当はファクトリーノイズ&AG。お嬢様学校というフィールドにあわせ、全体として上品な雰囲気になっています。場の空気を伝えるのにマッチしたサウンドと感じました。

 音声は、主人公を除いてフルボイスとなっています。演技は全体として高い水準に感じましたが、もともと耳のほうがさしてあてになるものではありませんので(^^;

グラフィック

 原画担当は、藤原々々氏。アップになった立ち絵がかわいい印象を与えます。

 いちばんもったいないと思えたのが、主要キャラ以外の立ち絵が非常に少なく、影も形もないまましゃべり続けるキャラが非常に多いこと。具体的には、美綺父、ワンボ、坂水先生、双子の姉妹などですが、彼ら彼女らの登場がずいぶん多いので、寂しく思えます。これは、ストーリーを作っていくうえで細かいところまで仕上げたいっぽうで、絵のほうにまでは手がまわらなかったのではと推測されますが、それでももったいないという印象は否めません。

 背景はかなり丁寧に描かれているのですが、これまたパターンの少なさが気にかかりました。せめて山道のパターンぐらい、状況に応じて変えてほしかったのですが。

お気に入り

 自分の感情を持て余し気味になった状態の殿子がいちばんです。

総評

 本校系と分校系という、毛色の大きく異なる2つのシナリオを1つにしてしまっているため、どうしても比較しながらのプレイにならざるを得ない点が、本作の最大の欠点といえます。甲の瑕疵を乙が補うのであればよいのですが、乙によって甲の欠陥が浮き彫りになることが多く、どうにもちぐはぐな印象がいなめません。また、本校系、分校系の双方を単独で見た場合には、なかなかに細かいところまで作り込まれているのがわかるいっぽうで、ストーリー全体を貫くものが見えにくい(特に本校系で顕著)なのも難点です。

 こういった欠点があるとはいえ、学園恋愛ものとしてあまりなかったストーリーを敢えて作り、個別のヒロインについてもそれぞれの存在感を十二分に示すのに成功している点は、高く評価できるでしょう。佳作ではありますが、その魅力を示すのには成功していない、そんな作品と評しておきます。

個人評価 ★★★★★ ★★★☆☆
2007年5月14日
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