ピアノ ~紅楼館の隷嬢達~ 高屋敷開発

2006年8月11日発売
ご意見などは掲示板へどうぞ

 私にとって調教モノというのは、特に好きというわけでもなければ嫌いというわけでもないジャンルで、したがってプラスアルファ的な要素がなければさして気にすることはないのが通常です。このゲームも、パッケージの女の子がみんな薄着であるという一方で理性は残っているような描き方で、ビジュアル的にそう引かれるものがあったわけではありません。しかしそれでも気になったのは、パッケージ裏にあったヒロインの名前。林黛玉だの李香蘭だの、ちょっとあんたたちナニやってんのよ的なツッコミを入れたくなり、好奇心が先立って思わず買ってしまいました。

 ストーリー的な部分はどちらかというと二の次で、キャラの使い方、そしてゲーム性(ゲームデザイン)に注目して購入したしだいです。

《注》林黛玉は、清朝の長編小説『紅楼夢』に出てくるヒロインの名前。いっぽう李香蘭は、太平洋戦争期の満州で活躍した日本人女優で、戦後は日本で生活、今でも健在です。

シナリオ・ゲームデザイン

あらすじ

 両親を事故で失った高城匠は、妹とともに、叔父の暮らす香港へ移る。ここで匠は叔父から、自分の父親が、女奴隷を調教する「調律師」であり、匠にもその血が流れていると説明される。彼が身を寄せた「紅楼館」にいる少女たちを、彼はしぶしぶながら調教していくことになる。その行く末には、どのようなエンディングが待っているのか。

 シナリオ監修は山田一氏、シナリオ担当は万馬拳氏。

ラフデザイン

 主人公は特に監禁されているというわけではなく、ただ最愛の妹とともに路頭に迷うのを避けるため、叔父の元に身を寄せています。またその後も、彼は館から出て行くことについては、特にとがめられてはいません。単に、食べていくために館に残っているわけです。

 ここには、館を仕切っている叔父(調律師としては引退)、主人公にとって手ほどき役ともいえる林紅玉、高城に託された少女2人、そして下働きの娘1人がいるという構図になっています。

 選択肢の数はさほど多くはなく、ターゲットにロックオンしていけば、さほど難しくはないでしょう。なお、基本的なエンディングをすべて見ると、ハーレムエンドにいたることができます。攻略はさほど難しいほうではありません。

 調教のパターンはいちおう毎回異なっているので、イベントシーンの使い回しということはありません。それでも“作業”感がつきまとってしまったのですが、これは私が枯れてきたせいか、それとも話に期待をもてなくなっていたせいか。

原作(?)のおもかげはいずこに

 舞台となるのが「紅楼館」とあり、これもまた『紅楼夢』からとられていることは容易に想像できることです。このゲームにおける林黛玉は屋敷の下働きで親に見捨てられ誰にも不必要とされてきた(メーカー人物紹介より)という存在です。『紅楼夢』のヒロインである林黛玉は、華奢で病弱ながら芯が強く意地っ張りですが、ひとまず天涯孤独というのは同じ模様。さて、どのように扱われているかと進めてみましたが…。

 誰ですか、これは。

 話が進んでいくと主人公になびいていくのはわかりますが、才知を尽くして語るでもなし、高いプライドと嫉妬に苦しむでもなし、むしろ奴隷根性丸出しの存在として描かれています。どこから見ても、薄幸の才媛などという雰囲気はなく、単なる捨てられた娘としてしか扱われていません。

 なにを持ってこのヒロインに、林黛玉なる名を与えたのか、私にはさっぱりわかりませんでした。『紅楼夢』の全文を読み込んだわけではないので断定はできませんが、「中国のヒロインとして有名な名前」をただ当てただけ、という気がしてなりません。

政治的メッセージと不可避な存在も…

 いっぽうの李香蘭については、私は元ネタたる女優・李香蘭についてそう知っているわけではありません。もともと映画に対してそれほど興味がないこともあり、その存在が日中間で微妙なものであったことや、そして戦前および戦時中のニホン――国家としての日本ではなく民族的社会的グループとして――に動かされることによって最大限の輝きを得たということなど、いわば“教科書的”な知識しかありません。

 それでも、21世紀の日本においてこの名前が出されるのであれば、そこにはどうしても政治的なメッセージが込められると感じるのが自然でしょうし、現状の国際政治に対してどういうスタンスを取るにせよ、現実を見るかぎり間違いないことと考えます。ましてこのゲームでは、主人公は日本人、舞台は香港、李香蘭は中国人という複雑な設定になっている以上、非常にデリケートな存在であると期待するのが当然でしょう。

 ところが、彼女の存在理由に対する問いは、彼女の出自である“家”から一歩も出ることがありません――これは、彼女と対極的な位置に置かれている「エリザベス」も同じ――。そこには、大東亜共栄圏のスタアとしてその名を知らしめた国際性など欠片も投影されておらず、極小化された目に見える人間関係以上のものは込められていません。

 あるいは、本作の“李香蘭”は、彼女が出演した何らかの劇中ヒロインをモデルにしているのでしょうか。しかしそれなら、そのヒロインの名前をとるのが筋というものでしょう。

 いずれにせよ、この李香蘭もまた、なぜそのような名前になったのか、さっぱりわからないままになっています。彼女が薛宝釵とでもいうのなら、まだわからないでもないのですが(くどい?)。

お手軽調教

 さらに、この物語の中で使われている「調律」なる作業が、ずいぶんお手軽なことも、話を軽いものにしています。ここでいう“お手軽”というのは、気楽という意味ではなく、さほどの労力と時間を必要とはしない、という意味です。

 少女たちをいろいろと仕込んでいくとはいうものの、その“仕込み”の回数は決して多くはありません。セックスの技術ひとつとっても、主人公は紅楼館にくるまでその経験が皆無で、それでも「血」だけで説明可能な形で「調教OK!」というのだから、ずいぶんと安易です。これだけで「仕込み」もナニもないでしょう。その一方で、香港で巨大な邸宅を維持するだけの礼金を受け取ることができるというのですから、これはまたおいしい職業ではあります。

 ヒロインたちの人生を大きく変えてしまうことには変わりないのですが、人格を都合よく変えてしまうに足るだけの時間と労力をかけているとは、とうてい思えません。悲壮感をいたずらに増すのは感心できませんが、かといってこのゲームの叙述だけでは、手抜きと評されてもいたしかたないでしょう。

おざなりなお話

 いちおう、このゲームの軸となっているのは、調教というものを通して女性たちを身も心もその下に置くことにあるのでしょう。そのためには、特定人対特定人の関係が必要、いいかえればユニークなパーソナリティの相互関係を確立することが不可欠です。しかし、その一方を担っている主人公の立ち位置がきわめて不明確であるため、少なくとも“相対的な関係”が確固たるものとなっている妹の美羽をのぞけば、上滑りの描写になっています。

 ゲーム中では、自分の意思で行動し、主人に尽くすことが奴隷に求められている旨の記述があるものの、日々の調教にしてからが、そういったものを求めるものとはほど遠く、最大限の快楽を引き出すようにしか見えず、おためごかしもいいところ。

 展開そのものにもドラマティックなものがほとんどなく、放置されていた布石を回収しながら全体をまとめておしまい、となっているのが実のところ。サスペンスとしてみてもあまりにチープで、やっと終わったか、という以上の感慨はわきませんでした。

不具合・修正ファイル

 特に不具合などは確認されていません。

デモ・体験版

 デモ、体験版が協力Webサイトで公開されています。ただし私はいずれも未入手です。

操作性など

 メディアはCD-ROM2枚組で、対応OSは、Windows98/Me/2000/XPです。フルインストール時に必要なHDD容量は約750MBで、プレイ時にはCD-ROMが必要となります。

 ゲームを起動すると、下部に「はじめから」「つづきから」「回想」「環境設定」「終了」のメニューが表示されます。「回想」からは、CGモード(サムネイル表示)、シーン回想、音楽再生が可能です。「環境設定」では、画面表示サイズ、エフェクト設定、スキップ設定、メッセージ速度設定、サウンド/ボイス設定が可能です。画面はグラフィックが800×600全画面表示で、下部にメッセージウィンドウが表示されます。

 セーブ&ロードは、任意の位置で50個所まで可能で、セーブ時の実日時、ゲーム中のイベント名、セーブ時画面の縮小表示が記録されます。このほか、クリックセーブ/クイックロードも備えています。難易度はさほど高いものではないので、すべてを使い切ることはないでしょう。

サウンド

 音楽担当はOn the Clock。BGMにはゲーム名のとおり、ピアノ曲が多く使われていますが、弦楽器なども多く取り混ぜられており、雰囲気はなかなかのものです。控えめながらも、BGMのクオリティは突出したものだと感じました。ボーカル曲はありません。

 音声については、妹(美羽)のカン高い声が妙に耳に残っています。

グラフィック

 原画担当は、肥後正国氏。どことなく眼に生気が乏しい印象を与えますが、これは女奴隷を描くという話の流れ上、むしろ自然のことかもしれません。それより、アゴがみな妙にとがっていたり、左右の眼がズレていたりするほうが気にかかりました。あと、シーンによって胸が大きくなったり小さくなったり見えたのは気のせいでしょうか。

お気に入り

 特にありません。もともと「林黛玉」と「李香蘭」に目がいっていたため、あとは割とどうでもいいまま進めてしまったので。

総評

 ヒロインのネーミングから抱いた期待をもってあえなく玉砕したという、比較的珍しい経験をさせてもらったゲームです。いや、こんな経験、したくなかったのですが。ストーリーに深みがある必要はないのですが、せめて各キャラクターの位置づけをもう少し何とかできなかったものか。その点が非常に残念です。

 単純に、いろいろな娘を容易に屈服させることができ、最終的にはハーレムエンドもありというゲームと割り切るのであれば、悪くないのかもしれません。

 ところで、タイトルの“ピアノ”って、何だったのでしょうか? これが、このゲーム最大の謎といえるかもしれません。

個人評価 ★★★★☆ ☆☆☆☆☆
2006年11月24日
Mail to:Ken
[レビューリストへ] [トップページへ]