8月7日の雨宿り

ひろもと弘氏
入手先:GARA-LAND


概要

 ある雨の日、田舎の小さなバスの待合室で偶然出会わせた3人の少年少女。降り止む気配のない雨の中、1つだけ忘れ去られた傘があった。3人が交わす会話は、どんな結果をもたらすのか。

 

 2000/8/15公開。ファイルサイズは1831KB(LZH形式書庫)。動作対象OSはWindows95/98だが、私がWindowsXP環境でプレイしたところ、特に問題は起きなかった。

 一般向けのアドベンチャーゲームで、偶然出会わせた3人の織りなす小さな物語となっている。中途に出てくる選択肢によって分岐する、マルチエンド形式を取っている。画面にテキストが重なるが、全画面に重ねるのではなく、それも3〜5行くらいなので、「グラフィックが見えないぞ」ということはない。

感想

 舞台はあくまでもバス停の中に限定されており、そこから外に出ることはない。ある範囲に限定した物語ということになる。こういうパターンは別段珍しいものではないが、長時間にわたって描写するのではなく、単に「ある場所」が偶然の結果選定され、その中のみで物語を作るのは、シチュエーションのバラエティを考えればなかなかに難しいことだろう。しかしこの物語では、そういった「枠」を逆手に取って、場所の中で考えられる行動や言動などの幅をさまざまに広げているさまがうかがえる。

 

 エンディングの数は16とおりと多い。これらは単にシチュエーションの変化、あるいは各キャラクターを選別した結果で稼いだ「数」ではなく、単独で見れば「どうしてそうなる?」とツッコミを入れたくなるものもある。しかし、多くのバリエーションを用意したことは、むしろ「限られたスタートの条件から多くの分岐が得られる」ことのおもしろさを感じさせる働きをもっていると思う。

 

 さらに、人間関係が「3人」ベースになっていることも注目したい。つまり、1対1という関係になるわけではないのだ。実際にはそうなると連想させる展開もあるが、結局は「3人が1個所に雨宿りしている」というスタイルを徹底して守っている。

 もちろん、その結果として恋愛要素はなくなるし、また「感動させる」ような仰々しい流れが出てくることもない。しかし、「3」というデリケートな数から成るキャラクターたちの関係は、ぎくしゃくするのがいわば必然であるがゆえに、むしろ非常に興味深いものになっているといえる。「8月7日の雨宿り」では、この「3人」のキャラクターが、それぞれ微妙なバランスを取る複数シナリオを作る上で、欠かせない要素となっている。

 

 キャラクターの行動パターンを見ると、ややエキセントリックに過ぎたり、妙に意地っ張りになったりするあたりに不自然なところがなきにしもあらずだが、むしろ「ちょっとまとまった小さな空間」におけるバリエーションの幅を考えれば、これぐらいの「動き」があった方が楽しいことは間違いないだろう。

 そしてなにより、このキャラクターたちの行動に、縛られた嫌らしさがあまりなく、「一期一会」であるがゆえに生まれたといえる「素直なあたたかさ」があるのがいい。ちょっとした偶然、ちょっとしたきっかけ。人間関係を規定するものはすべてそう説明することも可能だろうが、その「偶発性に起因する変化」に、人間の「肌の温かさ」が感じられる。的確に表現するのは難しいが、「一期一会」という関係でありながらも、その中で「自分といっしょにいる人」との「コミュニケーション」を取れる、精神的な豊かさと余裕、そんなものがうかがえる。こういう説明をくどくど付け加えるのは野暮ったいのだが、「あったかい」ということが第一印象だったことは確かだ。

 単なる「通りすがりの関係」である以上、そこで出てくる「関係」が濃いものになるという結論は、どうにも「嘘くささ」をぬぐえない。しかし、こういうサラッとした温かさは、「袖振れ合うも多生の縁」という言葉を思い起こさせてくれる。特に仲良くなろうとするわけでもないけれど、でも不思議と「気まずさを解消しようという程度の関係」ができてしまう。さらに、その関係を通じて、各キャラクターがポロッと自分の「何か」を出してしまう。この妙味がいい。

 

 グラフィックについては、ローアングルから「敢えて情報を少なくして」登場人物やモノの配置がうまく出ていたと思う。人や傘からフキダシが出るのもかわいい。女の子2人もそれぞれかわいく描けている。

 

 蛇足ながら、みね美の「ゲームはドリームキャストだし」というセリフには、時代を感じざるを得ない。今なら何になるのだろうか。

まとめ

 ふとしたきっかけが生み出す人間模様のおもしろさ。これを文字で書くととたんにクサくなってしまうのは、ありきたりな帰結へと導く陳腐な展開がはびこったせいだろうが、しかし小さなアドベンチャーゲームで、舞台も登場人物も極度に限定した結果、各人の「体温」を実感できる作りになっている。

 作者の意図と一致しているかどうかはわからないが、ふとしたことをきっかけに人間の「視点」や「見せ方」は変わるものであることを、「あたたかさ」を通じて思い起こしてくれる逸品だと思う。

2002年4月2日


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