雪花 −きら−

tinsmith
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概要

 主人公・斗一は、誰も知る者のない街に引っ越してきた青年。引っ越し当日、飼い猫が外に飛び出たのを追って出た彼は、少女・舞子と出会う。「夜だけ…。夜だけ、ともだちになって」という彼女と、その言葉の真意を知らぬまま逢瀬を重ねる彼。穏やかながらも笑顔の似合う彼女は、しかし暗い“何か”を背負っていたのだ。

 

 2002/4/10公開。ファイルサイズは15.9MB(EXE形式書庫)。動作対象OSはWindows95/98/Meだが、私がWindowsXP環境でプレイしたところ、特に問題は起きなかった。

 選択肢がいっさい存在しない、完全に一本道のサウンドノベル。プレイ時間は30分強で、登場人物は主人公とヒロイン、およびグラフィックのない脇役1人、あと猫のみというシンプルな構成である。Hシーンのある18禁ゲームだが、いわゆる「エロゲー」につきものの安直なエロさはまったく感じられない。

感想

 単一ヒロインである舞子と出逢った主人公の心情、そして舞子の想いが綴られていく形で物語が進んでいく。

 シナリオの背景となっている設定は非常に大まかなもので、またそれらの描写はずいぶんと淡泊だ。しかし、登場人物から「見えている」範囲を過不足なく描きつつ、主人公が得ている情報をその「感情というフィルターを通して」示している。このため、客観的な世界を把握しようとする試みには、さして意味がないものとなっている(否、むしろ野暮なことこのうえないだろう)。これを「幻想的な描写」と書いてしまうのは容易だが、ストーリーじたいを後衛に追いやりつつ、なおかつ最低限の現実感を残している(キャラクターの存在感を確かなものとしている)という手法は、市販ゲームも含めてほとんど類例を見ない。また手の傷、猫、首輪、金魚、浴衣など、要所要所で小道具を配置し、それらのイメージが強烈にプレイヤーに受け取られるため、茫漠とした不安を感じることはなく、物語世界をすんなりと受け止められるものに仕上げている。

 テキストボリューム自体も少ないが、展開を継続させる限界にまで表現を絞っているところなどは、冗長さを排したすがすがしささえ感じる。またテキストそのものは非常にていねいな表現手法がくふうされており、個々の言葉の使い方に対する作者のこだわりがうかがえる。決して多くないテキストに誤字脱字が多少見受けられたのは残念だが、これは目をつぶれる範囲内だろう。

 ところで、舞子が飲んでいたという薬はおそらくは血液なのだろうが、それはどこから用意していたのだろうか

 ヒロインである舞子の造形もなかなかのものだが、あの妙な似非京言葉には「堪忍してぇな」と思ったものである。

 

 エンディングは、「締め」としてどのようにすると美しいものになるかが、キッチリと計算されて出されている観がある(制作者が計算づくで行ったというのではなく、結果として一分の隙もない、という意味で)。どことなくやるせなさを残しながら、むしろ物語世界における調和の結果として、実にすがすがしいものと思える。エンディングの演出にはややあざとさを感じるが、ヒロインの舞子を描くにはこのスタイルでよかったのかもしれない。

 

 グラフィックも非常に美しい。キャラクターの絵柄や背景画像がとてもていねいであることはもちろん、その場のシーンの意味を逐一吟味していることがうかがえるアングルやフレーミングは、秀逸の一言に尽きる。モノトーン調の絵柄とローアングルから幅広くみわたす構図とが相まって、あたかも広角レンズを多用した写真が映画の中で使われているような錯覚に陥る。そんな絵柄をバックとしたキャラクター――そうはいっても、ヒロインの舞子以外のキャラクターとごく一部の主人公を除けば出てこないのだが――の細やかな表情の描写は、テキストで示すことのできない心理の変遷を感じさせてくれる。感情表現が的確であるといったレベルではなく、伝えるべきものを出し過度の情報は抑制しているため、単なるグラフィック技術ではなく「演出としてのグラフィック」として、まことに力あるものに仕上がっている。

 もちろん、木目込人形を連想させるような「黒髪おかっぱの陰のある少女」そのものが、ビジュアル的にもかなりパターン化しているという面は否めず、この点ではむしろ「平凡さ」というハンデを背負いかねない気もする。しかし本作のビジュアルについてはむしろ、一見平凡に見えるキャラデザであるがゆえに、かえって“美しさ”が浮き上がってくる点を高く評価したい。やや色の黒が強すぎてせっかくの原画が見にくくなっているのは残念だが。

 構図やキャラデザ、そして塗りに至るまで、市販ゲームの平均水準を確実に上回っていることは間違いない。

 さらに、BGMのクオリティもかなり高い。1曲あたりの演奏時間は短い(このためシーン内でループすることがある)ものの、ゲームのプレイ時間を考えれば14曲という数は相当に豪華だ。さらに、グラフィックの変化との関連づけが非常にうまくいっており、雰囲気をうまく作っている。

まとめ

 論理の抛擲をもって「想像力」だの「感性」だのと等値に扱いその姿勢を正当化する論があとを絶たないし、それは取りも直さず感性そのものの貧弱化を露呈していることにほかならない。しかしこの作品は、まさにプレイヤーの「感性」に直接訴え、作品世界に対するイマジネーションによって楽しむことができる、希有なものだ。

 ボリューム面での少なさも、むしろコンパクトになっているがゆえに感覚の微細化・散漫化を防ぐ方向に働いているようにさえ思えるが、これは過大評価であろうか。しかし、市販ゲームであれば絶対に不満として出るであろうコンパクトさが認められる点を逆手に取り、作品を小さくすることによって輝きを逆に大きくしていることは確かだ。

 温もりややるせなさを感じさせるストーリーもさることながら、抑制された演出面で傑出した魅力をたたえる逸品といえよう。

2002年11月18日


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